彼は誰時の菫空
名前設定
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「ねぇ名前ちゃん、これからどうするの?」
名前を見ながら静かに尋ねる菊。名前は正直この先のことを何も考えていなかった。傷が治ったのだ遅かれ早かれここからは離れて生きていかなければと思っていたが、名前に思い当たる場所など一つも無かった。
返答に困っている名前に気付いてか、静かに言葉を続ける菊。
「もしね?もしまだ未定ならね?ここでこのままお店のお手伝いをしてくれないかしら?実はここ最近名前ちゃん目当てで何回も来てくれたお客さんだっているのよ」
そう笑う菊の言葉は正直考えたことすらなかったもので、名前は目を大きく開き言葉を失ってしまった。
「私達もう歳だし、可愛い子がいてくれた方がお客さんも来てくれると思うのよ」
だからどうかしら?と目元の皺を僅かに深めて目を細めた菊は名前へ微笑みかけた。
ここ一ヶ月の間、まだ名前しか知らない名前を見ていて夫妻は日常が明るくなったと感じていた。
子供がいない。そう言っていた夫妻は子供どころか孫にあたる年頃の名前を見つけて、今にも事切れてしまいそうなほど弱い呼吸を繰り返して体を丸めた様子に酷く動揺して家へ入れた。
手当てをされている様子を見ながら、これも何かの縁かもしれないと治るまで家にいてもらうようにと名前へ提案したのだ。
最初は遠慮していた名前も次第に心を開いていった。
おはようございます!と毎朝明るく挨拶をする名前を見たり、実は料理になれていてある程度であれば難なくこなせていたり、裏に住み着いた野良猫へこっそりとごはんを与えているのを見かけた夫婦は、出来ることならこれからもここにいて欲しいと思うようになっていた。
「ね?どうかしら、お給料は多くは出せないけれど」
小さく笑いながら尋ねる菊に、名前は涙を浮かべながらも笑顔で短く「はい!」と返事をした。