兄は土方十四郎
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兄が大好きっ子(現パロ)
「ただいま〜」
二十歳になって社会に出てから半年。やっと仕事にも慣れてきたというのに、通退勤時の電車だけは今後何年経っても慣れそうにない。
パンプスを適当に脱いでふと、見慣れない靴があるのに気付いた。
お母さんからの返事もないし誰か来客でもいるのかと思いながらリビングへ向かうと、キッチンの台に寄りかかりながら煙草を吸っていたお兄ちゃんと目が合った。
「え、お兄ちゃん?お母さんは?」
「ばあちゃん家行くんだと」
私聞いてないけど、とスーツの上着を脱ぎながら言えば、いや俺も聞いてなかった、と言うお兄ちゃん。
ん、と机の上を見るお兄ちゃんの目線の先には破いたメモ帳にお母さんの字でそう走り書きされていて、いつも唐突に行動するのにはもう随分と慣れていた。
「お兄ちゃんはなんでいるの?仕事は?」
「数日こっちに用があってな、ここのが近ぇし」
何年も前に家を出てからたまにしか帰ってこなかったお兄ちゃん。
数日だけでも居てくれるんだと思うとつい嬉しくて、口元の緩みがバレないように髪を解いた。
「シャワー浴びたらご飯作るけど、お兄ちゃんも食べる?」
「ああ」
煙草は程々にねと伝えてお風呂場へ向かった。
気付いたら煙草を吸うようになってて、最初はあの匂いが苦手だったけどいつの間にかこの匂いはお兄ちゃんのだと思えるようになって、そこまで苦手じゃなくなってた。
ご飯を食べ終わってお皿も洗って歯も磨いて、あとは寝るだけ。
でもできれば進めておきたい仕事があったからパソコンを取り出して作業していると、お茶の入ったコップがコースターの上に静かに置かれた。
「ありがと」
「仕事忙しいのか?」
「ううん、明日楽したいからやってるだけ」
「程々にな」
向かいの椅子に座って自分用に作った真っ黒な珈琲を飲みながらテレビのニュースを見てるお兄ちゃん。仕事柄ニュースが気になるんだろうなと思いつつ、たまに帰ってくる度よくあんな苦いものそのまま飲めるなぁといつも思う。煙草とかも苦そうだし。
「朝ごはんって何でもいい?」
「ああ、悪ぃな手間増やして」
「いつもお母さんの分も作ってるし一緒だよ」
一通り予定していたとこまで仕事を終わらせてからパソコンを鞄に入れて残りのお茶を喉に流し込んだ。
わりと年の離れたお兄ちゃんだから兄弟喧嘩とか殆どした事もないし、お父さんがいないから余計にお兄ちゃんがすごい好きだった。
だから、数日いるっていうのが凄く嬉しい。
「おやすみ」と言うと「おやすみ」と返ってくるのが更に嬉しい。
ベッドに横になりながら普段はお母さんのリクエストで夜ご飯を作ってたけど明日は何を作ろうかな、と普段より少し考えるのが楽しく感じた。
朝、五時の目覚ましが鳴る少し前に目が覚めた。
軽くシャワーを浴びて目を覚ましてからご飯とお弁当を作って、テレビを見ながら着替えや化粧をして、余裕を持って駅まで向かう。
「早ぇな」
でも今日は部屋を出て直行した脱衣所にはお兄ちゃんがいた。
シャワーから出たばかりなのか、スウェットを履いた上裸姿で頭の水気をタオルで拭きながらこちらを振り返っているところだった。
「お兄ちゃんこそ早いって、まだ五時だよ」
「癖で勝手に起きんだよ」
「おじいちゃんみたい」
そんなに広くはない脱衣所で、お兄ちゃんの隣に立ってシャワーを浴びる前に髪に櫛を通しながら鏡越しにお兄ちゃんを見てた。
背高いなあ。人より低めな私は職場で棚に手が届かない時があったのを思い出して、これくらいあればなぁと左手を頭の上、お兄ちゃんの肩くらいの高さにかざしてみた。
「あとちょっとじゃん」
ほんの数センチの空間を埋めれるほどあと僅かに身長が高ければ、その数センチをパンプスで無理に伸ばすことも、履き慣れるまでかかとを痛めることもなかったのに。
