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越知くん?
高等部の校舎から1番近い門を抜けて、路地に入ったところに大きな人影をみた。
きっとあの人並み外れた大きな影は同じクラスの越知くんだ。
とても寡黙だけれど、クラスの誰かが困ってるときは助けてくれるし、テニス部での活躍は中学の頃から有名で、高等部に進学してからは、テニスの日本代表選手として招集されていたりなど、身近だけれど、どこか遠い存在のクラスメイト。
高等部になってからは何の縁か、3年間ずっと同じクラスだった。
行事ごとで一緒に過ごす時間もあって、それなりに会話もするけれど、やっぱり彼は寡黙なので多くは語らない。
嫌われてもいないけれど、好かれてもいないだろうなという感覚だけれど、私自身は少しずつ優しい越知くんに惹かれていた。
「…笹原か。」
先程小さく呟いた彼の名。
それが本人にも聞こえていたのか、こちらに視線を向けると私の存在に気がついたようだ。
「越知くんこんなところで何してるの?」
歩みを進め彼の元へ近づけば、腕の中に小さな毛玉。
「ねこちゃん?」
「ああ、そこの木から降りれなくなっていたようだ。」
その猫は成猫というには一回り程小さく見えた。
…越知くんが抱えているから一層小さく見えるのかもしれないけれど。
「助けてあげたんだ。きっと遊んでて降りれなくなっちゃったんだね。」
「あぁ。」
その猫は越知くんの腕の中にすっぽりと収まっていて、それでいて暴れる様子もなく、なんなら少し懐いているように見えた。
「可愛いね、ねこちゃん。越知くんに抱っこされて凄く落ち着いてる。」
「あぁ、人間が好きなようだ。」
「そっか、私にも嫌がらずに撫でさせくれるかな?」
「…好きなのか?猫。」
「うん、ねこちゃん大好きだよ。」
そう答えるとそっと猫を私の方へ向けてくれる。
野良にしては毛並みの良いその子は、ゆっくり差し出したわたしの手に怯む事なく喉をゴロゴロと鳴らし始めた。
遠慮なく撫でさせてもらうと、その柔らかい毛並みと愛らしい表情に思わずメロメロになってしまった。
「愛らしいな。」
越知くんのその声で我に返って、彼の顔に見上げるように視線を向ければ、初めてみるような優しい微笑み。
思わず鼓動が高鳴った。
「う、うん。とっても。」
「笹原…いや、いい。」
何か言いかけた越知くんだったけれど、顔を背けてしまった。
一体なんだったのだろう。
けれど今は、彼と猫との楽しいひとときを満喫しよう。
いつか彼に、想いを告げる勇気が出るまでは。
月と猫
(愛らしいのは、お前もだ。)
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