彼は誰時の菫空
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以前お弁当を作った際のお客さんから仕事の催し事でまた頼めないかと話を頂いて、お弁当を届けた帰り。どうせならと少し遠回りで散歩をしながら帰ろうと歩いていた時だった。
少し先の方で、妙さんに似た女性が川へ何かを投げ入れていた。
え?と思いそのまま眺めていると、妙さんの近くにいた髪の長い女性と共に二人はその場を離れていく。
何かあったのかなと近付いてみると、道の端で川を眺める小さな赤ちゃんと、その目線の先で川に浮かぶ銀時の姿。
「⋯⋯銀時?」
何があったかわからないけど、先程投げ込まれたのは銀時だったらしい。そんな銀時は私を見るなり汗なのか水なのか雫を顔に浮かべながら顔を歪めていった。
何に対してそこまで顔を歪めてるのかはわからないけど、とりあえず川に落ちては危ないと思って目の前にいる赤ちゃんを抱き上げた。
「大丈⋯⋯」
怪我の有無を確認するために覗き込んだ赤ちゃんの顔を見て、一瞬思考が止まった。
「え?え⋯え⋯⋯?」
腕に収まる赤ちゃんは、ふさふさと猫っ毛のような銀色の髪に気怠そうな目をしていて、まるで、川に浮かぶ銀時と親子のようにそっくりな容姿をしていた。
***
「ったく、なんでどいつもこいつも人の話聞かねーんだよ」
「だって⋯ねぇ?」
「んぶ」
川から上がるなり水を含んだ着物のまま裏路地へ行くと靴や着物からできる限りの水気を落とす銀時。
私は赤ちゃんを腕に抱きながら事の成り行きを聞いた。
銀時はああ言ってるけど、話を聞く限りでは間違いが無い訳でもないらしいし周りの人達の反応も考慮すれば、話を聞いてもらえないのも疑惑が浮上するのも致し方ないのでは?と思ってしまう。
「パパはどこかな?ここかな?」
頬をつんつんと触りながら話しかけると「んぷう」と返事をする小さい銀時のような赤ちゃん。
銀時も小さい頃はこんな感じだったのかなと思うと、自然と頬が緩んでしまう。
「おめーの親どこだよ、お父さーんって呼んでみ?」
「ばぶ〜」
私の腕にいる赤ちゃんへ銀時が声をかけると、似た顔で返事を返す赤ちゃん。
すると道の奥からぞろぞろと笠を目深に被った数人の男性が突然現れ、同時に背後も数人に塞がれてしまい先程までのほんわかとした空気が一瞬にしてピリピリと張りつめたものに変わってしまった。
「なに⋯」
不穏な雰囲気を感じて赤ちゃんを抱く腕に力を込めると、赤ちゃんもきゅっと私の着物を掴んでいた。
「⋯オイオイ随分とお父さんがいるんだな」
そんな私達の前に堂々と立っている銀時は普段より僅かに低い声で言葉を発すると木刀へ手をかけていた。
***
目の前の男達は俺がガキを誘拐したと決めつけるように話を進め始め、みな腰の刀へと手を伸ばし始めた。
「誘拐とかワケわかんねェけど返して欲しけりゃ返すわ!こちとら迷惑してんだわ」
俺によく似たガキを抱いて笑ってる名前を見た時は、悪くねえなとかチョット思ってたのによ。
背後にいる名前から赤ん坊を受け取ろうと振り返れば、眉を下げて心配そうに俺を見上げる名前が小さく「銀時⋯」と呟いて、腕にいるガキは男達を拒むように名前の着物を強く握りしめていた。
「⋯おい名前、そっから動かずにそいつしっかり抱いとけよ」
再び前を向くと、同時に声を上げた男達。なんとかしてこの場をやり過ごすしかねえと男達へ斬り掛かりなぎ倒していくが、ただ一人正面からしっかりと受け止めた男がいた。
***
銀時を受け止めた男と何かを話している銀時。
すると男は何故か刀を下ろして道を開け、その一瞬の隙に銀時に手を取られて引かれるように男の隣を通り抜けると、この場から必死で離れた。
「行ったぞ」
偶然出会った小太郎に協力してもらって追手をまくと銀時と小太郎は何かを話し始めて、その間に赤ちゃんをあやしているとようやく怖さも落ち着いたのか手を緩めて着物を離してくれた。
でも本当に見れば見るほど銀時に似てるなぁ、と改めて思いながら頬を触ったり頭を撫でていると、話を終えたのか二人が近づいてきた。
「名前は赤子も似合うな、走ってきた時はてっきり銀時との」
「何言ってんのオマエ!!橋田屋の孫って言ってただろーが!!」
私を見た小太郎は腕を前に出してきた。
ゆっくりと赤ちゃんを小太郎の腕へ渡すと「しかしこの赤子どう見てもそっくりだぞ」と小さな目を見つめていた。
「だよね?私もてっきり銀時の子だと思って」
本当にそっくり。ふとさっきの光景を思い返して、なにか追われるような生活を送っているのかなと思うと心配になってきた。
「こんなに小さいのに追われる身なんて大変だね」
明確な返事は返ってこないとわかっていながらもつんつんと柔らかい頬を触りながら言葉をかけると、あぷう、と私の指を掴んできた。
「残念だがおめーの母ちゃんはこいつじゃねェんだ」
ふいに銀時は小太郎の腕から赤ちゃんを抱き上げると、自然と掴まれていた指も離れてしまう。
「変なのに巻き込んで悪ィな、お前もう帰っとけ後は何とかすっから」
「⋯⋯気をつけてね」
なぜか不安を感じて銀時へ言葉をかけると、銀時はすぐ隣にいる小太郎へ目線を移して「おいヅラ名前送ってってくれ」とだけ伝えるとどこかへ歩いていってしまった。
「ヅラじゃない桂だ!⋯ったくどこまでも勝手だなあいつは」
追手のこともある家まで送ろう、と笠を被り銀時へ呆れたように軽く息を吐く小太郎はそっと私の背中に手を添えた。
ありがとうとお礼を伝えて、言われた通り家までの道のりを小太郎と共に帰った。
その後新八くんからお母さんの元へ戻ったと連絡があって、本当に良かったと思いながらあの似た二人を想像して小さく笑みがこぼれた。