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3z 病欠の翌日
もうクラスのみんなは各々が好きなことに没頭する時間。
私は一人教室に残って先生から渡されたプリントをのんびり眺めていた。
週末食べた何が良くなかったのか、日曜まで治らなかった腹痛は月曜の朝になっても消えることはなく一日学校を休んだ。
「いや俺はやりたくねーよ?でも後々言われんの俺だから」
まあ休んだのお前だし?仕方ねーじゃん。
帰りのホームルームが終わると先生に呼ばれて、そう言われるなりひらひらと仰いでいたプリントを私に渡してきた。
仕方ない。先生はそう言ってたけど、もう既に書き終えているプリントを眺めながら右上に貼られている〝終わったら適当に置いとけ〟という付箋の字を見てだらしなく口元を緩めた。
「まだいたの」
ガラガラとドアが開き自然とそちらに目を向けると先生がいた。
お前ならこんなのすぐだろ、と言いながらいつものようにゆるりと歩く先生は私の前の席にある椅子を引くと、背もたれに肘をつく姿勢で椅子に跨りプリントを覗いてきた。
「ここ私の席だし」
「貴重な放課後潰してていいの?って意味」
「だってこれ出したの先生じゃん」
最後の解答欄を埋めたのはもう随分と前。
それでも適当に置いて帰ることもせず、腕に頭を乗せて貴重な放課後を潰してまでここに居続けたのはこうやって先生と過ごしたかったから。
「つーかそれ終わってんの?」
「うん」
「え?まじ何してたのお前」
「わかんない」
「何、彼氏と喧嘩したか?」
「彼氏いないし」
「お前花の高校生だろーが彼氏の一人や二人いるだろ普通」
「なにそれ」
さらっと二人とか言う先生がおかしくて笑いながら先生を見ると、まっすぐにこちらを見ていた先生の目とぶつかる。
窓から差し込むオレンジが先生の白い髪や服を染め上げて、それが凄くかっこよくて、あー居残りしててよかったって思える。
みんなはやる気がない顔だとか髪だとか言うけど、全然そんなことないのになって思っていた私はその時から既に先生にハマっていたのかもしれない。
「先生って彼女いるの?」
「いたら今頃お前なんてほっぽって直帰してるわ」
「うわサイテー」
この二人きりの時間と会話がちょっぴり特別に思えて、心臓がいつもより張り切ってるのがわかる。
先生が気になっちゃえば同い年に魅力を感じることもない。
そんな私が彼氏作れるわけないじゃん、全部先生のせいだよ。と声に出すことの出来ない文句を心の中で呟いた。
「⋯彼女が年下って嫌?」
「なになに彼氏歳上なの?」
「彼氏いないって、好きな人が歳上なの」
先生の顔が見れなくて窓の外を眺めながら強すぎるオレンジに目を細めていると、あ〜と何かを考えている先生の声が耳に届く。
「いんじゃね?年下」
「なんか適当じゃない?それ」
「大真面目よ」
てゆーか誰誰?どんなやつ?なんて女子みたいな口調とノリで話し始める先生。
「名前の好きなやつ気になるぅ〜」
「先生それキツいよ」
「ちょお前、さすがに傷付くわ」
ぺしっとおでこに軽くデコピンされたのが地味に痛くてちらりと顔を睨むと、悪ぃ悪ぃと相変わらずな顔で悪びれもなく言うもんだからますます睨みたくなった。
でもそういうところも含めて先生の事が好きだから、仕方ないかって甘々な許容ラインを引いてしまう。
「んで?ホントは誰なわけ?」
「⋯⋯秘密」
それよりハイこれ、と書き終えているプリントを先生に渡して鞄に道具をつめていると、先生は「マジで終わってんじゃん」と少し驚きながらそのプリントを眺めていた。
あと十年いや七年か五年でもいい、私が早く生まれるか先生が遅く生まれていたら。それならスタートラインに立てたのかなと何度思ったことか。どれだけ努力しても年の差は埋めることが出来ない。
先生と生徒というアレな関係性を抜きにしても、気持ちを伝えること自体多少憚られる年の差にモヤモヤとしたものを感じてしまう。
「もう拾い食いなんてすんじゃねぇぞ」
「先生じゃないんだから、そんな事しませーん」
「さすがに先生もそんな事しませーん」
鞄を持つ私よりも先に教室を出ようとした先生は、ふと足を止めると「あとよ」とこちらを振り返った。
「俺は年下きらいじゃねーよ」
じゃあな、と手を振りながらいなくなる先生。
どういう意味を込めて言ってきたのか、その一言が何度も何度も頭の中でループする。
ほんと、全部先生のせいじゃん。
大人なら花の高校生から恋を奪った責任くらい取ってほしい。
私は先生が座っていた椅子をそのままにして教室を後にした。
2022.8.5
