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「髪の毛、随分伸びたね。」
あの人地面に落ち広がった彼の自慢の髪の毛。
自慢にしていたくらいだから手入れもされており、女の私からみても嫉妬するくらい美しい髪だった。
纏めた彼の髪が揺れ動くのが、彼のテニスの美しさを引き立てるようで好きだった。
しかし、あの日の彼は、プライドと共にその髪を捨てたのだ。
不動峰戦で惨敗した彼がどれ程過去の自分を顧み、その後どれ程努力を積んできたか。
練習でパートナーを務めた長太郎と同じくらい、マネージャー兼幼馴染の私はわかったつもりでいた。
けれど彼の覚悟は想像を超えていた。
「奏は長い方がやっぱり好きか?」
あの日から数年経ち、また彼の髪はあの頃のように長くなっていた。
慣れた手つきで髪を括る彼の背中に声をかければ、私の思考を見透かしたような返事が返ってきた。
「うーん、どっちも好きかな。」
「じゃあそういうことにしてやるよ。」
もちろん短髪だった彼も格好良くて好きだった。
けれど、やっぱり。
彼のその艶やかな髪が、太陽に照らされて、コートで揺れ動く、そんな瞬間が好き。
「ねぇ、テニスって楽しいね。」
「んなこと当たり前だろ?」
「まぁ、じゃなきゃ続けてないよね。」
秋風の心地よいコートに向かう彼の背中に小さく今日も頑張れと呟けば、声が届いたのか髪を揺らしながら振り返って微笑みを向けられた。
彼と彼のテニスに出会えたことに、今日も最大限の感謝を込めて。
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