彼は誰時の菫空
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他愛もない話をしていると神楽ちゃんと新八くんが一緒に顔を見せ、神楽ちゃんはもう寝るらしく目を擦りながら小さく欠伸をこぼして定位置だという押し入れへと向かい、今日はご馳走様でしたと軽く頭を下げた新八くんはそう言うなり玄関へと向かって行った。
ふと気づけば外は暗くなっていて、時計を見ればいい時間。
手元にあったお茶を飲み終え「私もそろそろ帰ろうかな」と腰をあげると、銀時もゆるりと立ち上がった。
「プリン買ったんだけど新八くんと神楽ちゃんが居るの知らなくて、冷蔵庫に入れてあるから後ででも食べて」
「おーまじかさんきゅー」
数が足りずに出せなかったプリンの事を伝えると、やはり甘いものとなれば嬉しそうな銀時を見て少し笑えば、ンだよいいだろと少し乱暴に頭を撫でられた。
ふと、昔もこんな風に撫でているのか荒らしているのかよくわからない手つきで頭を触られたなと思い出しながら草履を履くと、続けて銀時もブーツを履こうとしているのが見えた。
「ちょっと何してるの?」
「何ってお前この時間だぞ送」
「らなくていいから!神楽ちゃん一人でしょ!?」
アイツなら何があっても大丈夫だろという銀時へ一人で帰れるからと伝えると、渋々といった様子でブーツを脱いだ。
「急に来てごめんね、ありがと」
「気ぃ付けろよ」
いつも言う側であった言葉を言われながら玄関の扉を閉めると、空はすっかり暗くなり月明かりや街灯が綺麗に映えた景色が広がっていた。
もう暫くすれば桜も咲き始める時期に差し掛かりながらも、夜はまだまだ冷えていてたまに吹く風は冷たく頬を撫でていく。
万事屋と家との間はそこまで離れているわけではないが、ここに越してきてから夜の景色をあまり見た覚えがないのもありいつもより時間をかけゆっくりと夜の街を眺めながら家へと向かっていた。
沢山の店が様々な人達で賑わい、どこも同じく疲れなど忘れ楽しみで溢れている。夫妻の店を手伝っていた頃も近所の人達がよく集まりご飯やお酒を囲みながら賑やかにしていたのを思い出して、そこまで昔のことでもないのに懐かしさを感じた。
もう少し経てばお店をはじめられる。ここで賑わう店のような場所になれるといいなと思いながらのんびり歩いていると、背後から肩を触られ声をかけられた。
「ねぇ一人?俺達振られちゃってさ〜」
「って超可愛いじゃん!今からあの店いかない?奢っからさ」
振り返ると、いかにもといった身なりの男性二人が顔を赤らめ酒の匂いを纏いながらへらへらと笑っていた。
「⋯すみません私もうご飯は済ませたので」
やんわりと笑顔を向けて断りを入れながら肩へ置かれた手をさりげなく離そうとすると、いいじゃん一杯くらいさ?と逆にその手を掴まれてしまった。
「あの、ごめんなさい本当に⋯大丈夫です」
「そう言わずにさ?俺ら奢るっつってんじゃん」
再度断りを入れると、少し強くなった口調と共に腰に回された手に怖さを感じて既に掴まれている手を振りほどこうと力を込めてみても、酔っている相手は加減を知らないのか一層力を込められ手首が痛みを感じ始めていた。
「お前ら何してんだ」
そんな時、背後から明らかに自分達へ向けたであろう声が聞こえて、先に男二人が振り返ると触れられていた手が一瞬ぴくりと跳ねたように感じた。少し遅れて私自身も振り返ると、そこには煙草を咥えながらこちらへ歩いてくる隊服姿の男性がいた。
「何してんだ」
再度問いかけられた言葉を聞くなりすんなり手を離した男二人は、ひたひたと音が聞こえそうなほど汗をかき目は泳ぎまくっている。
「い、いや〜俺達なんもしてねえよ!な?!」
「そそそそうっすよ!ほら!知り合いかと思ったら違ってただけでよ!」
隊服姿の男性を見るなり驚く程に態度を変えた二人は躓きながらもどこかへ走り去って行った。
***
「大丈夫か」
男二人が逃げていき、目の前に残された女は先程まで掴まれていた手首を胸元でさすりながら焦点の定まらない目でこちらを見ていた。
「おい」
「⋯⋯あ、えっと」
少し待ったが返事がないため半歩ほど近付き再度声をかけると、ようやく気付いたのか控えめに反応した。
「こんな時間に女一人で出歩くたァ感心しねえな」
一息吐いてから怪我はねぇかと続けて聞くと、目の前の女は微かに手首をさする手に力を込めると眉を下げた。
「大丈夫です⋯すみません、帰る途中だったんですけど、その、勘違いされたみたいで」
明らかに絡まれていたにも関わらずあくまで男が言った通り勘違いされていたと控えめに微笑む女は、ありがとうございますと頭を下げた。
「⋯まぁ、怪我してねえならいいんだ。家どこだ?送ってく」
「いえッその、すぐそこなので大丈」
「また勘違いされてえのかお前は、これも仕事だ大人しく送られとけ」
謙虚なのか馬鹿なのか、また絡まれそうな雰囲気が漂いまくっている女に仕事だと言えば素直に大人しくなった。