「お兄ちゃんって何食べて育ったの?」
「マ」
「マヨネーズ以外で」
わかりきった答えを先手で否定しようとしたけど失敗してしまった。
今からシャワー浴びるからとお兄ちゃんを追い出してサッとシャワーを浴びて歯も磨いて髪も乾かして、二人分のホットサンドを作って余分に作ったものをお弁当箱に詰めてカバンに入れた。
部屋に戻って着替えと化粧を済ませてリビングに戻ると、お兄ちゃんはまだ出ないのか昨日みたいに台に寄りかかって煙草を吸ってた。
「いってきます!お兄ちゃん出る時鍵閉めといて!」
「ああ、気をつけろよ」
椅子から鞄を取って玄関に向かいパンプスを履きながら毎朝感じる電車に対する憂鬱も、今日だけはほんの少し軽いような気がした。
︙
一人また一人と仕事を終えて帰っていく中、私の机にはまだ確認を終わらせないといけない書類がいくつも積まれていた。
残業なんて予定してなかったし、なんなら余裕を持って早めに仕事を終われるよう昨夜仕事を進めたはず。それなのに出社しですぐ上司から「今日中に頼む」と不釣り合いな量の仕事を渡されたおかげで、短針が九の数字をとうに過ぎてる。
「⋯もう私だけじゃん」
気付けば部屋にいるのは私だけ。
確かに減りつつある書類も、仕上げた書類に比べたら残りは微々たる量だ。あと少しと思いながらも休憩も取らずにモニターと書類とを往復していた目は疲れ切っていて、眉間を押さえながら横を見ればいついれたかもわからないほど冷えきってしまったお茶は今更飲む気にもなれなかった。
明日休みなんだから半分、三分の一くらい手伝ってくれても良かったのでは!と途中で思ったけれど上司にそんなこと言えないし。
小さくため息をついて集中が途切れるからと触れずにいたスマホを手に取り連絡の有無を確認してから、残業で帰りが遅くなるから夜ご飯は作れませんとお兄ちゃんに連絡をしてすぐ画面を伏せた。
それからさらに一時間くらいがあっという間に過ぎていった。
ようやく最後の書類の確認も終わった。がちがちに凝り固まった肩をぐりぐりと動かしながら帰る支度をパパっと済ませて、毎日お母さんにしているように今から帰るという連絡をお兄ちゃんに送った。
会社を出て、今日放送される映画はなんだっけ?と考えながら電車の時間を調べていると突然お兄ちゃんから電話がかかってきた。
「もしもし?」
「そのまま道路渡ってこい」
たった一言だけ聞こえてきた声は言いたい事を言い終えたのかすぐにプツンと切れてしまったけど、道路の向こう側を見ると一台の車が路肩に停車していた。
たまにお兄ちゃんが帰ってくる時に乗ってた車。左右を確認し足早に道路を横断してから車の助手席を確認もせず開けるとほんのり煙草の匂いが漂った。
「遅ぇな」
「なんかすごい量渡されて。でもなんでここいるの?」
シートベルトをしながら、隣で細く窓を開けて煙草を吸っていたお兄ちゃんに聞くと仕事終わりにたまたま近くまで来たみたいだった。
「お腹すいたし早く帰ろ!」
本当は迎えに来てくれたってことすぐに気づいたけど、多分それを言うとお兄ちゃんはただでさえ無口なのに無言になっちゃうとわかっていたから気づいてないフリをした。
「今日はカレー作ろうかなって思って」
「どっか寄ってくか?」
「家に全部あったはずだから大丈夫だよ」
今日の映画なんだっけ?とか、明日は休み?とか、何気ない普段の会話みたいな普通のやりとりが胸を暖かくした。
22.8.31
リクエスト〝銀時か高杉か土方に姉もしくは妹がいたら(現パ可)〟
以前更新履歴にて一度触れたことがあるのですが、
元々新八に妹がいたらというお話を書き溜めていて今回このようなリクエストも頂いたので、兄弟のお話をいくつかシリーズ的な形で展開出来ればと思っています。
リクエストありがとうございました!
