先手必勝
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坂田さんと一夜を共にしたお話
ズキズキと痛む頭を抑えながら目を覚ますと見慣れぬ天井が見えた。
周りに目をやるとソファやテレビが置かれているそこまで広くもない部屋。明らかに見覚えのない部屋。
痛む頭を刺激しないようゆっくりと体を起こすと布団はするりと滑り落ち、そこでようやく自分が何も着ていないことに気がついて。
「⋯⋯」
一瞬で目が覚めた。
サイドテーブルには水の入った飲みかけのペットボトルが一つと、それから、空になった避妊具の袋。
床には自分の下着や服が乱雑に散らかっていて、重なるように見慣れた模様の着物もある。
「⋯もう起きたの名前ちゃん」
状況が理解出来たあたりでトドメと言わんばかりに耳に届いた声の方へ顔を向けると、腰にタオルを巻き頭を雑に拭きながらこちらへ歩いてくる銀さんの姿だった。
「⋯ってワケで」
覚えている限りの記憶を思い返してみた。
付き合ってた相手の浮気が原因で何故かわたしが振られて、次の日休みだった事もあり行きつけの居酒屋でお酒を飲んでた。歳も歳だしそろそろ、なんてお互い同じ気持ちだとばかり思っていた相手に裏切られて忘れたい一心でお酒を流し込むように飲んでたとこまでは覚えてる。
だからなんで銀さんと二人でこうなってるのか覚えていなくて、ベッドの端に腰掛けた銀さんへ「大変申し訳ないんですが⋯」と直接聞いてみると、立ち寄った居酒屋でわたしが潰れてて店主に頼まれ家まで送ろうとしたら突然の土砂降り、他に行くとこもなく近くのホテルの部屋に来て潰れた原因をわたしから聞いてそういうアレがソレでこうなった、と。
まさか銀さんだったとは思ってなくて、床の上に落ちてた着物も似てるだけだと思ってて、通路から銀さんの顔が見えた時すごく驚いた。たまにお登勢さんのお店に行くと会って話をする程度だったから尚更。
「名前ちゃん酒飲むと積極的なのねェ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい⋯」
「いやなんつーか、いや俺はいいけどよ」
聞けば聞くほど申し訳なさが溢れてきて体を布団で覆ったままひたすら頭を下げて謝罪を伝えると、てか彼氏どうすんの?と聞かれて頭をあげたら普段の銀さんより少し優しそうな目がこちらを見ていた。
「どう⋯って言われても⋯」
浮気してたことすら気付かなかった。本人からの言葉で気付いた時には振られてて、それも一方的に、わたしの言葉なんて最初から聞く気が無かったようだった。
まあ記憶を無くすまでお酒を飲んで付き合ってもない男性と共に夜を過ごしたわたしが何かを言える立場でもないのかな、と思うと気持ちは沈む一方で。
「もう忘れます⋯いや忘れました忘れた事にします」
「おーおー、名前ちゃんみてーな子がいて浮気なんざその程度の野郎ってことだろ」
あんま気にすんなよ、と俯くわたしの頭に軽く置かれた手は随分と暖かく優しいものに感じた。
「⋯銀さんあの、本当にごめんなさい」
だから改めて不貞について精一杯の謝罪をした。
下を向いてるわたしからは銀さんの顔は見えないけど、小さく篭った声で何かを言っている銀さんの声だけは耳に届いてきた。
それから何かの言葉が返ってくることもなく、もしかして怒らせてしまったかなとか思えてきて頭を上げてみても銀さんの頭を覆うタオルのせいでやっぱり顔は見えなくて。
「⋯ぎ、銀さん⋯?」
「まじで名前ちゃんなんも覚えてないの?」
心配になって声をかけたら、やっと言葉を返してくれた銀さんはそう言いながらいつも見かける表情をわたしに向けてきた。
「申し訳ないんですけど、本当に何も⋯お店を出た記憶すら無」
「名前ちゃんさ」
急に布団ごと体を丸々引かれて銀さんの腕に収まったわたしは何が何だか理解出来ずに、ただ少し濡れたタオルとそこから漏れる髪先がひんやり冷たく頬に当たる感覚と、すぐ耳元から聞こえる銀さんの声に驚いた。
「俺いっこ嘘ついててさ、あのーアレ、名前ちゃん積極的ィ〜ってやつ」
「⋯ぎ、銀さん?」
「名前ちゃん振られたって言うし?めちゃめちゃ酔ってっし?まあ土砂降りはマジなんだけどココ連れ込んじゃったし?これってアレじゃね?みたいな」
「あの、なに言って⋯」
「いや実は俺名前ちゃんのこと前から好きでさ」
確かに聞こえた好きという言葉。驚きだけじゃここまで大きくなるはずが無いほどバクバクと胸がうるさくなっていく中でも、銀さんの言葉は止まらない。
「んで何だっけ、あぁ名前ちゃんに昨日さ俺と付き合ってくんね?って言ったらカレシ忘れられたらいいっつってさ」
「⋯あの⋯え?」
「さっき名前ちゃん忘れた事にするとか言ってたじゃん」
だから俺と付き合わね?
