彼は誰時の菫空
名前設定
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「⋯どうしよう!ねえ銀時どうしよう!」
「ンだよ急に大声出してんじゃねーよ!お前病人だろ病人らしく大人しく言えよ!」
突然聞こえた大きめの名前の声にビックリしていちご牛乳を危うく落としかけながら声を返すと、きょろきょろと辺りを見渡した名前は目当てのものが見つからないのかベッドから降りようとしていた。
「おい馬鹿おめぇ歩ける状態じゃねーだろ!」
慌てて名前の腕を引きベッドへ寝かしてから「お前病人なの!俺の話聞いてっか?!」と言葉をかけても名前は落ち着きの無い様子で俯き、何があったんだと顔を覗き込むとぷるぷると震える目からは今にも涙が溢れそうになっていた。
「⋯は!?ちょ、落ち着けって!な?!」
「⋯⋯銀時⋯」
両手で名前の顔を包んでこっちを向かせると、ようやく落ち着いたのか決壊しそうなほど涙を浮かべた名前は弱々しく俺の名前を呼んだ。
その瞬間に聞こえてきた病室の扉が開く音。
「すみません遅く⋯⋯なって⋯」
「その間の取り方やめてくんない?!ややこしくなるやつだよなソレ!?」
名前は今にも泣きそうだし新八は誤解してるしで、もうよくわかんねえ状況に頭が痛くなった気がした。
︙
「⋯猫と暮らしてて⋯⋯」
落ち着いた名前は以前から暮らしている猫の話をし始めた。
前にそんな話を聞いたような気がしなくもないが、どうやらあの夜家を出る前に飯をあげたきり家に帰ってないから飯や水をあげれてないらしい。
「帰りたいけど無理だから、その、銀時達にお願いしようかなって思ったんだけど⋯」
「そりゃ僕達一応万事屋ですし!そうでなくても名前さんの頼みならいくらでも⋯」
「まぁおめーが退院するまで家置いてもいいけどな、行き来すんのめんどくせぇし」
そんな話をしながら、どんな猫なんですか?と興味を示す新八に「大人しくていい子なんだけど⋯」と歯切れ悪く言葉を返す名前は垂れ下がる髪を耳にかけながらこっちに顔を向けると、ゆっくりと口を動かした。
「⋯その⋯⋯鍵というか⋯鍵を入れた鞄を、多分置いてきちゃって⋯⋯」
「は?」
「え?」
俺と新八の声が綺麗に被った。
その鍵どこに置いてきたんだよ、と聞けば申し訳なさそうに小さな声で「多分晋助のとこ」と答える名前。
「⋯玄関にある白い花の鉢の下に家のスペアはあるんだけど、門のスペアは玄関の棚の上で⋯」
玄関は開けられるけど玄関に行くために開ける必要のある門の鍵が無いから門が開けられない、という。
さらに続けて、縁側にある掃き出しのガラス戸は鍵がついてないから中庭に面する塀を乗り越えるとそのまま中に入れるんだけど、という。
さすがに名前の家だとしてもだ。
鍵も開けずに塀を乗り越えて猫を連れ帰るなんてよ、誰がどう見たってまるでただの空き巣じゃねえか。
新八もなんかすげぇ微妙な顔してやがる。鍵を取りに行くっつったってなぁ、とボリボリ頭を搔くと名前は俺の方をじっと見つめてきた。
「お腹空かせてたらどうしよう⋯」
「⋯」
「あの日から何も食べてないだろうし⋯」
「⋯」
「⋯⋯⋯土方さんに頼」
「わーったよ!猫だろ猫!オラ新八行くぞ」
ほぼ条件反射で口を出た言葉。名前は嬉しそうに笑顔になった。
⋯アレ、いつからコイツこんなんだっけか。
新八から向けられる冷めた目はこの際気にしねぇことにした、惚れた側が負けだと言うがいっそ清々しく負けでいい。
野郎の名前を聞き食い気味に承諾してしまったが、おかげで名前はホッと柔らかな表情を浮かべていた。
「⋯ったく、後で飯代請求すっからな」
また明日来るわ、と腹いせに名前の頭をわしゃわしゃと撫でてから新八を連れて病室を出た。
︙
名前の家に着いて言われた通りに塀を乗り越えようとしていると、よりにもよって沖田クンと遭遇した。
「旦那ァ、いくらなんでもこんな真昼間から泥棒はいけやせんぜぃ」
「馬鹿ッ違ぇよ!ここの家主に猫盗んでこいって言われてんの!」
今日に限ってキッチリ仕事をしてやがる沖田クンに新八が事情を説明しても一切信じて貰えず、新八には悪ぃと思いつつ今の隙にと勢いで塀を乗り越え猫探しを優先する事にした。
そういや名前と会った時も猫探してたっけな、なんてつい最近の出来事のような記憶を思い返してると縁側の下でうずくまっている猫を見つけた。
静かに近寄り抱え上げても逃げる様子もなく静かに腕に収まる猫。
聞いた通りに鉢の下にある鍵で玄関を開けて門のスペアキーを持ち出してから戸締りをして、内側から門を開けて通りに出た。
新八の方を見ると、新八の手首に縄をかけようとしていた沖田クンが俺に気付いて「マジじゃん」と淡白に驚いていた。
「おめぇ当分うちの子だからな」
万事屋に戻りながら猫に声をかけると、片腕におさまる猫は居心地良さそうに目を閉じながらそれでもいいと言ってるようにみゃんと鳴いていた。
***
「これ⋯⋯」
丁度その頃、また子は名前が使っていた部屋を整えていると小さな鞄を見つけた。
一応中身を確認すると、鍵が二つに綺麗な淡い色のハンカチや数枚の絆創膏など柔らかな雰囲気の名前を表すような物がいくつかあり、また子は鞄を丁寧に持ち直すと高杉のいる場所へと向かった。