「ただいま〜」
二十歳になって社会に出てから半年。やっと仕事にも慣れてきたというのに、通退勤時の電車だけは今後何年経っても慣れそうにない。
パンプスを適当に脱いでふと、見慣れない靴があるのに気付いた。
お母さんからの返事もないし誰か来客でもいるのかと思いながらリビングへ向かうと、キッチンの台に寄りかかりながら煙草を吸っていたお兄ちゃんと目が合った。
「え、お兄ちゃん?お母さんは?」
「ばあちゃん家行くんだと」
私聞いてないけど、とスーツの上着を脱ぎながら言えば、いや俺も聞いてなかった、と言うお兄ちゃん。
ん、と机の上を見るお兄ちゃんの目線の先には破いたメモ帳にお母さんの字でそう走り書きされていて、いつも唐突に行動するのにはもう随分と慣れていた。
「お兄ちゃんはなんでいるの?仕事は?」
「数日こっちに用があってな、ここのが近ぇし」
何年も前に家を出てからたまにしか帰ってこなかったお兄ちゃん。
数日だけでも居てくれるんだと思うとつい嬉しくて、口元の緩みがバレないように髪を解いた。
「シャワー浴びたらご飯作るけど、お兄ちゃんも食べる?」
「ああ」
煙草は程々にねと伝えてお風呂場へ向かった。
気付いたら煙草を吸うようになってて、最初はあの匂いが苦手だったけどいつの間にかこの匂いはお兄ちゃんのだと思えるようになって、そこまで苦手じゃなくなってた。
ご飯を食べ終わってお皿も洗って歯も磨いて、あとは寝るだけ。
でもできれば進めておきたい仕事があったからパソコンを取り出して作業していると、お茶の入ったコップがコースターの上に静かに置かれた。
「ありがと」
「仕事忙しいのか?」
「ううん、明日楽したいからやってるだけ」
「程々にな」
向かいの椅子に座って自分用に作った真っ黒な珈琲を飲みながらテレビのニュースを見てるお兄ちゃん。仕事柄ニュースが気になるんだろうなと思いつつ、たまに帰ってくる度よくあんな苦いものそのまま飲めるなぁといつも思う。煙草とかも苦そうだし。
「朝ごはんって何でもいい?」
「ああ、悪ぃな手間増やして」
「いつもお母さんの分も作ってるし一緒だよ」
一通り予定していたとこまで仕事を終わらせてからパソコンを鞄に入れて残りのお茶を喉に流し込んだ。
わりと年の離れたお兄ちゃんだから兄弟喧嘩とか殆どした事もないし、お父さんがいないから余計にお兄ちゃんがすごい好きだった。
だから、数日いるっていうのが凄く嬉しい。
「おやすみ」と言うと「おやすみ」と返ってくるのが更に嬉しい。
ベッドに横になりながら普段はお母さんのリクエストで夜ご飯を作ってたけど明日は何を作ろうかな、と普段より少し考えるのが楽しく感じた。
朝、五時の目覚ましが鳴る少し前に目が覚めた。
軽くシャワーを浴びて目を覚ましてからご飯とお弁当を作って、テレビを見ながら着替えや化粧をして、余裕を持って駅まで向かう。
「早ぇな」
でも今日は部屋を出て直行した脱衣所にはお兄ちゃんがいた。
シャワーから出たばかりなのか、スウェットを履いた上裸姿で頭の水気をタオルで拭きながらこちらを振り返っているところだった。
「お兄ちゃんこそ早いって、まだ五時だよ」
「癖で勝手に起きんだよ」
「おじいちゃんみたい」
そんなに広くはない脱衣所で、お兄ちゃんの隣に立ってシャワーを浴びる前に髪に櫛を通しながら鏡越しにお兄ちゃんを見てた。
背高いなあ。人より低めな私は職場で棚に手が届かない時があったのを思い出して、これくらいあればなぁと左手を頭の上、お兄ちゃんの肩くらいの高さにかざしてみた。
「あとちょっとじゃん」
ほんの数センチの空間を埋めれるほどあと僅かに身長が高ければ、その数センチをパンプスで無理に伸ばすことも、履き慣れるまでかかとを痛めることもなかったのに。
「お兄ちゃんって何食べて育ったの?」
「マ」
「マヨネーズ以外で」