銀さんがどんな顔して言ってるのかわからないけど、少なくとも止まることなく聞こえてきた言葉でわたしの頭はパンク寸前だった。
「名前ちゃんが振られて泣いてて?少しは紳士的⋯オトナに?胸貸してウンウンつって耐えたワケよこれマジで」
俺えらくね?とかいつもの調子で言う声が聞こえてくるけど、今はそんなので笑えるほどの余裕も何も無くてただ銀さんの言葉を聞くだけしかできなかった。
「こっちが必死に耐えてんのに?名前ちゃんが銀さんだったら良かったのになぁとか言うのよ、無理だろンな事言われたら」
全く記憶にない事をすらすらと言う銀さんのせいでますます顔に熱が集まって言葉が思うように出てこない。わたしは本当にそんなこと言ってたの?とか、聞く限りの言葉は恥ずかしくて言えた言葉じゃない。
「んでどうよ、今の名前ちゃんは俺アリ?」
「⋯ダメダメ今はダメ!」
言いたいことを言い終えたのか銀さんは急にわたしの肩を掴んで距離をあけると顔を覗き込もうとしてきて、必死で手元の布団で顔を隠した。
でも銀さんには意味が無いみたいで、軽い力で手を解かれながら肩を押されれば簡単に頭が枕に沈んでしまう。
銀さんが頭を覆っていたタオルを取ると水気を含んでいるからかいつもより元気のなさそうなはね具合の髪の毛と、今まで見たことの無いニヤリとした表情の銀さん。
「俺じゃダメ?」
そうしてわたしは銀さんとお付き合いすることになった。
22.8.24
パスをつけて深い表現にするか悩みましたすごく⋯!でもさらっと銀さんっぽい雰囲気というか、ワンナイトしちゃってる時点でさらっとはしてないかもですがグイグイ来る子よりは捕まえたくなる子で書いてみました。ありがとうございました!
ズキズキと痛む頭を抑えながら目を覚ますと見慣れぬ天井が見えた。
周りに目をやるとソファやテレビが置かれているそこまで広くもない部屋。明らかに見覚えのない部屋。
痛む頭を刺激しないようゆっくりと体を起こすと布団はするりと滑り落ち、そこでようやく自分が何も着ていないことに気がついて。
「⋯⋯」
一瞬で目が覚めた。
サイドテーブルには水の入った飲みかけのペットボトルが一つと、それから、空になった避妊具の袋。
床には自分の下着や服が乱雑に散らかっていて、重なるように見慣れた模様の着物もある。
「⋯もう起きたの名前ちゃん」
状況が理解出来たあたりでトドメと言わんばかりに耳に届いた声の方へ顔を向けると、腰にタオルを巻き頭を雑に拭きながらこちらへ歩いてくる銀さんの姿だった。
「⋯ってワケで」
覚えている限りの記憶を思い返してみた。
付き合ってた相手の浮気が原因で何故かわたしが振られて、次の日休みだった事もあり行きつけの居酒屋でお酒を飲んでた。歳も歳だしそろそろ、なんてお互い同じ気持ちだとばかり思っていた相手に裏切られて忘れたい一心でお酒を流し込むように飲んでたとこまでは覚えてる。
だからなんで銀さんと二人でこうなってるのか覚えていなくて、ベッドの端に腰掛けた銀さんへ「大変申し訳ないんですが⋯」と直接聞いてみると、立ち寄った居酒屋でわたしが潰れてて店主に頼まれ家まで送ろうとしたら突然の土砂降り、他に行くとこもなく近くのホテルの部屋に来て潰れた原因をわたしから聞いてそういうアレがソレでこうなった、と。
まさか銀さんだったとは思ってなくて、床の上に落ちてた着物も似てるだけだと思ってて、通路から銀さんの顔が見えた時すごく驚いた。たまにお登勢さんのお店に行くと会って話をする程度だったから尚更。
「名前ちゃん酒飲むと積極的なのねェ」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい⋯」
「いやなんつーか、いや俺はいいけどよ」
聞けば聞くほど申し訳なさが溢れてきて体を布団で覆ったままひたすら頭を下げて謝罪を伝えると、てか彼氏どうすんの?と聞かれて頭をあげたら普段の銀さんより少し優しそうな目がこちらを見ていた。
「どう⋯って言われても⋯」
浮気してたことすら気付かなかった。本人からの言葉で気付いた時には振られてて、それも一方的に、わたしの言葉なんて最初から聞く気が無かったようだった。
