彼は誰時の菫空
名前設定
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「名前さんは祭り行くんですか?」
「あのターミナルでやるっていうお祭りのこと?」
そうです、と珍しく三人揃ってお昼を食べに来た万事屋御一行である新八くんが唐突に尋ねてきた。今日は珍しく勝ったからと二人を連れてきたのが私のお店だったらしい。
「名前も行こうヨ!屋台制覇するネ」
「こいつはお前の胃袋とは違ェんだよ、リンゴ一つとかで腹膨れる女なの」
「お前に名前の何がわかるネ腐れ天パァ!」
銀時と神楽ちゃんがガヤガヤしながらも一切気にしてないといった様子で、僕達行くんですけど一緒にどうですか?と聞いてくる新八くん。
「お祭りならお客さんも流れちゃうだろうし、私も行こうかな」
割と大きな祭典だったと思い出して、少し悩んだけれど行くことにした。なによりこうして誘われるのはすごく嬉しかったし、自分の店なので休みなど自由にとれる利点もあったから。
「その日は夕方配達の人が来るから、少し遅れて行くね」
新八にそう伝えて神楽ちゃんの前に定食を出すと「ひゃっほおおい!名前と屋台巡りアルー!」と嬉しそうに大盛りのご飯を食べ始めた。
「あまり無理させちゃだめだよ神楽ちゃん」
「おめーも無理に付き合わなくていいからな」
続けて新八くんと銀時へ定食を出すと、言葉を言いながらも定食を食べ始めた二人。
この三人を見ていると家族みたいで自然と笑みが出てしまうし、眺めているだけで温かくてつい自分まで楽しい気持ちになってしまう。
一つ空けて隣の席へ座っていた魚屋を営むお客へも料理を出すと「賑やかですね」と言われてしまい、つい「いいですよね」と言葉を返すとお客さんも笑っていた。
***
どうしよう。
いつも店に立っているということもあり普段着として着物を着ていたが、人の集まるこの季節の祭りとなると浴衣かなあと思い、配達を受け取ってから部屋に戻るといくつかある浴衣を眺めながらどれを着ていくか悩んでいた。
どうせなら普段とは少し雰囲気の違うものでも、と思って白地に大きな赤い花が一つだけ描かれているものを選んで、髪もいつもより少し緩く軽さが出るように纏めてみた。なんとなく白に赤という組み合わせがふわふわとした髪と気怠そうな目の人物を連想させて、鏡に映る自分の顔に目をやると普段より緩い表情をしていて少し驚いた。
『もしもし新八くん?ごめんね遅れちゃって』
『あぁ名前さんお疲れ様です!今神楽ちゃんと射的のところにいて⋯』
屋台の並ぶ場所へたどり着き先日連絡用にと聞いていた新八くんの番号へと電話をかけると、新八くんの声と共に祭りの賑やかな音が電話口からも聞こえてきた。大まかな場所を聞いて探していると、遠目からでもわかりやすい二人をすぐに見つけた。
「名前さん!」
「名前ー!」
りんご飴を食べている新八くんと焼きとうもろこしを食べている神楽ちゃんが笑顔で迎えてくれた。
「その浴衣似合ってるヨ!美人は何着ても似合うネ」
神楽ちゃんの口元についているとうもろこしの粒を取っていると神楽ちゃんからかけられた言葉が素直に嬉しくて、ありがとうと伝えると笑顔の神楽ちゃんにつられて自然と頬が緩む。
「なになに?えらく美人なネーチャンじゃん二人とも知り合いなの?」
「あれ、長谷川さん会ったこと無いんでしたっけ」
「マダオが知ってるわけないネ、そもそも知ってても教えるわけないネ」
長谷川さん。マダオ。そう呼ばれたサングラスのおじさんは、イヤイヤ教えてくれても良くない!?と悲しい声を出していた。
「えっと、苗字です、小さな料理屋をしてて⋯」
そんな二人と一人を眺めながら控えめに挨拶をして、ちょっとやっていこうかなと射的へ興味を持った新八くんをちらりと眺めた。
その言葉を聞いた長谷川さん?は「サービスするよ!」と言い射的銃を神楽ちゃんに渡すと、当てればなんでもくれるアルか?と尋ねる神楽ちゃん。
「あぁあげるぞ〜、よ〜く狙っ⋯」
そう言うなり言葉を途中で途切れさせた長谷川さん。その原因は、神楽ちゃんの撃ったコルク玉が長谷川さんのサングラスへヒットし、勢いのある玉が当たったサングラスの片側はひび割れ目からは血が出ていた。
「えっ?ちょッ違っ⋯」
言葉を遮るようにパンと音を鳴らして放たれた玉は長谷川さんの腕時計へもヒビを作る。
「腕時計ゲーッツ」
いつの間に参加していたのか、神楽ちゃんの隣には隊服を身につけながらイカ焼きを食べている男性の姿。二人は互いを睨み合うように目線を合わせると、長谷川さんの言葉など聞かずにパンパンと次々にコルク玉を長谷川さんへ向けて撃ち始めた。
その異様な光景を新八くんと並んで眺めていたが銀時がいないことに気付いて新八くんに尋ねると、どこにいるかわからないらしい。
「ちょっと探してみるね、神楽ちゃんお願いしてもいい?」
「はい!お気をつけて!」
新八くんへ軽く手を振ってその場を離れると、屋台を眺めながら銀時を探し始めた。