勿忘草
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
誰が言ったのだろうか。
「小鳥遊澪が嫌がらせを受けている」なんて。
正レギュラーのマネージャーを外された翌日には、そんな噂が広まっていた。
その犯人は正レギュラーのマネージャーを外された楓だとも囁かれた。
テニス部の見学に来ていたテニス部ファンのギャラリーがそうとでも言ったのだろうか。
きっと日頃から彼らの練習を見ていれば、楓の扱いや、周りの態度が変わった事くらいは気付くだろう。
そして相手が澪だ。
学園中誰もが知る有名人である彼女の噂は広まるのが早かった。
「おはよう。」
楓は朝練を終え教室に入り、いつもの様に友人に挨拶をするが、目を逸らして去ってしまった。
何かしてしまっただろうか。
しかし、なんのことだか検討も付かなかった。
ただ、周りがヒソヒソとこちらに視線を向けて話している。
教室移動の際には別の学年からも同様の視線を向けられた。
なぜ、と楓は真剣に悩んでいたが、そんな中、1人の女子生徒の声が楓に聞こえた。
「跡部様と澪様を苦しめる奴なんて学園にいる資格ないんじゃないの?」
声の主を探して振り返れば、こちらに視線を向けたまま友人達と笑い合っている。
楓の視線に動じる事なく、そして、見下したように笑うその顔に楓は恐怖を覚えた。
まさか、そんな噂が学園中に。
彼と彼女を同時に敵に回す、それは学園中が敵になるという事。
そんな事、絶対しないのに、どうして。
楓は混乱した。
もし、私が澪先輩と景吾先輩を苦しめさせてる、そんな噂が学園中に広がっていたら…居場所なんてない。
息が詰まり、思わずその場を駆け出した。
その噂はテニス部の元へも勿論届いていた。
あの一件を知らない滝と鳳は特に戸惑った。
跡部が楓を正レギュラーのマネージャーから外すと言ったことも驚きだったが、翌日にはこんな噂話で校内持ちきりだ。
忍足達の態度からも、何かあった事は明白で。
けれど、まさか、嫌がらせなんて。
俄かに信じがたいが、火のない所に煙は立たぬと言うくらいだからきっと何かはあったのだろう。
けれど、一体何が。
日吉の耳にも噂は届いた。
くだらない、と思いつつも楓の事が心配で仕方ない。
尊敬する先輩とのそんな噂が立ってしまえば、楓はきっと酷く落ち込むだろう。
それに、相手があの2人だというのが非常に厄介だった。
派手な2人だ、嫌でも学園中に噂は広まるだろう。
学園中の噂になれば、彼女は更に傷つくだろう。
そんな事は避けたかった。
先日楓に制されたばかりだが、跡部や澪にどういうつもりなのか問い詰めたかった。
だが、それで彼女が喜ぶかどうか、その答えはNoだということもわかっている。
頑固な彼女が、自分から頼ってくるのを待たねばいけない。
そんな状況に心は落ち着きを無くすばかりだった。
放課後、噂から逃げるように楓は部室へ向かった。
今日の教室は心底居心地が悪く、本当に居場所がなくなってしまったように思えた。
更衣室は正レギュラーの部室に併設なので、逃げたい気持ちもあったが、部室へ向かうと、跡部と彼に連れられた樺地の姿があった。
「お疲れ様です。」
返ってこない可能性の高い挨拶を口にすると、意外にも「あぁ。」という短い返事が跡部から返ってきた。
そして、樺地からは視線を感じた。
(樺地くん…?)
思い違いじゃなければ、私を信じていてくれているような今までと変わらぬ優しい瞳。
彼と視線が交われば、若干の戸惑いを浮かべた。
樺地くん、もしかして…景吾部長と、私のどちらの味方をすべきか戸惑っている?
手元の書類に目を通しているようだった跡部に気づかれないように、楓は樺地にそっと微笑みを向けた。
ダメだよ、樺地くん。
そう、貴方は景吾部長と共に────
伝わったか否か、樺地の瞳が揺れた。
自分のせいで、あの2人の関係が拗れるのは許せない。
だから、これでいいんだ。
そう自分自身に言い聞かせるように更衣室へと向かった。