ぱれっと
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貴方の背中越しに桔梗色の夢を探している。
歓声の中、幼馴染の木手永四郎は緑の眩しいテニスコートに立つ。
「これから、九州・沖縄地区大会準決勝、シングルス3を行います」
審判の声と照りつける日差しが奏の身体にじんわりと汗を滲ませていく。
ーー事の始まりは奏にあった。
“テニス部を全国大会に”
それは奏の目標であった。
女子テニス部に所属し、部長を担った奏は、今迄沖縄地区の代表が全国大会に出場経験が無い事を知り、それを忽然と目標と掲げたのだ。
「そもそも、全国大会の前に県大会も突破出来た事がありましたか?」
「んー、無い…ね。」
「目標を高く持つ事自体は悪くはありませんがね、まずは県大会優勝を目指しなさいよ。」
「凄い正論ぶつけて来るなぁ。」
「まぁ、チバリなさいよ。応援はしています。」
「永四郎もね。一緒に全国、行けたらいいね。」
木手に言わせて見れば、何処か幼いままに見えた幼馴染が、初めて大人の様に見えた瞬間だ。
それ程奏はテニスに本気で取り組んでいた。
しかし、夢の終わりは突然やってくる。
「永四郎!奏がっ!」
部室に飛び込んできた甲斐は扉を開けるとほぼ同時にそう言い放った。
「どうしたんです甲斐クン。」
「奏が負けたって…」
「…ええ、そうですよ。」
「
「甲斐クン。私達にとっても大切な時期です。」
甲斐の言葉を遮るように、木手は眼鏡を指で持ち上げながらそう述べた。
奏は負けたのだ。
正確に言えば、奏は試合をする事なく負けたのだ。
初の県大会突破後、九州・沖縄地区大会準々決勝。
この試合に勝てば全国大会に大手という所で、シングルス1の奏に回る事無く、敗退が決定してしまったのはつい昨日の話。
試合の直後、木手は奏から報告を受けていた。
「彼女に構って練習を疎かにする事は出来ませんよ。」
「けど、永四郎」
「何ですか甲斐クン。そんなにゴーヤが欲しいならお望み通り差し上げますよ?」
「ゴーヤは勘弁さー…」
「では、さっさと着替えて練習ですよ。」
昨日奏は彼ににひとつ、我儘を言ってみた。
「私は立ち止まってしまうと思う。けれど、永四郎は前を見て進み続けて。」
要するに、私に構うなという事だ。
自分のせいで木手の時間を割かれてしまう事があってはいけない、彼もまた全国大会を目指す選手であることを奏はよく分かっていた。
幼い頃から何かあれば必ず立ち直るまで付き添ってくれた彼を思っての発言で、木手もそれを聞き入れたのだ。
「
試合前、そう言ってコートに向かった木手の背中を奏は思い出した。
あの時より幾分立ち直った彼女は、男子テニス部の応援へとやってきたのだ。
彼の背中に何処か自分を重ねて。
女子テニス部と同じ桔梗色のユニフォームに同じ夢を乗せて。
幼馴染の彼に自分の夢を代わりに叶えて貰うことが、新しい奏の夢となった。
だから、今できる事は彼の応援だ。
黄色いボールが緑のコートを行き交い、彼のユニフォームもその動きに合わせて前後左右へと揺れ動く。
そして、木手の放った不規則な軌道を描くボールは、相手コートの白のライン上へ。
「ゲームセット!ウォンバイ比嘉中木手!」
審判の声がコートに響き渡る。
そしてその瞬間、彼等の全国大会への出場が決定した。
「やった…やった!永四郎おめでとう!」
ベンチ裏の観客席から彼を呼べば、珍しく微笑んで返した。
今思えば、全国行きを自分で決めたくて珍しくシングルス3で出場したのかもしれない。
更に言えば、私の思いを分かった上でのシングルス3なのかもしれない。
それは自惚れ過ぎか、そう思いつつも奏は目尻に涙を溜めた。
礼をして、ベンチに戻る彼は、奏の目の前で足を止めた。
「私達はこんな所で終わりません。目指すのは全国ナンバーワンですからね。」
「最後まで絶対応援するから、頑張ってよね。」
「ええ勿論です。それが、貴女の夢でもありますからね。」
やはり彼はわかっていた。
目尻から溢れ落ちた雫は、桔梗色の夢を映して、夏のアスファルトへと消えていった。
貴方の背中に見る桔梗色の夢
(彼は夢の続きを何処まで見せてくれるのだろう)