ぱれっと
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今日も、彼は鴨の羽色のバンダナを頭に巻いて、コートに立つ。
「薫?」
「…奏か。」
夜の闇が街を包み、上を見上げれば白銀に輝く星が少し眩しく見える。
そんな時間に珍しく外出をした奏は、ロードワーク中であろう、幼馴染の海堂薫に偶然にも遭遇した。
街灯の僅かな明かりに見えた、鴨の羽色のバンダナに思わず声をかければ足を止め、此方に近付いてくる。
「あ、ゴメンね、練習の邪魔しちゃって。」
「いや、問題ない。こんな時間に何してやがる。」
「え?コンビニ行こうと思ったんだけどさ、近くのコンビニにお目当ての物がなくって。もう一軒先も見に行こうかと思ってて。」
「こんな時間に1人で行くんじゃねぇ。」
海堂はギロリと奏に目線をやった。
決して怒っているわけではない。
元々目付きが悪いせいで睨まれている、と勘違いして海堂を怖がる輩も多いが奏は違った。
薫ちゃんなんて呼ばれてスカートを履かされていた時代から彼と交流があり、本当は心優しく、顔に似付かぬ動物好きで、不器用だが、努力家で真面目な少年だという事をよく知っていた。
奏は向けられた視線に気付いてにっこりと微笑みを返した。
「何?薫も一緒に来てくれるの?」
「あぁ…何かあったら困るからな。」
海堂はそれだけ言うと、コンビニのある方向へ足を進めた。
相変わらず心配性だなぁと奏が呟けば、オマエがしっかりしていないせいだと返される。
そんなに心配しなくても、と彼女は思ったが、それが海堂の優しさでもあるが故に、そのまま受け止めて置くことにした。
10分程のんびりと歩いて着いたコンビニ。
奏は真っ直ぐにスイーツコーナーへと向かった。
ショーケースに並ぶプリンに、エクレア、ケーキ。
この時間には目に毒だ。
「あった!」
「何買うんだ。」
「これこれ、シュークリーム!」
奏が手に取った其れは、このコンビニチェーン店限定発売の様で、大きくポップでアピールされている。
余程欲しかったのであろう、彼女の顔は筋肉が緩んでだらしない笑顔になっている。
「こんな時間に食うのか。」
「いやだって、桃くんがこれめちゃくちゃ美味しいって勧めて来るから食べたくなっちゃって。」
「桃城の野郎…」
「しかも荒井くんまで食べたらしくて自慢されて。」
「…アイツもかよ。」
「ほら見て、こんな写真まで送ってくるんだもん。」
海堂に差し出したスマートフォンの画面には、何処の料理番組だと言いたくなる程美味しそうに写されたシュークリームが。
彼女は飯テロだぁなんで言いながら画面を見せてくるが、海堂はチームメイトの桃城と荒井が、奏とこんなに親しげにしている事に微かな嫉妬心を抱いていた。
同じクラスだとは知っているが、まさかそこまで交流があったとは。
「あ、薫も食べる?」
付き合ってもらったし奢るよと言いながら、海堂の返事を待たずに、彼女はシュークリームを2つ手に取ってレジへ向かった。
「はい、どーぞ。」
「あぁ。」
コンビニの扉を出たとほぼ同時に差し出されたシュークリーム。
彼は戸惑いながらも受け取った。
「食べながら帰ろ?」
そういうと彼女は封を開けて、大きな口で頬張った。
横を歩く海堂の鼻にも甘い香りが届いて食欲を刺激する。
そして彼は行儀が悪いと思いながらも彼女と同様に口にした。
「…桃城や荒井とは仲が良いのか。」
突然そう口にした彼の言葉に少し驚いた。
「それなりに?席替えしたら荒井くんと隣になったの。それがキッカケで仲良くしてもらってるよ。」
奏と海堂が幼馴染ということを知ってか、知らずか。
海堂は自分が彼女との関係を周りに話した記憶が無い為、奏がわざわざ話していなければ知らない筈だ。
「気を付けろよ。」
「んー?何を?」
「面倒事に巻き込まれねぇようにだ。」
「大丈夫じゃない?」
口をもぐもぐと動かしながら楽観的に答える奏に、海堂はまた心配事が増えたと溜息をひとつ。
その溜息は、奏が美味しかったと呟いて、くしゃくしゃと包装していたビニールを丸める音に隠された。
そして次の瞬間、海堂の隣を歩いていた筈の奏が彼の視界から音を立てて消えた。
「いったーい!」
下を見れば倒れ込んだ奏の姿。
そうだ、彼女は小さい頃からよく躓いて転んでいた。
その上転び方で下手で、色んな箇所に傷を作っていた。
そんな事を思いながら奏に声をかけて立たせてやれば、左膝に薄っすらと血が滲んでいた。
「わー…またやっちゃった。」
「相変わらずだな…」
年頃の女の子が体に傷をつけて、しかもそれが跡になったら大変だから気をつけなさいと、つい先日親に言われたばかりだった奏は、とてもわかりやすく落ち込んだ。
そして、彼女の膝にはこの僅かな間にも更に血が滲んでいた。
「ほら、脚出せよ。」
「えっ?」
いいから、と催促されて差し出すと、彼は頭からバンダナを外して彼女の膝に止血するようにきゅっと結んだ。
「薫!汚れちゃうじゃん!大丈夫だよ!」
「別に構わない。代わりは沢山ある。」
「ゴメンね…ありがとう。」
「気にするな。」
奏を安心させるように海堂は微笑んだ。
「薫大好きー!」
昔のように奏が笑顔で彼の手を取れば、振り払う事もせずに、そのまま歩き出した。
今日は星がやけに眩しい。
膝小僧の血の滲んだ鴨の羽色に、愛情と、少しの嫉妬を込めた事は彼だけの秘密。
不器用な鴨の羽色
(微妙な距離感と無自覚な恋心)