ぱれっと
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「関西地方も昨日梅雨入りが発表され──」
天気予報のキャスターが遂に訪れてしまった梅雨を告げている。
例年であれば梅雨なんて憂鬱なばかりで、テニス部の練習も室内練習メイン。
皆の鬱憤も溜まるし、いい事なんて一つもない、そんな風に感じていた。
そんな彼らを思って部室にてるてる坊主ならぬ、てるてるコケシを飾ってみたり試行錯誤してみるが、やはり梅雨という強敵には抗えず、いつも待ち遠しく梅雨明けを待つのだ。
今年は金ちゃんもいるし…彼なんか痺れを切らして土砂降りの中でも外でテニスをしたがるだろうと思うと、また悩みのタネが増えた気がした。
しかし、今年の奏にはひとつだけ梅雨の楽しみがあった。
先日、雑貨屋に買い物に行った際に紫陽花の花弁を模した美しい青の傘の折り畳み傘を見つけ、衝動買いをした。
今日の天気は晴れのち雨。
ついにこの傘を使う時が遂にやってきたと、彼女は未だ新品の其れをスクールバッグに詰め込んで学校へ向かった。
「遂に梅雨入りしてもうたなぁ〜…」
憂鬱そうな声で嘆く謙也。
「てるてるコケシは去年効果なかったしなぁ。」
「今からいつ金ちゃんが爆発するか考えると、胃が痛いで…。」
白石がまるで保護者のように胃を痛めている。
今日も天気予報通り、部活の途中で雨が降ってきてしまい室内練習に切り替え。
金ちゃんは駄々を捏ねていたけれど、今日は白石が上手く抑えていた。
しかし、これが何日も続くとなると…やはり考えるだけで胃が痛くなる案件だ。
「よし、お待たせ。部紙終わったで。」
「ほな、皆出るで〜!」
先に外で待ってる金ちゃんと千歳を追うべく、ずらずらと部室を後にするレギュラー陣。
2人は雨でも元気だ。
なんなら小雨くらいでは当たり前に傘を差さずに外を彷徨いている。
白石が鍵を閉めてくれているので、いつまでも軒下にいると邪魔かと思い、折り畳み傘を広げる。
購入した時も思った事だが、開いた瞬間トキメキを感じるくらいに可愛い傘だ。
「あんら、奏ちゃん。その傘めっさかわええやないのぉ!」
「ほんまやな、小春の傘の次にかわええんちゃう?」
ラブルスの2人が傘を褒めてくれれば、みんなの視線が傘に集まる。
「ほう、紫陽花やな。綺麗な色や。」
「奏によう似合うなぁ。」
「副部長、奏先輩やったら、もっとガサツっぽい花の方が似合うんとちゃいますか。」
「なんやて光、ガサツっぽい花ってなんや。」
「その辺の雑草とかちゃいます。」
「適当言うなやー!」
ムキー!と光に対して立腹していると、先に出ていた千歳と金ちゃんがこちらに戻ってきた。
「ん、奏の傘むぞらしかねぇ。」
「ホンマや!お花の妖精さんみたいやなぁ!」
「まず2人は傘差しぃや。」
「今日はもっとらんね。」
「ワイも!」
こんくらいなら問題なかね、なんて言う千歳だったが、何か思いついたようににっこりとこちらに笑みを向ける。
「奏と相合傘ならよかばい。」
「いやいや、流石に狭すぎるっちゅー話や。」
横から何故か謙也がツッコミを入れてきた。
いやまぁ、確かに狭そうではあるが。
「折り畳み傘やから、本当に狭そうやけど、入る?」
「えー、千歳ばっかりズルいわ!ワイもお花ん傘入りたいわー!」
金ちゃんに傘を渡すと、なんだか壊れそうな気がするので、一旦2人とも丁重にお断りしておいた。
「奏ちゃん、そんなかわええ傘持ってくるやったら教えてや〜。ウチもとっておきのやつ持ってきたのに。」
「ほなら、明日傘大会しよーや!」
謙也がまた突拍子もない事を言い出す。
「なんや傘大会って。」
戸締り確認を終えた白石がそんな謙也にすかさずツッコミをいれる。
「みんなで一張羅持ち寄るんや。」
「なーんかまたお笑い大会になりそうな雰囲気しとるけど、楽しそうやん。」
せやろせやろ?と楽しそうな笑みを浮かべる謙也に離れたところから冷ややかな視線を向ける光。
しかし銀がこれは楽しそうや、と呟けば、師範がそういうなら…と納得しているんだから、謙也がどれだけ人望がないことか伺える。
「奏ちゃんは明日もその傘持ってきてな?」
「ええよ、みんなの傘も楽しみにしとるわ。」
急に明日の楽しみが増えたところで、みんなで部室を後にした。
────────────────
「皆揃うたな。」
「白石部長、部活の前にこないな事しててええんすか。」
「もぅ、気にせんでええやないの、財前ちゃん。」
「まぁ、どうせ雨やからな。」
案の定翌日も雨で、今日も室内練習予定。
昨日と違うのは金ちゃんが特に駄々を捏ねずに、はよやろうや!と傘大会を楽しみにしている事だ。
「私は昨日と一緒の紫陽花。」
「ウチはハートの形の傘よん。」
「俺と小春でお揃いなんや、ええやろ?」
「小春似合うててかわええなぁ。」
「小春は可愛いに決まってるやろボケカス。」
なんかすごい言われようだけど、これはいつものことなのでスルー。
ついでに言うと、小春には似合うけどユウジにはその傘似合わんと思ってるよ…。
「ワイはたこ焼きの傘!」
「なんや、金ちゃんの傘めっちゃ美味しそうやな。おやつはたこ焼きにしようかな。光は?」
妙にリアルなそのたこ焼きは、なんとなくソースの香りまでしてくるような…
ん?
