彼は誰時の菫空
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雪がちらつく季節になった。
長らくお店を閉めていた事もあって、久しぶりに開けてみると以前も来てくれていたお客さん達がまた通ってくれるようになって嬉しかった。
地面に触れればあっという間に消えてしまうけど、時には降り積もり景色を白く染め上げてしまう雪が好きだった。四季の中でも冬が一番。
そんな四季の中では冬が一番あっという間に過ぎてしまう季節のような気がする。クリスマスや年越しやお正月、行事が充実しているからこそ時の流れはあっという間で、特に寒い中での賑やかさも嫌いではなかった。
「やっぱこの時期のおでんはいいねぇ」
「実は夏に食べる冷えたおでんも美味しいんですよ?」
今日もお客さんとの時間を楽しんでいた。
まだお店を再開したての頃は心配の声を沢山かけてもらったけれど、今はどのお客さんも楽しそうにその日あった出来事や家族への気持ちを吐露したりと今までのような雰囲気でお店を続けられている。
一つ変わったことといえば、お店の入口のすぐ横に置いてある大きめのクッションと、その上でいつも静かに丸くなっている猫。
今までは自分の部屋か中庭で自由に過ごさせていたけれど、さすがに寒くなってきて目の届かないところで暖をつけるよりは⋯とお店の方へと連れてきた。
普段から人馴れしていてちょこちょこ動き回ることもないし、勿論お客さんに迷惑をかけることもない。たまに廊下や部屋の方へと彷徨いたりしていても、寒くなればちょこんとクッションの上に戻ってきていた。
最後の一組を見送ると時間も丁度よく食器やグラスを片付けながらそろそろ表の暖簾を、と思っていると静かに扉が開いた。
「⋯⋯まだやってるっスか?」
店に入り扉を閉めてから笠を下ろした人物は、また子ちゃんだった。
「また子ちゃん!いいよ入って」
寒さで鼻先や頬を赤く染めていたまた子ちゃんを座らせて暖かいお茶を静かに出した。
晋助や小太郎のように町中で写真は見ないにしても、もしかしたらと思って一言また子ちゃんに断りを入れてから外に出て暖簾を店の中へと入れてから扉を閉めた。
「何か食べたいものある?」
「お、おまかせで!名前さんのオススメでお願いするっス!」
食べれないものは?とある程度の好みを聞いて、無難におでんなら大丈夫かなと盛り付けたお皿をまた子ちゃんに出してから隣の席まで行き腰を下ろした。
するとまた子ちゃんは「これ⋯」と私が忘れていた鞄を渡してきた。
「やっぱりまた子ちゃんのとこにあったんだ⋯ありがとう届けてくれて」
「むしろ鍵とかあったのに今まで渡せなくて申し訳ないっス⋯」
そう言うと俯いてしまったまた子ちゃんに、そもそも忘れた私が悪いから!と必死に伝えると、何とか小さく笑ってくれた。
それにしてもお店の場所よくわかったね、と話をしていると「ちょちょっと調べればすぐっスよ!」と可愛く笑うまた子ちゃん。
やっぱり晋助や周りの人達もすごいんだなと改めて感じてしまった。
「それであの、お願いというか⋯もし!もしでいいで⋯」
いろいろな話をしていると、大根を箸の先で切り分けながら声音が少しだけ変わったまた子ちゃんはぽつぽつと話し始めた。
二週間後、何人かでご飯を食べれる場所を探しているらしく、私の家を探す過程でここのお店に座敷もあるのを知って人数的にも丁度良いからもし良ければ、と。
「名前さんのとこなら私達でも大丈夫かなって⋯」
「いいよ、いいけど、私のところでいいの?」
また子ちゃんのいう私達、というのはきっと鬼兵隊の人達の事を指してるんだろうなとすぐにわかった。
勿論私としては大丈夫だけれど、真選組の人達だって見回りをしているこのかぶき町でいいのかなと思い一応聞いてみると「勿論っス!名前さんのとこがいいんスよ!」と笑顔で答えてくれた。
それならと予約を受け、追々電話などで手間を重ねるよりはと今のうちにご飯はどういうのがいいのかとか、細かな話をまた子ちゃんと進めた。
「本当はもう少し早い時間に来れたら良かったんスけど⋯」
「ううん、来れる時に来てくれるのが一番だから」
人数や時間に大まかな料理の話を終えると、また子ちゃんは時間も遅いのでそろそろ帰るといい笠を深めに被った。
「またその日に来るっス!」
「うん!その日は雪が積もってるかもしれないから気をつけてね」
最後まで可愛く笑ってくれたまた子ちゃんに手を振り、姿が見えなくなってから今度こそお店を閉めた。
当日は丸一日貸切にしようと決めた。
どういう集まりなのか触れずにいたからわからないけど、きっと少なからず真選組の方々とは出会わない方がいいだろうと。いろいろと、鉢合わせしてはマズイかもしれないから。