彼は誰時の菫空
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「そろそろ花見だなぁ」
「お前んとこはあれか?かみさんと行くのか?」
仕事の合間にお昼を食べに来ているお客さんの話を聞きながら、そういえば最近は随分暖かくなって桜も咲き始める頃になったなと感じた。
「そういえば名前ちゃんは弁当とかやんのか?」
魚を焼いている間に和え物を小鉢に盛り付けていると、先程まで話していたお客さんの一人が唐突に話かけてきた。
「お弁当ですか?」
「そうそう、ほら花見つったら弁当だろ?名前ちゃんの弁当はうめえだろうなってな」
「確かにな!」
目の前の二人はガハハと楽しげに笑いながらも、花見といえば団子だ酒だとまた会話に花を咲かせていた。
花見のためのお弁当を作る、とは考えたこともなかった。
でも確かに綺麗な桜を眺めながら食べるお弁当は美味しいと思うし、いいものかもしれない。
「お二人は、もし私がお花見のためにお弁当を作ったら食べてくれます?」
私はそれぞれの定食を出しながら尋ねると「そりゃ勿論だろ!」「嫁も喜ぶだろうなぁ」とお世辞抜きのストレートな物言いで答えてくれて、お客さんの声もあって挑戦してみることにした。
配達は出来ないし全部一人で準備しなければいけないから数も多く作れない。
それでも喜んでくれるお客さんがいるならと、お会計時に二人のお客さんから大まかな値段や大きさ、食の好みや日にちを聞き実際に作りますと約束をした。
その後その二人から聞いたと数名のお客さんからも頼まれて、限られた日の中で準備を進めながら少しずつ色付いていく桜を見かけてわくわくしてた。
お弁当は全員午前中には取りに来てくれるらしくて、ここ数年お花見に足を運んでいないこともあって午後はお店を休み桜を見に行こうと思っていた。
するとタイミングよく新八くんから花見に誘われ、午後で良ければと快くお誘いに乗り、どうせならとみんなと食べれるようなお弁当を作ろうと思って神楽ちゃんや新八くんの好き嫌いを考えながら花見の日を待ち遠しく感じていた。
***
「ありがとうな名前ちゃん!」
「いえ!こちらこそありがとうございました!」
最後のお客さんへお弁当を渡してお店を閉めた。
冷えることも考えて長羽織を身につけお重を手に持ちながら、心地よい空の下ゆっくりとした足取りで花見の場へと向かった。
「⋯⋯えっと⋯」
そうして指定された場についてすぐ、よくわからない状況が目の前に広がっていて理解が追いつかなかった。
男性が倒れている横で新八くんと綺麗な女性が笑顔で座ってて、近くでは銀時と男性が酔いつぶれているのか具合が悪そうに横になってて、少し離れたところでは神楽ちゃんと若い男性が殴り合いのようなことをしてて。
「名前さん!すみません今ちょっとごたついてて⋯」
どうしようかと立ち尽くしていると、私を見つけた新八くんが近寄ってきて座っていたシートへと招いてくれた。
「新ちゃんこちらの綺麗なお方は?」
「あぁ姉上!この前話した銀さんの知り合いの名前さんです。名前さん、こちらは僕の姉上で⋯」
「初めまして名前さん、妙です」
綺麗な見た目で笑顔の似合う女性は新八くんのお姉さんだった。
こちらこそと挨拶を交わして腰を下ろすと「名前さん!?また会えるなんて!」と隣から声が聞こえて、自然と声のした方へ振り返ると以前お世話になった山崎さんの姿もあった。
「山崎さん!こんにちは、この前はごめんなさい」
「いやいや無事でよかったよ本当!」
「⋯二人とも知り合いだったんですか?」
山崎さんへ声をかけると、意外そうに尋ねてくる新八くん。
前に変な人達に絡まれていた時に副長が助けてあげてて、と山崎さんが答えると「女性に手を出すなんて一生手を出せない体にしてあげればいいのよ」となんとも物騒な言葉を笑顔で言い放った妙さんの見た目とのギャップに一瞬フリーズしながら、そういえばと作ってきたお重を新八くんへ渡した。
「ありがとうございます!⋯神楽ちゃんと銀さんは取り込み中らしいので先に頂きましょう、自業自得ですし」
「えっ、これ名前さん全部作ったの?!美味しそう、というか絶対美味しい!」
「本当美味しそう、それに綺麗」
少し冷めた目で遠くを見つめる新八くん、早速つまもうと手を伸ばしてる山崎さん、取り分けるための紙皿を用意している妙さん。
そしてそんな三人の横に倒れたままピクリとも動かない男性。
誰からもこの男性についての説明がなく、さすがに気になって「この方は⋯」と尋ねたものの、誰からも返答を貰えなかった。
⋯触れちゃいけないんだと直感的に理解した。
少し離れるね、と新八くんに伝えて、どうしても気になって未だに具合の悪そうな顔で潰れている銀時の元へ向かった。