黒バス
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2人は無事、小学校を卒業した。そして進んだのは近くでもあって、更にバスケの強豪でもある帝光中。早速バスケ部に入部した2人は緑間が一軍、高尾が二軍と別れてしまったが、それでもクラスは一緒だし、居残り練習は2人して来るから彼女からしたら全く問題ない。
そうさっきまで思っていた。
いつものように仕事をしながら今日の夕飯何にしようかなんて数年前からしたら考えもなかったようなことをぼんやりと考えているとバタンッ、と扉を叩きしめるような音。どうやら2人が帰ってきたらしい。彼女はおかえり、とでも言おうかと口を開こうした瞬間、リビングへの扉が開いて驚いた。そこには高尾しかいないのだから。
緑間はここ数年で背が伸びた。それこそ今の彼女を追い越そうとしているほどに。宮地からしたら可愛げがさらに無くなったと中指立てている姿が目に浮かぶようだが成長を喜ぶのは家族の務め。喜ばしいことだ。勿論高尾も成長しているが一般男子程度であり彼女の身長まではまだまだ先の話である。
話が逸れたがつまりは、そんな一般男子の身長の高尾が彼女並みに身長が伸びた緑間を隠すことなど出来はしない。つまりそこに緑間がいない、という事に行きつくわけだが。何だが高尾も今にも泣きだしそうな表情をしているようにも見える。2人を引き取ってから数年、2人が喧嘩をしているというところを彼女は見たことはない。どちらかというと高尾が緑間をメンタル的に守っているというのが確かだろうか。とにかく、2人は喧嘩を彼女が見えるところではしたことがない。それだけは数年見守ってきた彼女が断言できることである。
すると高尾はボソッとただいま、と言った。親しき仲にも礼儀あり。礼節を叩きこんだのは、この情報屋というあまり喜ばれない仕事をする彼女だ。たとえ不機嫌だろうとなんだろうと挨拶やお礼はちゃんと言えと教え込んできた(それを大坪や宮地、木村に言うと目を天にされて槍が降るのかとか天変地異の前触れだとか失礼なことを言われるから言わないが)。こんな仕事をしている彼女が言うのもなんだがな。
「おかえり」
難しい年頃なのかもしれない、と彼女は思った。中学生と言えば思春期の塊だ。彼女には言えない事柄で2人も何かしら険悪なことになっているのかもしれない。そうだそうに違いない。そうと分かれば彼女は見守るだけだ。そう決めつけてギシッと音を立てて椅子から立ち上がる。高尾は着替えに部屋に入っていくのが見えた。
この一日だけでなら彼女も何かしら険悪なことになっていると思ってしまっていただろう。だが幾日も2人は一緒に帰って来ることはなかった。それどころか、あとから帰ってきた緑間も不機嫌を通り越して泣きましたと言わんばかりに目を赤く腫らして帰ってくる事もあった。
何があったんだ?
訳も分からず首を傾げたことは何度もあったが2人は何ひとつ話をしてくれなかった。宮地や大坪にも何も話をしていないらしい。また昔みたいに金の問題とか自分達を引き取ったせいで彼女に迷惑が掛かっているとか思っていないだろうな、とか思ったが食事はちゃんと食べるし、風呂にもちゃんと入る。必要なものは欲しいとちゃんと口にしてくるところを見るとそうではないらしい。
なら虐めか、と脳裏を掠め目をまるで獣のように細める自分がいるのを彼女は感じていた。
虐めの逆襲なら得意だ。こっちはそういう仕事をしているのだから。強請るのだってお手の物だ。だがそういうのでもないらしい。怪我が増えたとか物が壊されてきたとかそういう事もない。それに、虐められて黙っているような性格ではない。特に高尾の方は。ためしに虐められていないか、と率直に聞いたらはぁ?と首を逆に傾げられてしまった。まぁ、虐められていなければ確かにそういう反応をする、普通なら。
となると、考えられるのは2人が作った学校での友達が関係しているとかか、と考える。だったら彼女が関わるのはお門違いだなと思い椅子の背もたれにもたれ掛かる。関わるのは出来ない。だが必ずしもそうじゃないかもしれないが、可能性はゼロとは言えない。
そんなことで悩むこと1ヶ月。
この1ヶ月一緒に帰ってくる事は1度もなかった。さてどうしたものか、とぼんやりとパソコンの画面を眺めているといつもと同じようにガチャッと音が聞こえた。どうやら誰か帰ってきたらしい。そしてリビングの扉が開くとそこには緑間が暗い顔で立っていた。
「おかえり」
「……ただいま、なのだよ」
高尾と同じように部屋に入って行く緑間。そして私服に着替えてくるとすぐに部屋から出てきた。なんだか暗い。やれやれ、あまり学校とか、友人関係のことで口出ししたくないんだがな。だが、2人の関係を崩れるのは困るし、何より今後の2人のためにも。
「真太郎、何かあったのか」
そう問いかければビクッと体を震わせる緑間。そして彼女はすぐに関係ないのだよ、と言うかと思う。しかし、緑間は涙を浮かべてその場に蹲ってまるで緑間の心から何かが溢れてしまったかのようにポタポタっと何かを零していた。
涙だ。