わかりきった答えを先手で否定しようとしたけど失敗してしまった。
今からシャワー浴びるからとお兄ちゃんを追い出してサッとシャワーを浴びて歯も磨いて髪も乾かして、二人分のホットサンドを作って余分に作ったものをお弁当箱に詰めてカバンに入れた。
部屋に戻って着替えと化粧を済ませてリビングに戻ると、お兄ちゃんはまだ出ないのか昨日みたいに台に寄りかかって煙草を吸ってた。
「いってきます!お兄ちゃん出る時鍵閉めといて!」
「ああ、気をつけろよ」
椅子から鞄を取って玄関に向かいパンプスを履きながら毎朝感じる電車に対する憂鬱も、今日だけはほんの少し軽いような気がした。
︙
一人また一人と仕事を終えて帰っていく中、私の机にはまだ確認を終わらせないといけない書類がいくつも積まれていた。
残業なんて予定してなかったし、なんなら余裕を持って早めに仕事を終われるよう昨夜仕事を進めたはず。それなのに出社しですぐ上司から「今日中に頼む」と不釣り合いな量の仕事を渡されたおかげで、短針が九の数字をとうに過ぎてる。
「⋯もう私だけじゃん」
気付けば部屋にいるのは私だけ。
確かに減りつつある書類も、仕上げた書類に比べたら残りは微々たる量だ。あと少しと思いながらも休憩も取らずにモニターと書類とを往復していた目は疲れ切っていて、眉間を押さえながら横を見ればいついれたかもわからないほど冷えきってしまったお茶は今更飲む気にもなれなかった。
明日休みなんだから半分、三分の一くらい手伝ってくれても良かったのでは!と途中で思ったけれど上司にそんなこと言えないし。
小さくため息をついて集中が途切れるからと触れずにいたスマホを手に取り連絡の有無を確認してから、残業で帰りが遅くなるから夜ご飯は作れませんとお兄ちゃんに連絡をしてすぐ画面を伏せた。
それからさらに一時間くらいがあっという間に過ぎていった。
ようやく最後の書類の確認も終わった。がちがちに凝り固まった肩をぐりぐりと動かしながら帰る支度をパパっと済ませて、毎日お母さんにしているように今から帰るという連絡をお兄ちゃんに送った。
会社を出て、今日放送される映画はなんだっけ?と考えながら電車の時間を調べていると突然お兄ちゃんから電話がかかってきた。
「もしもし?」
「そのまま道路渡ってこい」
たった一言だけ聞こえてきた声は言いたい事を言い終えたのかすぐにプツンと切れてしまったけど、道路の向こう側を見ると一台の車が路肩に停車していた。
たまにお兄ちゃんが帰ってくる時に乗ってた車。左右を確認し足早に道路を横断してから車の助手席を確認もせず開けるとほんのり煙草の匂いが漂った。
「遅ぇな」
「なんかすごい量渡されて。でもなんでここいるの?」
シートベルトをしながら、隣で細く窓を開けて煙草を吸っていたお兄ちゃんに聞くと仕事終わりにたまたま近くまで来たみたいだった。
「お腹すいたし早く帰ろ!」
本当は迎えに来てくれたってことすぐに気づいたけど、多分それを言うとお兄ちゃんはただでさえ無口なのに無言になっちゃうとわかっていたから気づいてないフリをした。
「今日はカレー作ろうかなって思って」
「どっか寄ってくか?」
「家に全部あったはずだから大丈夫だよ」
今日の映画なんだっけ?とか、明日は休み?とか、何気ない普段の会話みたいな普通のやりとりが胸を暖かくした。
22.8.31
リクエスト〝銀時か高杉か土方に姉もしくは妹がいたら(現パ可)〟
以前更新履歴にて一度触れたことがあるのですが、
元々新八に妹がいたらというお話を書き溜めていて今回このようなリクエストも頂いたので、兄弟のお話をいくつかシリーズ的な形で展開出来ればと思っています。
リクエストありがとうございました!
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