まあ記憶を無くすまでお酒を飲んで付き合ってもない男性と共に夜を過ごしたわたしが何かを言える立場でもないのかな、と思うと気持ちは沈む一方で。
「もう忘れます⋯いや忘れました忘れた事にします」
「おーおー、名前ちゃんみてーな子がいて浮気なんざその程度の野郎ってことだろ」
あんま気にすんなよ、と俯くわたしの頭に軽く置かれた手は随分と暖かく優しいものに感じた。
「⋯銀さんあの、本当にごめんなさい」
だから改めて不貞について精一杯の謝罪をした。
下を向いてるわたしからは銀さんの顔は見えないけど、小さく篭った声で何かを言っている銀さんの声だけは耳に届いてきた。
それから何かの言葉が返ってくることもなく、もしかして怒らせてしまったかなとか思えてきて頭を上げてみても銀さんの頭を覆うタオルのせいでやっぱり顔は見えなくて。
「⋯ぎ、銀さん⋯?」
「まじで名前ちゃんなんも覚えてないの?」
心配になって声をかけたら、やっと言葉を返してくれた銀さんはそう言いながらいつも見かける表情をわたしに向けてきた。
「申し訳ないんですけど、本当に何も⋯お店を出た記憶すら無」
「名前ちゃんさ」
急に布団ごと体を丸々引かれて銀さんの腕に収まったわたしは何が何だか理解出来ずに、ただ少し濡れたタオルとそこから漏れる髪先がひんやり冷たく頬に当たる感覚と、すぐ耳元から聞こえる銀さんの声に驚いた。
「俺いっこ嘘ついててさ、あのーアレ、名前ちゃん積極的ィ〜ってやつ」
「⋯ぎ、銀さん?」
「名前ちゃん振られたって言うし?めちゃめちゃ酔ってっし?まあ土砂降りはマジなんだけどココ連れ込んじゃったし?これってアレじゃね?みたいな」
「あの、なに言って⋯」
「いや実は俺名前ちゃんのこと前から好きでさ」
確かに聞こえた好きという言葉。驚きだけじゃここまで大きくなるはずが無いほどバクバクと胸がうるさくなっていく中でも、銀さんの言葉は止まらない。
「んで何だっけ、あぁ名前ちゃんに昨日さ俺と付き合ってくんね?って言ったらカレシ忘れられたらいいっつってさ」
「⋯あの⋯え?」
「さっき名前ちゃん忘れた事にするとか言ってたじゃん」
だから俺と付き合わね?
銀さんがどんな顔して言ってるのかわからないけど、少なくとも止まることなく聞こえてきた言葉でわたしの頭はパンク寸前だった。
「名前ちゃんが振られて泣いてて?少しは紳士的⋯オトナに?胸貸してウンウンつって耐えたワケよこれマジで」
俺えらくね?とかいつもの調子で言う声が聞こえてくるけど、今はそんなので笑えるほどの余裕も何も無くてただ銀さんの言葉を聞くだけしかできなかった。
「こっちが必死に耐えてんのに?名前ちゃんが銀さんだったら良かったのになぁとか言うのよ、無理だろンな事言われたら」
全く記憶にない事をすらすらと言う銀さんのせいでますます顔に熱が集まって言葉が思うように出てこない。わたしは本当にそんなこと言ってたの?とか、聞く限りの言葉は恥ずかしくて言えた言葉じゃない。
「んでどうよ、今の名前ちゃんは俺アリ?」
「⋯ダメダメ今はダメ!」
言いたいことを言い終えたのか銀さんは急にわたしの肩を掴んで距離をあけると顔を覗き込もうとしてきて、必死で手元の布団で顔を隠した。
でも銀さんには意味が無いみたいで、軽い力で手を解かれながら肩を押されれば簡単に頭が枕に沈んでしまう。
銀さんが頭を覆っていたタオルを取ると水気を含んでいるからかいつもより元気のなさそうなはね具合の髪の毛と、今まで見たことの無いニヤリとした表情の銀さん。
「俺じゃダメ?」
そうしてわたしは銀さんとお付き合いすることになった。
22.8.24
パスをつけて深い表現にするか悩みましたすごく⋯!でもさらっと銀さんっぽい雰囲気というか、ワンナイトしちゃってる時点でさらっとはしてないかもですがグイグイ来る子よりは捕まえたくなる子で書いてみました。ありがとうございました!
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