緑間は背が高く、力もある。だが、メンタル面が弱い。よく感動ものの映画とか、虐めでは泣かない。しかし、他のことではすぐに泣いてしまう事もある。それが今なのだろう。特に今は、今まで一緒に生きてきた高尾関係の事だからそのせいもあるだろう。まるで、片割れを失いかけているような、迷子の子供のようだ。
「自分のペースで言ってごらん」
彼女がそう促せば、緑間は恐る恐る、しかし確実にぼそぼそと口を開いて見た。
「赤司と、一緒に居ることが多くなって」
赤司。
赤司征十郎。赤司財閥の一人息子。入学式では新入生の挨拶で読んでいた。そうか、赤司征十郎もバスケ部に入っているということだろうか、人柄は知らないが赤司征十郎は緑間と仲が良くなったのかとぼんやり思っていた。
「高尾と居ることが、少なくなったのだよ」
「うん」
「赤司は博識だ、俺の知らないことたくさん知っているし教えてくれるし、将棋の相手もしてくれるのだよ」
「うん」
「それを高尾に言ったら、じゃあ俺は要らない?って言われたのだよ…」
要らない。
幼いころ2人は言われ続けた言葉。要らないから、邪魔だから次の人へ回して。そしてここにたどり着いた。皮肉だな。要らないと言われて回されなければここへはたどり着かなかっただろう。
「もちろん違うって言ったのだよ…!でも、高尾と居る時間はどんどん減ってて、」
「うん」
ギュッと握られた手は力が入り過ぎて白くなっていた。バスケでスリーポイントを打つ緑間は手を大切にしている。それこそ利き手の左手をどんな時でもテーピングしている程に。そんな大切にしている手を爪が食い込むほどに握り締めている。そして唇を噛み締めている。それこそ血が溢れてしまいそうなほどに。
「気づいたら高尾と一緒に帰れなくなってたのだよ…」
最後の方にはすべて終わってしまったように緑間は言った。
いつも自分の手を引いてくれていた太陽のような存在。そんなかけがえのない存在が自分から離れて行ってしまいそうになっていると考えると胸が張り裂けてしまいそうになる。そして恐怖さえ感じた。いつも共にいた存在、いることが当たり前になってた存在、失いたくない存在。何を失ったとしても、その存在だけは、高尾だけは失いたくなかった。何故そう思ってしまうのか緑間は分からなかった。だが分からなくてもいい、ただそばにいて欲しかった。
そこまで言うと彼女はゆっくりと目を閉じた。そしてふうと息を一つ吐くと手を組んで肘を机に着いた。
緑間はまだその感情が何か分かっていない。分かっていないからこそこう恥ずかしいことを言えるのだろう、とぼんやりと彼女は考えていた。
「真太郎
逃げるのか?」
ビクッと緑間が震える。そんな様子を彼女はその眼に映し出していた。
帰れなくなってた?そんなのただの言い訳にすぎない。自分は何もしていないのに何もせずそのまま諦めて背けてしまうのか。失いたくない存在なら、どんな手段を使ってでも、どんな嘘を吐き捨ててでも、手を伸ばして握り締めておくものじゃないのか。そんな理由で失ってしまう存在なら、それは自分の中でそこまでしかない価値の存在でしかないのだと、自分で自分を追い込んでいるようなものだ。
そう言うと緑間はグイッと涙を拭いて立ち上がる。その眼には先程の弱弱しい意思は無い。
「逃げないのだよ」
「そうか、じゃあ明日2人で帰っておいで」
そう言うと緑間は少し照れくさそうに眼鏡をカチャッと上げて、宿題をするのだよ、と早口で言って部屋に飛び込んでいった。そんな姿を見送り、いつの間にか自分の知らないところで彼らは成長しているのだと考えると不思議と笑みがこぼれふふっと笑う。
「だそうだ、和成」
机の陰に隠れていた高尾にそう言う。実をいうと緑間が帰ってくる30分前にはもう高尾は帰宅していた。そして緑間とほとんど同じことを彼女に相談していたのだ。そこへ緑間が帰ってきて、じゃあ緑間はどう考えているのか知ろう、ということになり高尾は机の陰に隠れていたのだ。
高尾は何も言わずただ足を抱えていたが、その顔は赤い。それもそうだろう。自分はもう必要ないのかとか、緑間にとって自分はあの赤い髪の友人よりもあんな熱烈に思われていたと知れば。彼女からすればまるでお互いを好きだと言っているのに一歩踏み出せない恋人同士を見ているかのようで少し、いや大分疲れてしまった気がする。元々恋愛はしたことが無いのだ、そんな奴にこんな熱烈な関係ですと相談しないでほしい。だが、大切な家族の頼みならいくらでも聞いてやろうではないか。
高尾はガバッと立ち上がると、赤い顔でニッと笑う。どうやら彼の悩みも晴れたようだ。それを感じとって彼女は高尾の頭を撫でる。
「明日一緒に帰ってくるんだぞ」
そう念を押せばうん、と頷いてバタバタっと音を立てて緑間が入って行った部屋に飛び込んでいった。そんな様子を見送って、パソコンの画面に映し出された画像を見つめる。そこに映し出されていたのは赤司征十郎。
赤司征十郎、赤司財閥の御曹司であり一人息子。業界のパーティーにも参加したことがある。成績、品行ともに良。
そして、
「………………」
随分とまぁ厄介な相手に狙われたものだな、と高尾に少し同情するが部屋から聞こえてくるぎゃあぎゃあという言い合いというか馴れ合いを聞いて大丈夫だろう、とも思う。彼らには培ってきた時間がある、そして切り捨てがたい絆も。
彼女は画像をそのままスクロールしてゴミ箱に捨てた。