彼は誰時の菫空
名前設定
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「全く何してんですか!全ッ然部屋に来ないから見に行けば⋯」
「いや何してたってそりゃおめー何シてただけで別にあれよ?玄関が好きとかそういうんじゃ」
「聞いてねえよ!そんなのこれっぽっちも聞いてねえよ!!」
「あっれぇそうなの?俺ぁてっきり興味があっ」
「ねえよ!というか、もし神楽ちゃんがいたらどうしてたんですか!」
未だに顔を赤くしながら声を荒らげる新八の言葉を聞きてる俺の隣で、耳まで赤くし恥ずかしそうに顔を俯けて座っている名前。
俺達と向かい合うようにもう一つのソファに腰かけた新八は軽く咳払いをしながら、だいたい、と言葉を続けた。
「名前さんみたいな綺麗で優しくて料理も上手で、少なくとも銀さんには勿体無さすぎるような人が、なんでまたこんな⋯もっとマトモな人なんて沢山いるのに」
「いやお前俺の事なんだと思ってんの?なんだと思っててここで働いてんの?」
ズズッと目の前にある湯呑みの茶を啜りながら言葉を返すと、それ銀さんのじゃないんですけど、と呆れた顔で俺を見つめる新八。
一方で気付けば指先まで赤くした名前は小さな声で「ごめんなさい」と今にも消えそうな声を出している。
そんな名前を見た新八もまた恥ずかしそうに「いや名前さんが悪いわけじゃ⋯」と顔を逸らしていた。
「ホントやめてくださいね⋯ここで⋯⋯あの、そういうのホントに⋯」
「馬鹿かおめー俺だって場所くらい選ぶわ、ったくこれだから童貞はよ」
「関係あるかあああ!いいですか!僕ちゃんと言いましたからね!」
じゃあ僕買い物行ってきますから!いいですか!と益々顔を赤くした新八は玄関に行くと普段より音を立てて扉を閉めた。
二人きりになり随分静かになった居間で、ごめんね、と呟いた名前。
「別に遅ェか早ェかでどの道バレてんだろ、隠すつもりも無かったしな」
つか謝ることじゃなくね?と名前を見れば顔を俯けたまま再度「ごめんね」と謝る名前の頭を優しく撫でた。
そのまま背もたれに腕と頭をだらしなく乗せて、これからどーすっかなとぼんやり考えていると名前が不意に立ち上がった。
「買い物、私も行かなきゃ」
果物なくなっちゃう、と言う名前の言葉でそういや買うとか言ってたなと思い出し、どうせならついて行くかと逆さに見える視界を戻そうと体を起こしかけた時そっと視界に入ってきた名前が俺を見下ろした。
「あ?」
じっと俺を見下ろす逆さの名前を見つめていると、まだほんのり赤く染まる手で俺の顔を挟んだ名前はそのまま顔を近付け、ぷにゅっと唇を押し付けた。
触れただけの唇。すぐに離れた名前はへにゃりと笑いながらその場にしゃがむと、若干目線が高くなった俺を見ながら重力に逆らうことなく歪に垂れる俺の前髪を優しく梳かした。
「すきなの」
新八くんはああ言ってたけど、銀時だから好きなの。
その言葉で完全に思考が死んだ俺はただじっと微笑む名前を眺めている事しかできず、ひでえ顔してるだろう俺を見つめる名前は俺の前髪を分け今度は額に唇を落とすと静かに立ち上がり玄関へと歩いていった。
いやいや。いやいやいやいや。
「ちょっっっと待て!!!」
「何!?」
正常になりつつある頭をフル回転させながら慌てて名前へ追いつき勢い任せに前を遮り、驚いて少し声を出した名前の両肩を掴んだ。
「おまッそういう趣味でもあんの!?」
俺に対して時々とんでもなく煽ってるような行動をする名前。
昨日だってこの前だって今だってそうだ、その怖ささえ感じる行動、これからを考えるといろいろとマズ過ぎる、何がってそりゃ勿論主に俺が。俺が。
だが肩を捕まれ俺の言葉を聞いた名前は、え?、とマジで何もわかってないですみたいな顔して数度瞬きをした。
⋯⋯あぁ、マジか。そうですか。
まだ自覚があってやってんなら文句言うなよつって小言の一つや二つ言えたかもしんねえけど、無自覚なら話が変わってくる。
んな透き通るような無垢な顔で見つめられたら言いたいことも言えなくなっちまう。
「⋯銀時?」
張り詰めた息を呆れ混じりに小さく吐きながら名前を抱き寄せ首筋に顔を擦り付けると名前は少し困ったような声で俺を呼んだが、正直今はもうどうでもよかった。
しばらく名前の温もりと昨日よりは薄れちまった花の匂いを感じながら、普段ならここまで煩くなることのない胸が落ち着いたあたりでゆるりと体を離した。
「何買うんだよ」
「⋯え、っと、柚子と⋯レモンと⋯⋯苺と⋯」
「ならとっとと行くぞ」
名前の手を引いて少し大股で数歩先の玄関へ向かうと、きっと何もわかってないまま転ばぬよう早足で後ろを着いてきた名前が、いつもより可愛く思えた。