彼は誰時の菫空
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再び目を覚ますと銀時との間になぜか猫がいた。
銀時も猫も気持ちよさそうに眠っている。
見られてる訳ではないのに、眺めていると自然と緩む頬が途端に恥ずかしくなって起こさないようにベッドから出た。
羽織を羽織って冷えた廊下を歩きながら洗面所からキッチンへ。
お米を炊きながら朝ごはんのために卵を溶いていると、欠伸をしながら銀時がキッチンへやってきた。
「おはよ」
「起きんの早ぇなお前」
「そんなこ⋯⋯ちょっと!」
不意に後ろからお腹に腕を回してきた銀時は、顔のすぐ横から手元を覗き込んでくる。
危うく箸を落としかけながら銀時を見ると「さみー」と一層腕に力を込める銀時。
暖房を入れ始めたばかりでまだ暖まっていない部屋。
なにか持ってこよっか?と聞いても「こんままでいい」と言う銀時は、言葉通りこのままでいるようで離れてくれるつもりはないらしい。
「それ卵焼きにすんなら甘くしてくんね」
「甘く?⋯⋯これくらい?」
「もっかい」
手元の卵を見つめた銀時はぽつりと呟いた。
甘すぎない?と思いながらもご希望通りもう一杯の砂糖を入れると、スリスリと首元に顔をうずめながらお腹に回す腕に力を込めた銀時。
一度箸を置いてお腹にある腕に手を当てると服で覆いきれていない肌がひんやりと冷たかった。
シワになるからと掛けてある着物もある。
やっぱり持って来るよ?と伝えると先に顔を洗いたいと言われて、それならと洗面所の場所を教えたけれど「あぁ」と短い返事をするだけで全く動こうとしない銀時。
「あーまじ」
首元から聞こえる、何に対してなのか全くわからない銀時の声。
空いた両手でぎゅうぎゅうと抱きつく腕を覆うように触れながら「銀時?」と名前を呼ぶと、また短く返事はするものの一向に動く気配がない。
「ね、ご飯作れないよ」
「もうちょい」
顔はよく見えないけど、普段の銀時とはまた違い随分と甘えられているような気がしてきた。
私に甘えてくれてると思えばだらしなく緩んでいく頬。
もう少しこのままでもいいかな、と冷えないように銀時の腕を優しく撫で続けた。
︙
ご飯を食べ終え支度も済ませて二人で家を出た。
果物を買う予定で家を出た私と、私の買い物に付き合ってからそのまま家に帰るという銀時。
寒ぃ、と言いながら不意に握られた手。
昨日お店に来た時はこの前あげた手袋をしてたのに、とわかっていても口に出さずそのまま少し前を歩く銀時に引かれながら手を握り返した。
すると後ろから突然何かが物凄い勢いで横を通り過ぎた。
と思っていると目の前にいた銀時が消えていて、え!?と足を止めると知らない女性が銀時を地面に押し倒していた。
「私という女が居ながら朝帰りなんて許さないんだからああああ!!」
うわああああん!と声を上げて泣く綺麗な髪の女性が銀時へ抱きついている光景や発した言葉に理解が追いつかなくて、ちょっと、どうすればいいのかわからずにいると「うっせえなあああ!」と声を上げた銀時は遠慮なくその女性を蹴り飛ばしていた。
「まじお前バカだろ!!頭いてえわ!!」
少し赤くなったおでこを撫でながら立ち上がった銀時は、一切何も無かったみたいに私を振り向き「アレは気にすんな」と私の手を掴むと少し強めに引きながら倒れた女性の横を通り過ぎようとしている。
でもそんな⋯えっどうしようと思って女性を見ると、鼻血を出しながら腕を伸ばし体を起こしている。見間違いでなければメガネも派手に割れている。
「⋯ぎ、銀時⋯⋯?」
気にするなと言われても、これはどう頑張っても気になってしまう。
私の声で足を止めた銀時は私を振り返って、その私の横にいる女性をちらりと見ると、なぜか頭を抱えて大きく溜息を吐いた。
「ふん⋯手くらい何よ!私と銀さんなんて濃厚で熱い夜を過ごした仲なんだから!」
「まじやめてくんね!?卑猥じゃなくても卑猥に聞こえんだろうがああ!」
「ねっとりと糸を引くような絡みだってあったんだから!」
「それただの納豆な!?納豆な!?!?」
立ち上がった女性は銀時と言い合いを始めて、ふと私と目が合うと「そもそもアナタ誰なのよ!気安く銀さんの名前呼ぶんじゃないわよ!」と身を乗り出してきた。
「⋯ごめ⋯⋯あの、すみませ⋯」
勢いと迫力に完全に押されてしまって訳も分からず謝罪を口にすると、身を乗り出してきた女性の襟を掴んで投げ飛ばした銀時は「頼むからマジでどっか行ってくれ」と深い溜息をつきながら女性に言葉を投げかけていた。
それでもなお立ち上がる女性は銀時と再びああだこうだと言い合っている。
離した手を胸元で握りながら、冷静に思い返すと女性の言葉がぐるぐると何度も繰り返される。すごく親しい間柄のように思える言葉。
こんな時にふと思い出すのは、以前銀時によく似た赤ちゃんを見かけた時に妙さんと一緒にいた綺麗な女性と、間違いがない訳でもないと言ってた銀時の言葉。
あの時見た女性と目の前にいる女性は良く似ている気がした。
途端にモヤモヤと雲がかかったように気持ちが沈んで胸が苦しくなって、ここにいて邪魔しちゃ悪いかな、とそんな事を思い始めていた。