彼は誰時の菫空
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「⋯んでそのジジババがくれた店やんのか」
「そう」
銀時とファミレスで話をしながらも、彼らと別れたあとの数年のことは勿論怪我のこともさすがに言えず、身売りされてすぐに夫妻に拾われ一緒に暮らし始めたと伝えた。
「まあいんじゃね、お前飯うまかったしな」
銀時は苺やソースやチョコが乗った甘ったるそうなパフェを食べながらそう言った。
「まだ一ヶ月くらいは準備とかあるだろうけど⋯今日は引越してきたばかりだし普段使うものが無いから買いに出てて」
銀時は?とサラダを食べながら聞くと、猫探しで外に出てたけど逃げられたしよ〜となんとも気怠そうに言葉を返した。
「つかあれだろ?買い物ってあのでけーとこだろ」
つんつんと柄の長いパフェ用のスプーンで外を指す銀時の目線の先へと目を向けると、確かに行こうとしていた複合施設があった。
「うん、シャンプーとかそういうの欲しくて」
そう言うと、パフェを食べ終えた銀時はそのスプーンで私のサラダからミニトマトをすくいながら「俺万事屋なんだけど」と小さく呟いた。
「うん、さっき聞いたよ」
銀時に攫われたあまり得意では無いトマトを目で追いながら、銀時の言葉の意味がよくわからずそのまま言葉を返した。
「⋯だからお前あれだよ?ティッシュとかそういうの買うだけで両手塞がるんじゃねーの?車もねぇのによ」
スプーンの上でころころとトマトを揺らしながら私を見つめる銀時。
銀時はきっと、万事屋である自分に依頼すれば荷物くらいは持つと言ってくれているとすぐにわかった。
あくまで依頼。
自分から付き合うと言わなそうな銀時は、言われるのを待っているのかな、と。
それが可笑しくて小さく笑いながら
「じゃあ万事屋の銀時さんにお願いしようかな」
と笑顔で頼むと、にんまりと目を細めた銀時の口にミニトマトが放り込まれた。
***
こいつトマト嫌いじゃなかったか?と思い出し、勝手にトマトを取り上げてみても名前から咎められることは無かった。
また、荷物持ちを頼まれ、というよりも頼むように仕向け買い物へと同行する許可も得た。
奢れよと言ったからか名前は迷うことなく伝票を持ち会計を済ませると、じゃあお願いしますね銀時さん、と小さく笑い俺を見上げながら隣を歩いていた。
「それやめろって、なんか気持ち悪ぃ」
自分で蒔いた事ではあるものの、こういう態度でこられるとは思っておらずムズ痒くなり自分の頭をぼりぼりと搔いた。
ファミレスで名前から話を聞いた時、内心ほっとした。
俺のような暮らしはしておらず、少なくとも良心の塊のような夫妻に拾われ育っていたと知り良かったと思った。
あんな別れ方を思えば、最悪どこぞのやべーやつに買われていた場合だってあったかもしれない。
俺らよりも何歳か若い名前は、身内贔屓を抜いたとしても当時から整った顔をしてた。
その綺麗な顔は実際の年齢よりも大人びて見える時もあったり。
だからこそ十四前後の容姿の整った女が身売りされたとなればその先は絶望的なものだと。だが今こうして、目の前には名前がいた。
口には出さないが随分と美人になってた。
元が良けりゃそのまま育つのかよ、と少し腹が立ちそうなくらいだった。それでもいざ大人になるとそこまで大人びて見えることはなく、年相応の美人。
下心が微塵もなかったかと聞かれたら当然答えはノーだった。
自分から荷物持ちや買い物の同伴をするなんて、日頃の俺を知ってる人であればみな驚くだろう。俺自身そうだった。
こいつが名前で、久しぶりに再開した昔の馴染みで、当時、陰ながら恋をしていた相手だったから。だから手伝おうと思ったのかもしれない。
俺の中で渦巻くいろいろな気持ちを知る由もない名前は、何買おうかな、と隣を歩きながら小さなメモを取り出すと眉を寄せその白い紙切れを見つめていた。