彼は誰時の菫空
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時は流れ、攘夷戦争が始まった。
銀時達は戦場へ赴く一方、名前は同行せず拠点でご飯や洗濯など仲間が居ない間に出来ることをしていた。
坂本とも交流を持つようになり、皆それぞれの思いのために行動していた。そんな彼らを見て、名前は一度も誰かを咎めたり批判や賛同をするようなことはなかった。
ただ毎度どこかへと向かう四人の背中を見ながら「気をつけてね」と言葉をかけ、どんな格好であれ帰ってきた四人を「おかえり」と笑顔で迎えることだけは欠かさなかった。
いろいろな事が起こり、自分はどうするべきかわからなかった名前。
世を恨むべきなのか、いっそ彼らのように何か行動として示すべきなのか。いくら考えてもそのどちらもできなかった。
それでも仲間の、幼少を共にした彼らの近くにいることを望んだ。
彼らが無茶をしないように、例え無茶をしてももっと自分を大事にするようにと小言が言えるようと。
彼らの師がいない今、彼らが彼らでいられるようにと。
自分達の周りで起きていることは普通のことではない。
心配事が尽きることのない日々を過ごす中で、その日その日を大切に大事に生き続けていた。
そんな日々が続いたある日、名前の元へ彼らは帰ってこなかった。
帰らぬことは度々あったが事前にそれとなくは聞いていたし、なにより無言で帰らないような人達ではないとわかっていた名前。
名前は心配になり辺りを探しに外へ出ると、突然何者かに捕まってしまい、連れてこられた見知らぬ場所では、正に探していた人達が今、酷な選択を強いられていた。
一人は痛々しい表情で答えを出し、一人は片目を負傷して。
そんな光景を見ながら、今までの選択は全て間違っていたのか、そもそも今となれば選択肢の中に正しい道など存在していたのかさえ名前にはわからなくなっていた。
現実として今目の前で起きてしまった辛い光景に、名前はただ声を殺して涙を流すことしかできなかった。
大昔、その時が来れば自分が頑張ると大口を叩いた頃もあったが、結局何一つ力になることが出来なかった。
目の前にいる大切な人達へ容赦なく最悪がのしかかっているのに、潤んだ視界で見つめることしかできず爪が食い込むほど拳を握ることしか出来なかった名前。
「命さえ助けりゃいいんだよな」
暫くして突然聞こえてきた声とほぼ同時に項へと強い衝撃が走り、名前は意識を失った。
その後どれだけ時間が経ったかわからないが、水をかけられたことで目を覚ますと、名前の手足は縛られ口を塞がれた状態で薄暗い所にいた。
鮮明になっていく意識の中で名前の耳へ届いた声は、これから自分が身売りされるという事やいくらで売れるかといった下衆な会話で声を弾ませる数人の汚い笑い声。
最後に目にした彼らの安否さえ知らされないまま他人の金の足しになるのだと苛立ちと悔しさで腹が立った名前だったが、腕一本、言葉一つも自由にできない自分に一体何が出来るのかと考えてみても答えは浮かばず、悔しさで唇をキツく噛み続ける事しか出来なかった。