彼は誰時の菫空
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目が覚めると病院特有の匂いが漂うベッドの上で横になっていた。
最後に見た視界よりも景色が広がっていて、左目にあてられていたものが無くなっているのはすぐにわかった。
横になってるだけなのに肩と脇腹は痛みを主張しているし頭痛も酷く、とりあえず誰か呼んだ方がいいのかなと呼び出しのボタンを探すため手を動かそうとしたら重さを感じて、薄く開けていた目を向けると見慣れた白いふわふわがあった。
「ぎん⋯」
名前を呼びかけた口をすぐに閉じた。
ベッドに腕や顔を乗せて静かに眠っている銀時は、頭に包帯を巻いていたり顔には大きな絆創膏が貼られていたり至る所に怪我を負っていて、綺麗に伏せられた目元には薄らと隈がある。
きっと服の下にも沢山傷があるのに、それでも今こうして明らかに体を痛めるような姿勢で椅子に座りながらベッドに伏して眠っている姿に目頭が熱くなった。
右手に乗せられてる手はすごく温かくて、私を思って側にいてくれているのを嬉しく思うべきか、もっと自分を大切にして体を休めてと叱るべきか、どちらにしてもお互いが無事だったからこそ出来る事で。
疲労が浮かぶ顔でも静かに眠る姿に心底ほっとした。
頭や頬の傷にそっと触れたくなったけど変に起こしたくもなくてもう少し寝顔を眺めてることにした。
「⋯⋯んあ⋯」
それからずっと見つめていたら、ぴくりと小さく身体を震わせて声を漏らしながら頭を搔いた銀時。
もぞもぞと体を動かすとやっぱり変な姿勢で寝ていたからか痛そうに首に手を当て揉んでいる。
「おはよ」
そっと声をかけたら凄い速さで上体を起こして目を見開きながらこちらを見つめる視線と目が合った。
「おはよ、銀時」
今度は自分の手を銀時の手に乗せて古傷から真新しい傷まで幾つもある小さな傷跡を優しく撫でると、暫く何も言わずにこっちを見てた銀時は顔を伏せながら両手で私の手を強い力で握ってきて、右手からは温かい圧迫感が伝わってきた。
「⋯おめぇどんだけ心配かけたと思ってんだ」
「うん」
「一人でどっか行きやがって」
「うん」
「馬鹿だろ」
「うん」
「マジでよ⋯」
そこまで言うと言葉を止めた銀時は顔を上げた。今まで見てきた中で一番情けなく眉を下げて一番優しそうな顔で微笑んでた。
銀時の言葉を聞きながら視界はぼやけてうんうんと頷くしか出来なかったけれど、どれだけ心配されていたかが伝わってきて私もくしゃりと微笑んだ。
︙
「⋯小太郎は?」
「イメチェンしてた」
「イメチェン?」
「あぁ⋯てかお前俺よりヅラなの?まじ?」
銀時はいつものようにだらしなく椅子に座りながらも手に触れる私の手を拒むことはなく、馬鹿なの?やっぱそうなのお前?と呆れた顔で私を軽く睨んでいた。
子供みたいに小さく拗ねる姿がほんの少し可愛かった。
「⋯だって銀時はここにいるじゃん」
ほら、と触れていた手を銀時の指へ絡めて優しく握った。
ぴくりと動いた指先に気付きながら「ね?」と銀時を見ると、指先を見つめながら俯いてる銀時の耳はほんのり赤くなっていて、それがやっぱり可愛くて小さく笑うと銀時は顔を反らしてポリポリと頭を搔いた。
その様子を見ながら、ふと自分の言葉に疑問が浮かんだ。
「⋯⋯なんで銀時ここにいるの?」
「は?」
あまりよく覚えていないけれどここはどう見ても病院だし、きっと燎さんが連れてきてくれたんだと予想はできた。でも、なんで私が病院にいるのを銀時が知ってるのかが不思議だった。
「居ちゃ悪ぃかよ」
「いや違うの!私病院居るなんて言ってないし、そもそも会ってないよね?」
小太郎の話も新八くんから聞いて、その時に銀時は別件でいないのは知ってた。思うとあの時から銀時を見かけてないし、銀時だけじゃなく新八くんや神楽ちゃんにも会ってない。人伝に聞くこともないと思う。
でも今目の前には銀時がいて、小さな疑問が枝分かれしてどんどん謎が浮かんできた。
「電話があったんだよ、おめーの知り合いかってよ」
気怠そうに言う銀時の話を聞くと、病院から私の知り合いかと連絡がありそうだと答えると間柄を聞かれて、適当に兄だと答えたら苗字が違うだとかで面倒になったらしい。
なんで銀時に電話?と聞いてみると、ロビーに横たわってた私の側に紙が置いてあって、そこに書かれた番号に電話をしたら銀時に繋がったらしい。
やっぱり私をここに連れてきたのは燎さんなのかなと思いながら、何故万事屋の連絡先を?と思ったけれど晋助と一緒にいるような人ならいろいろ調べたのかなとあまり深く考えるのはやめた。
「⋯⋯お兄さん⋯」
「どう見ても似てねーだろ」
全くと言っていいほど見た目の共通点が無さすぎる私達。
なのに兄だと言い張ったという銀時の慌てぶりが容易に想像できて、つい声を出して笑ってしまった。
昔は皆兄みたいだなと感じていた部分も多いけど、いざ実際に兄だと通した話を聞くとやっぱり違和感しかないしそれが銀時なんだから尚更面白くて。
「⋯んだよ笑いやがって」
「ううん、似てないお兄さんも悪くないかなって」
「兄貴なんて御免だわ」
あー腹減った、と椅子から立ち上がった銀時は「なんか買ってくるわ」と病室から出ていってしまった。
今までと変わりない雰囲気や居心地の良さに安心して窓の外に目をやると、鮮やかな色に染る葉が風に揺れひらひらといくつか下に落ちていった。