さては金ちゃんさっきたこ焼き食べたな?
「謙也さんが、『浪速のスピードスターは雨に濡れずに帰ってみせんで!』って謎チャレした時に置いてった傘…ありがたく借りパクしてます。」
「んで翌日風邪ひいてたあのマジでアホなやつな。」
思わず当時を思い出して吹き出す。
いや、あれはアホすぎた。
傘持ってるなら使おうよ。
イグアナのめじるしアクセサリーがついてるのをそのままにしてるのは光なりの優しさなのか。
「たまに持ってきて使うてるのに、謙也さん全く気づかへんから、マジでアホやなって思ってます。」
「なんや財前!酷ない?!」
「これはアホすぎる謙也が悪い。」
「ぐぬぬ…」
悔しがってるけど普通に傘使わないアホが悪いと思うよ。
「千歳はどんなん持ってきてん?」
「葉っぱん傘たい。トトロの傘とお揃いばい。」
「ホンマや。ようできとるな。」
「ここの近くの藪に生えとっと。」
「いや毟ってきたんかい!」
よっぽど気に入ってるのか、千歳は今日一日其れを傘にするようだ。
まぁ、ささないよりマシ…かな?
「銀のは…傘?」
「ええやろ、帽子の傘や。」
「いや銀、身体デカいからめちゃくちゃ濡れてまうやん。」
頭隠して他隠さずって感じで全身濡れそう。
よりによって面ごとに色の違うカラフルな傘なので、銀がとっても間抜けに見えるマジック。
しかしみんななんでこんなにネタ傘持ってるんだ。
「小石川は…エビフライ?持ち手が尻尾なんやな。」
「せやで、チャームポイントはこのパセリのめじるしアクセサリーやけどな。」
「いやどんだけパセリ好きやねん。」
付け合わせをメインにするなよ、と思ったけど、言うとしょげてしまいそうだったのでその一言は飲み込んでおいた。
「白石は…刀…?」
「エクスタシー侍っちゅーことか?!」
「無駄ないやろ?」
「いやそのエクスタシー侍自体が無駄やろ。」
「他所の学校行って無駄成敗してる場合ちゃうと思いますー!」
ここぞとばかりにやいのやいのと白石を謙也と一緒に責め立ててみる。
あれはきっと他所に迷惑をかけている。
この間なんて東京の従兄弟のところに行く謙也について行って、氷帝で無駄成敗してきたと聞いた。
どこに出しても恥ずかしい話すぎて…。
「そ、そう言う謙也はどないな傘持ってきたんや。」
「はっはーん、そないにみたいんか?」
得意気に傘を広げる謙也。
傘には【NoスピードNoライフ】の大きな文字。
「かっこええやろ!」
「いや…ダッサ…」
ダサすぎるし、それどこで買ったんだと逆に聞きたい。
まさかオーダーメイドじゃ…。
「謙也さんホンマにダサいッスわ…」
「お前とだけは隣歩きたないな。」
「ユウジに言われたないわ!」
ユウジに貶されてぷんすこ怒ってる謙也だが、あの銀でさえも反応に困っているダサさだ。
ド派手な私服といい、彼はどうしてこう、その辺りのセンスが大きく欠けているのだろうか…。
「おーい!青少年達!いつになったら部活始めるんやー?」
なかなか集合しない私たちに痺れを切らしたのか、オサムちゃんが部室の中に入ってきた。
いつもノックもなく入ってくるけど、万が一私が着替えてたりしたらどうするんだろうか、その時は懲戒免職ものだ。
「なんや、お前達。室内で傘なんか広げて何しとん。」
「お、オサムちゃん。ええとこに!」
「みんなでオサムちゃんに写真撮ってもらわん?」
「よかねー。」
テニスと同じくして個性豊かな私達の傘が部室の前に並ぶ。
「ええかー?」
“はい!こけし〜!”
なんて間抜けな掛け声だろうか、それでも各々ポージングを決めて、笑顔で写真を撮る。
こんな梅雨空にも映える鮮やかな紫陽花の花弁とみんなの個性。
こんな青春の1ページもええもんやな、と思って眺めていたら、オサムちゃんにも写真送ってや、なんて言われて。
梅雨空に映える紫陽花青
あ!雨止んだやん!
8/8ページ