彼は誰時の菫空
名前設定
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銀時を探している途中、いつも果物を買いに行っているお店の屋台があって挨拶をしに顔を出すと大粒のいちご飴を貰って、それをちびちび食べながら歩いていると、割と早くにふさふさと目立つ白い頭を見つけた。
「銀時!」
「うおっ、なんだ名前か」
近付いて着物の袖を軽く引っ張るとこちらを振り向いた銀時。
見上げると屋台の電飾や会場の提灯の灯りに照らされた銀時の顔と目が合い、光を纏った顔があまりに綺麗で言葉を忘れてしまい銀時の顔から目が離せなかった。
「新八んとこ居たんじゃねーの?」
どれだけ見つめていたのかわからないけど、銀時にそう言われ自然と掴んでいた袖を離して「うん」と返事をしながらゆっくりと歩き始めた。
「神楽ちゃんが射的してたんだけど、銀時いないから探しに来ちゃった」
いちご飴を食べながらそう答えると、いつもと何も変わらない格好なのに祭りの雰囲気や明かりのせいかいつもよりかっこよく見える銀時は視線を逸らしながらガシガシと頭を搔いていた。
かっこいいね、と言いかけた言葉は小さくかじったいちご飴と一緒に飲み込んでしまった。
たった一言を躊躇ってしまったのはどうしてなのかわからなかったが、なんとなく、かっこいいと思った瞬間どきりと胸が大きく震えた気がした。
「うまそうだな」
それ、と私が食べているいちご飴のことを指した銀時。
「すぐ近くだけど買いに行く?」
甘くて美味しいよ、と伝えると「んやいいわ」と短く答えるとまた前を向いてしまった。
甘いものが大好きな銀時ならてっきり気分を上げて買いに行くと思っていたから、少し驚いていると「名前」と呼ばれた。
「ん?」
甘ったるくも癖になる飴の溜まった部分を舐めながら銀時を見上げると、身をかがめた銀時がいちご飴を持っている私の手に自分の手を重ねると伏し目がちな顔を私の目の前まで近付けてきた。
じゃりっ、と音が聞こえるとすぐに離れていく銀時の顔と手。
何が起きたのか理解出来ずに歩く足も止まり瞬きも忘れて固まってしまった。ただ、今まで見たことの無い距離で見つめてしまった銀時の顔や重ねられた手を思い出して、じんわりと顔と手に熱がこもり始めた事だけはわかった。
「あっま」
何かを噛みながら息を吐くように静かに呟いた目の前の銀時は、唇についた赤い飴の欠片を親指でぬぐうとその親指に付いた欠片をぺろりと舐めた。
その一連の流れを見て手元のいちご飴に視線を落とすと半分ほどが無くなっていて、漸くいちご飴を食べたんだと理解するとますます熱くなる顔と手。
「⋯⋯あ、も、もう一つ買ってくるッ」
これ以上ここに居たら、これ以上銀時を見続けたらやばいと思って咄嗟にそう伝えると小走りでその場を離れた。
***
袖を引かれて振り返ると会いたかった名前がいた。
しかもいつもの淡い色の着物とは違い赤が映えた白い浴衣を着て、髪もいつもよりなんかふわっとしてて、化粧も浴衣に合わせたのか頬や唇がいつもより赤く見えた。
その普段より可愛らしい姿に見惚れて見つめ続けていると、俺が目線を外さないせいか名前もこちらを見つめたままだった。なんとなく恥ずかしくなってつい新八んとこにいると思ってたと伝えると、俺を探しに来たと随分可愛らしい事まで言いやがる。
こいつ気付いてんのか?気付いてねえのか?どっちにしろタチ悪すぎるだろと頭を搔いた。
いつもより赤い口元で、その口元に負けじと赤く主張をするいちご飴を食べていた名前。小さくかじったり赤い舌を出してぺろりと舐める名前を横目に見ながら、気付くと「うまそうだな」と言葉が口から出ていた。
「それ」と言葉を続けていちご飴を指したものの、今何を見てそう言ったのかわからなかった。いちご飴か?それともいちご飴を食べていた名前か?どの道思ったことが口から出るのはやべぇだろと思った。
当たり前に、そんな気持ちになど気付きもしない名前は買いに行くかとさえ聞いてくる。短く遠慮して名前を眺めると、赤やオレンジや黄色といったこの場所が発する様々な明かりに照らされている名前が視界に入る度に恍惚とさせられる。
「名前」
名前を呼ぶと飴を舐めながらこちらを見上げる名前。その光景に胸がどくどくと煩くなりながら身長差を埋めるように身をかがめて、飴を持つ手に自分の手を重ねながら少し目を伏せて名前の口元にある憎らしい飴に思いきりかじりついた。
じゃりっと音が聞こえて、すぐに重ねた手と近付けた顔を退かした。
やっべ、と思った。これじゃ口から出るだけじゃなく行動にまで出てるじゃねぇか、と。段々と耳が熱を持ちいたたまれなくなり名前を見ると、明かりや化粧のせいだけではない赤みを顔全体に帯び大きな目をさらに大きくさせて固まっていた。
その反応はまるで、まるで少しでも俺に気持ちがあると錯覚してしまいそうなほどに可愛らしいものだった。
口から自然と言葉が漏れるほどの甘ったるい味をかみ締めながら名前を見ると、口元の半分かけたいちご飴のように赤くなっていく。
なぜか名前の口に塗られている紅が自分にも付いているような気がして親指でなぞってみても、指には憎い小さな糖の欠片がキラキラと付いているだけで、舐めてみても先程のような甘さは感じられなかった。
「⋯⋯あ、も、もう一つ買ってくるッ」
顔を苺のように赤くさせた名前はそう言うと返事を聞かずに早々と離れていき、その後ろ姿を見ながら口の中に残る甘ったるさを感じつつ、案外悪くはねぇなと口元が緩んだ。