勿忘草
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
今、何が起きたの…?
放課後の正レギュラーの部室。
ドリンク作りに精を出していた楓。
タイミングよく澪が記録から戻ってきて、少し手が空いたから私がドリンクを運ぶよ、と声をかけたのがほんの少し前の出来事。
そして今、床に広がる水溜り。
カラカラと転がる空のドリンクボトルの音だけが響いている。
「澪先輩!大丈夫ですか?!」
あまりの出来事に暫くフリーズしていた楓が澪に慌てて声をかける。
大きい声を出したので近くにいた部員に声が聞こえたのだろう、音を立てて戸が開き中に数名入ってきた。
「どうした?」
「おい、澪びしょ濡れじゃねーか!」
異様な光景に目を丸くする宍戸と向日。
よかったら使ってくださいとタオルを差し出す鳳。
鳳のタオルを受け取った澪は少しの間固まっていた。
──今、何が起きたの。
澪が自分自身に問う。
完全に無意識だ。
ドリンクを運ぼうと声をかけたのに、手は勝手にドリンクボトルの蓋に伸びていた。
そして、徐に蓋を外しボトルを逆さにした。
零れ落ちるドリンクは澪のジャージや靴を濡らし、そこで我に返った。
どうしてこんな事をしたのか、自分自身でも理解できず、ただ戸惑う。
ただ、鳳の差し出したタオルと慌てる宍戸と向日、そして楓の姿を見て、澪は安堵する気持ちを抱いていた。
──澪先輩?
澪がドリンクを運んでくれると言うので、追加分のドリンクを作ろうと準備していれば、突然水分が床に溢れる音。
視線を音の方に向ければ、ドリンクボトルを逆さに持ち、虚な瞳の澪。
状況を理解できずに硬直していれば、白く細い指から離れ、音を立ててドリンクボトルが床へ落ち転がった。
その音で楓は正気に戻り、澪に声をかけた。
思わず張り上げた声に反応し、部室の近くにいた数人が中に入ってきた。
皆が澪をフォローしているのをみて安心し、楓は床に広がるドリンクの海を片付ける事にした。
しかし、何故…?
彼女が奇行に走った理由が見当もつかなかった。
宍戸達は澪がドリンクを誤って溢してしまったと思っていたが、楓はあの妙な雰囲気の光景が頭から離れなかった。
慌ただしく片付けをしていると、騒ぎを聞きつけてやってきた跡部が、澪を更衣室へ連れて行った。
お前らはドリンクとタオルを持って練習に戻れ。
そう告げた跡部も澪の後に続き、残された楓達は指示通りに動いた。
楓は申し訳ないと思いつつ、一つドリンクを作り直して、鳳に手渡す。
そしてタオルとドリンクを詰めた籠を彼らに託して部屋の片付けを進めるのであった。
「澪、何があった。お前らしくねぇ。」
濡れたジャージを着替えさせるよう促した跡部は、澪に背を向けるようにベンチへ腰掛け問いかけた。
「わからないの。」
「わからねぇ?」
「どうして、あんなことになったのか。」
彼に贈られた誕生石のペンダントとユニフォームのボタンがぶつかる音と、擦れる布の音がやけに大きく聞こえる。
「ただ、ボトルを落として溢した訳じゃないってことか。」
「そう、だね。」
彼女の声色には何処か含みがあった。
まさか澪が無意識であるものの、自らやったなんて考えもしない跡部は様々な方向の可能性を考えた。
「あんまり心配しないで。」
考え込む跡部の横に着替えを終えた澪が腰をおろした。
「景吾が私の味方でいてくれれば、それ以上のことはないよ。」
「でも、何かあればいつでも頼れ。」
「うん、わかってる。」
跡部が澪の髪に指を絡ませ、愛おしそうに撫で下ろせば、どちらともなく唇を重ねた。
そして、跡部は更衣室を後にした。
残された澪は、ひとり考えた。
──楓ちゃん、ごめんね。
得られた安堵感、これしかないと思えた。
自分を守るためには…。