彼は誰時の菫空
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「すみません本当、銀さんの知り合いなら尚更叩いてでも起こしたんですけど」
「いいのいいの、新八くんこそもう謝らないで!今日すごい謝られてる気がするから」
台所を借りて食材を切りながら、先程改めて自己紹介をしてくれた新八くんと話をしていた。
来るなら連絡くらいしろよ、とぼさぼさと頭を搔きながら銀時は言ってたけど、お肉貰ったしどうせなら一緒にどうかなって、と言えば「んじゃ俺ァもう少しジャンプ読むわ」と顔にジャンプを乗せ動かなくなってしまった。
そんな様子に少し呆れつつも、台所に行ってもいいか尋ねると「僕も手伝いますよ!」と言ってくれた新八くんと一緒に台所で準備をしてた。
「いつも迷惑かけられてない?」
「⋯まぁ、もう慣れました」
乾いた笑みと一緒に溜息のように言葉を吐きながら切った食材を並べていく新八くん。
こんなに優しく気の利く子が働いているのに、慣れたという言葉を聞いて少し不安になってしまった。
「何か不便な事とかあったら言ってね」
「いえ!僕こそ、こんな綺麗な方があんな人の知り合いだったなんて驚きですよ」
女性が言われて悪い気はしない言葉をさらりと言われてつい頬が緩んでしまう一方で、銀時をあんな人と呼んでいた事実に益々不安が頭を過った。
「んな事言ってもコイツからなんも出ねーぞ」
気付くと台所へ入ってきた銀時は、若干背を丸め私の顔のすぐ横から手元を覗き込んだ。
「おー美味そうじゃねぇか、あとどんくらい?」
「⋯あともう少しかな」
近すぎる距離から聞こえる声とふんわり触れた髪に少しだけどきりとしながら答えると「いやアンタ寝てただけでしょ」という新八くんの小さな声が聞こえた。
そんな声を特に気にすることも無く冷蔵庫からいちご牛乳のパックを取り出し台所を後にした銀時と、小さく溜息をつきながら今日だけで何度目かの謝罪を口にする新八くん、そんな新八くんへ曖昧に笑顔を向けて残りの準備へと手を動かした。
「新八くんお鍋とかお願いしてもいい?」
「はい!」
食材を乗せたお皿を持ちながらまた別の部屋へと向かい準備をする新八くんの後を追うように部屋へと向かう途中「ただいまヨ〜」と独特な女の子の声が玄関の方から聞こえてきた。
振り返ると傘を手にしたチャイナ服姿の可愛らしい女の子が立っていた。
そのくりくりとした丸い目と視線がぶつかって「こんばんは」と無難に挨拶をすると、私の方へ歩いてきた女の子はまじまじと私を見つめた。
「新八〜誰アルかこの美人、銀ちゃんの女アルか?」
まさかの言葉に少し固まっていると部屋から戻ってきた新八くんが「神楽ちゃんおかえり」と女の子に声をかけた。
銀さんの知り合いだって、と軽く私のことを紹介してから「運びますね」と私が手に持っていたお皿を持ち上げると部屋へと消えていった。
「銀ちゃんの友達アルか!私は神楽よろしくネ!」
神楽ちゃんと呼ばれた女の子は私へ抱きついて、その細い体のどこにそんな力があるの?と思うくらいその腕には徐々に力が込められていく。
「私は苗字名前っていうの、神楽ちゃん⋯よろ⋯し⋯⋯」
強い力というか強すぎる力に徐々に絞められていく圧迫感から少し言葉に詰まり始めていると、それに気付いてかバッと腕を離した神楽ちゃんは「大丈夫アルか⋯?」とその可愛らしい顔をほんの少し不安げに曇らせながら顔を覗き込んできた。
大丈夫、と伝えると先程よりもだいぶ弱まった力で再度抱きついてきた神楽ちゃん。
「準備出来ましたよ」
ついその様子が可愛くて頭に優しく手を置くと新八くんの声が聞こえてきて、神楽ちゃんを連れて部屋へ行けば取り皿を置いている新八くんと既に食べようとしている銀時がいた。
「銀ちゃんだけズルいアルよ!」
転びそうな勢いで自分の場所へと腰を下ろした神楽ちゃんの年相応な様子を眺めて自然と笑みがこぼれた。
︙
食事中は何かの争いが起きているのかと思った。
新八くんが用意したご飯はあまりに多く、これだけの量を一体どれだけの日を使い消費し切るのかと心配になっていたら、たったの一晩、一食で底をついた。
主に神楽ちゃんの胃へと消えていったご飯。
最初は箸が止まるほど彼女の食欲に驚かされていたけど、彼女は夜兎という種族の女の子でこれが普通なのだと聞かされて更に驚いた。
多めに作ったと思っていたすき焼きもあっという間に無くなってしまい、せめて片付けは任せて欲しいという新八くんに「それじゃあ⋯」とお願いした。
その後すぐ流れるように神楽ちゃんはお風呂へと向かっていき、先程まで賑やかだった部屋に銀時の私の二人だけが残され、随分と静かになった。
「⋯神楽ちゃんまだ若いと思うんだけど」
「仕方ねーだろ俺だって頼んでるわけじゃねぇしよ」
神楽ちゃんもここに、しかも押し入れの中で夜を過ごしていると聞いて、一歩間違えれば犯罪では?と思ったけどどうやら当人達はそれで良いらしいのであまり深くは考えないことにした。
「店まだやんねぇの?」
「あと二週間くらい後になるかな」
あまり興味が無さそうに天井を見つめている銀時。
「まあ気が向いたら行ってやるよ」
なんて言葉を口にする銀時を見ながら、昔から素直じゃないなと少し笑いながら「よろしくね」と言葉を返した。