彼は誰時の菫空
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あの、銀時、私帰るね」
気付けば手が離れていた名前は、ごめんね、と言い眉を下げ申し訳なさそうに笑いながら来た道を戻ろうと背中を向けた。
「ちょちょちょ!おい名前!」
慌てて名前の手を引くと、でも、と俺の後ろにいるあのストーカーを気にするような視線を向ける名前。
明らかに勘違いしてる名前を見て、ああこれやっちまったわ、と顔が若干引き攣ってきた。
「お前勘違いしてるって!こいつただのストーカーなの!」
「⋯⋯⋯」
「いやマジで!⋯⋯え?何その目、え?」
俺を無言で見つめながら、名前の手を握る俺の手に手を添え離そうとしている名前。
怒ってるとか泣いてるとかじゃなく、ただただ申し訳なさそうな顔して俺を見る名前の顔を見てると、段々と変な汗が流れ始めた。
「やだ銀さんったらストーカーだなんて、私と銀さんの仲じゃない♡」
「10円やるからお前マジで黙っててくんね!?」
シッシッと動物を遠ざけるように手を払うと「まさかこれもプレイなの!?私を試してるって訳ね!?」と一人興奮し鼻を押さえながら悶絶するこいつは放っておいて、とにかく名前の手を離さないよう掴みながら「名前」と名前を呼んだ。
「コイツはあれだ、あの、ゴリラと同類だから気にすんな」
「⋯⋯でも⋯」
「でもじゃねーの!そこはウンなの!」
必死に誤解を解こうとしても未だに曖昧な顔をしてる名前。
どうすればいいかわからず、とりあえずこの場所から逃げるように名前の手を引いて足早に万事屋へと向かった。
名前は万事屋に着くまでの間一言も喋らず、俺に手を引かれるまま後ろを着いてきた。
ただ、嫌なら嫌で立ち止まってるだろう名前のことを思えばまだ少しは大丈夫だろうと僅かに安心はできた。
家の玄関を開けて名前の背中を軽く押し中へ入れてから後ろ手で雑に扉を閉めた。
名前の前に回り込み顔を見下ろしても、俯いたままの頭のせいで表情は見えねえし何より雰囲気がアレだった。
「名前?な、機嫌直せって」
「⋯⋯別に、悪くない」
名前の手を離して顔を上げようと手を伸ばすと、ふいっと顔を背けた名前は離された手首を掴みながら小さく返事をした。
まじで最悪なタイミングで最悪な奴に出会った結果がこれかよ、と頭を搔きながら再度「なぁ名前」と声をかけるとほんの僅かに揺れた肩。
「マジで何でもねー⋯⋯から⋯よ⋯」
頬に触れることのなかった手で頭に触れようと再度伸ばした俺の手は、名前が俺の胸に飛び込んできた拍子にぴくりと震えた。
あまりに突然の事で目的を失った俺の手は宙を漂ったままでいると、飛び込んできた名前が俺の胸元の着物をぎゅっと握り締めた。
「⋯⋯ちょ、名前?」
そのまま動こうとしない名前。
いやもうまじで、触れようにも触れていいのかすらもわからなくなってぎこちなく震える手をそのままに名前を見下ろしながら返事を待っていると
「⋯⋯やだ⋯」
消えそうな声で呟かれた短い言葉。
「⋯銀時が⋯他の人と⋯⋯」
断続的に聞こえる名前の言葉と共に段々と強く引かれていく胸元の着物。
その言葉が意味するそれを理解した俺の胸はさわさわと騒ぎ出し、自然と口角が上がっていく。
「お前それ」
迷うことなく触れた名前の頭を優しく撫でながら頭を下げ、耳元に垂れる髪をすくいその言葉が意味する答えを口にすると徐々に赤くなっていく名前の耳。
ああやっぱりな、とだらしなく緩む口元がバレないよう名前を抱きしめ艶のある頭に唇を落とした。
ほんのちょっと前まで自分じゃどうとか言ってた名前が俺を思って抱いたその可愛すぎる気持ちを嬉しく思っていると、何か言葉を口にした名前。
生憎ほとんどが胸元から出ることなく消えてしまうほど小さいもので、なに?、と聞き返すと漸く頭を上げた名前は真っ赤な顔で俺を見上げながら
「きっと私も、どうしようもないの」
と自分に言い聞かせるように小さく呟き、へにゃりと眉を垂らした。
昨日俺が言った言葉を紡いだ名前が、文字通り、どうしようもなく愛おしかった。
夢中になって名前へ何度も啄むように唇を当てればくすぐったそうに身を捩る名前。顔を離すと、嬉しそうに、恥ずかしそうに、へにゃりと笑う名前の幸せそうな顔があった。
と思えば、俺から目線を外した名前は目を見開くと急に動かなくなった。
どう見たって俺の後ろへ向けられている名前の目線。
何だ?と思い振り返った俺も、名前同様、全身が動かなくなり冷や汗が吹き出てきた。
「⋯⋯よ、よォ新八⋯」
そこには俺らを見つめて顔を赤くしあんぐりと口を開けていた新八の姿。
「⋯アンタら玄関で何やってんだぁあああ!!!!」