ぱれっと
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彼からは何時も甘い香りがする。
ほら、今日も。
奏はその香りで隣の席に丸井ブン太がやってきた事を悟る。
校内でも人気のある男子テニス部レギュラー。
その中の一人である丸井に、奏も簡単に心を奪われていた。
その明るい性格にぴったりな、鮮やかな赤い髪。
誰にでも優しく笑顔を向ける。
勿論クラスではムードメーカーだ。
そして、何より真剣にテニスをしている時の瞳。
ミーハーな友人に連れられて、初めて練習を見に行った時、その瞳に吸い込まれるように恋に落ちたのだった。
「おはよー笹原。」
「お、おはよ丸井くん。」
これは隣の席の特権だ。
手元の小説から丸井の顔に視線を移してみれば、甘い香りの正体。
青りんごのガムは彼の愛用品であろう、口にしているのを見ない日はない。
「何?俺の顔になんか付いてる?」
しまった、そう思った時にはもう遅い。
不思議そうな顔をして、更にはそれを近づけてくる。
奏は色々な意味で耐えられなくなり、耳まで赤く染めた。
「い、いや…あの、それ、上手いなぁって。」
もう慌てすぎて誤魔化せてはいない気もするが、咄嗟に言い訳をする。
「それって…コレか?」
口元にはアップルグリーンの風船。
それを差し示す丸井。
「そ、そう!私上手に出来ないから…」
「ふーん。あ、1枚やるからやってみろよ。」
そう言われ、差し出されたチューインガム。
「えっ?いいの?」
「おう、此間ポッキー貰った御礼な!」
奏は先日、友人と昼休みに食べようと持ってきていたポッキーを、朝練後に空腹で意識が朦朧としていた丸井にあげた事を思い出した。
「ありがとう!」
「いいって事よ!」
奏が笑顔を向ければ、それ以上の笑顔で返す。
それも彼の好きな所であった。
「じゃあ早速。」
受け取った一枚を口に入れれば、すぐに甘い香りが口に広がった。
彼と、同じ香り。
それだけで幸せだった。
「膨らませてみ?」
「う、うん。」
奏は妙な緊張感の中、其れをぷっくりと膨らませていく。
が、ピンポン球くらいの大きさになった所でぱんっと割れて萎んでしまった。
そして、口の周りにペトッと少しくっつく。
「ははは、下手すぎだろぃ!」
「そ、そんなに笑わなくてもいいじゃない!」
奏は先程にも増して顔を赤くする。
ケラケラと笑う丸井は、奏の意に反して楽しそうだ。
「もう…」
「メンゴメンゴ!…くくっ」
「失礼だなぁ…」
そう言いつつも、口の周りに付いたガムを器用に舌でとっていく奏。
「ちょっとさ、舌で伸ばしてからゆっくり膨らましてみ?」
半笑いでアドバイスをくれる丸井に少しモヤっとした気持ちになりながらも奏は試すようにガムを丁寧に舌で伸ばしていく。
そして、そっと息を吹き込むと、先程とは打って変わって綺麗な風船型膨らんでいく。
大きく形を変えていくにつれ、彼女は目を輝かせ、興奮気味に丸井を見つめた。
「ほーら、膨らんだだろぃ?」
バッチリとウインクをする丸井に気を取られ、また、ぱんっと音を立ててガムは萎んでいく。
そして案の定、口の周りにぺっとりと貼りついた。
「お前、狙ってやってんのか?」
再び、ケラケラと笑う彼に何とも言えぬ複雑な気持ちで、貼りついたアップルグリーンのチューインガムを剥がしていく。
「違うもん…」
「まぁ、また教えてやっから頑張れよ。」
「えっ?」
彼の口元には、大きく膨らむアップルグリーンの風船。
風船越しに透けて見える口元は、心なしか口角が上がっているように思えた。
「続きはまた、今度な?」
とくん、と心臓が跳ねた。
青りんごの甘い香りが、彼女の頭を支配していく。
こんなに嬉しい“また今度”は生まれてはじめてだ。
口元のアップルグリーン
(つーか、俺が食いもんやる時点で気付けよな)