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もうクラスのみんなは各々が好きなことに没頭する時間。
私は一人教室に残って先生から渡されたプリントをのんびり眺めていた。
週末食べた何が良くなかったのか、日曜まで治らなかった腹痛は月曜の朝になっても消えることはなく一日学校を休んだ。
「いや俺はやりたくねーよ?でも後々言われんの俺だから」
まあ休んだのお前だし?仕方ねーじゃん。
帰りのホームルームが終わると先生に呼ばれて、そう言われるなりひらひらと仰いでいたプリントを私に渡してきた。
仕方ない。先生はそう言ってたけど、もう既に書き終えているプリントを眺めながら右上に貼られている〝終わったら適当に置いとけ〟という付箋の字を見てだらしなく口元を緩めた。
「まだいたの」
ガラガラとドアが開き自然とそちらに目を向けると先生がいた。
お前ならこんなのすぐだろ、と言いながらいつものようにゆるりと歩く先生は私の前の席にある椅子を引くと、背もたれに肘をつく姿勢で椅子に跨りプリントを覗いてきた。
「ここ私の席だし」
「貴重な放課後潰してていいの?って意味」
「だってこれ出したの先生じゃん」
最後の解答欄を埋めたのはもう随分と前。
それでも適当に置いて帰ることもせず、腕に頭を乗せて貴重な放課後を潰してまでここに居続けたのはこうやって先生と過ごしたかったから。
「つーかそれ終わってんの?」
「うん」
「え?まじ何してたのお前」
「わかんない」
「何、彼氏と喧嘩したか?」
「彼氏いないし」
「お前花の高校生だろーが彼氏の一人や二人いるだろ普通」
「なにそれ」
さらっと二人とか言う先生がおかしくて笑いながら先生を見ると、まっすぐにこちらを見ていた先生の目とぶつかる。
窓から差し込むオレンジが先生の白い髪や服を染め上げて、それが凄くかっこよくて、あー居残りしててよかったって思える。
みんなはやる気がない顔だとか髪だとか言うけど、全然そんなことないのになって思っていた私はその時から既に先生にハマっていたのかもしれない。
「先生って彼女いるの?」
「いたら今頃お前なんてほっぽって直帰してるわ」
「うわサイテー」
この二人きりの時間と会話がちょっぴり特別に思えて、心臓がいつもより張り切ってるのがわかる。
先生が気になっちゃえば同い年に魅力を感じることもない。
そんな私が彼氏作れるわけないじゃん、全部先生のせいだよ。と声に出すことの出来ない文句を心の中で呟いた。
「⋯彼女が年下って嫌?」
「なになに彼氏歳上なの?」
「彼氏いないって、好きな人が歳上なの」
先生の顔が見れなくて窓の外を眺めながら強すぎるオレンジに目を細めていると、あ〜と何かを考えている先生の声が耳に届く。
「いんじゃね?年下」
「なんか適当じゃない?それ」
「大真面目よ」
てゆーか誰誰?どんなやつ?なんて女子みたいな口調とノリで話し始める先生。
「名前の好きなやつ気になるぅ〜」
「先生それキツいよ」
「ちょお前、さすがに傷付くわ」
ぺしっとおでこに軽くデコピンされたのが地味に痛くてちらりと顔を睨むと、悪ぃ悪ぃと相変わらずな顔で悪びれもなく言うもんだからますます睨みたくなった。
でもそういうところも含めて先生の事が好きだから、仕方ないかって甘々な許容ラインを引いてしまう。
「んで?ホントは誰なわけ?」
「⋯⋯秘密」
それよりハイこれ、と書き終えているプリントを先生に渡して鞄に道具をつめていると、先生は「マジで終わってんじゃん」と少し驚きながらそのプリントを眺めていた。
あと十年いや七年か五年でもいい、私が早く生まれるか先生が遅く生まれていたら。それならスタートラインに立てたのかなと何度思ったことか。どれだけ努力しても年の差は埋めることが出来ない。
先生と生徒というアレな関係性を抜きにしても、気持ちを伝えること自体多少憚られる年の差にモヤモヤとしたものを感じてしまう。
「もう拾い食いなんてすんじゃねぇぞ」
「先生じゃないんだから、そんな事しませーん」
「さすがに先生もそんな事しませーん」
鞄を持つ私よりも先に教室を出ようとした先生は、ふと足を止めると「あとよ」とこちらを振り返った。
「俺は年下きらいじゃねーよ」
じゃあな、と手を振りながらいなくなる先生。
どういう意味を込めて言ってきたのか、その一言が何度も何度も頭の中でループする。
ほんと、全部先生のせいじゃん。
大人なら花の高校生から恋を奪った責任くらい取ってほしい。
私は先生が座っていた椅子をそのままにして教室を後にした。
2022.8.5
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