バクテン!!
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まず、何度か大きく深呼吸する。自分を落ち着かせるために。
そして、胸にある黒い苦くて、悲しい感情をゴクンっと飲み込むのだ。不味くて、悲しくて、悔しくて、嫌で、飲み込みたくはないそれを今まで何度飲み込んできたのだろう。その黒い苦くて悲しい感情を、吐き出せれば私は少しは息がしやすくなるのだろうか。
ー否、そんなときは来ないだろう。
自分の気持ちを伝えることに怯える臆病者の自分には、そんなときは永遠に来ないだろう。
「やめるのか」
私がその儀式を行うのはいつも屋上と決まっていた。飲み込もうとしていたそれはふぅと吐き出されて空に消えた。振り返ると屋上の入り口に幼馴染の大湊君がいた。その眼鏡は夕焼けの光で光っていて、目からは感情が読み取れない。
でも、少なくとも喜んでいるような感情ではないのは分かった。
「何をやめるの?」
からかうように私はそう言ったがとぼけるな、と大湊君はピシャリと言った。
「お前はあまりに感情を抑えつけすぎだ」
「泣き叫べば願いは叶うの?」
「そうじゃない。キャプテンにその抑え込んでる気持ちを伝えたらどうだと言っている」
「伝えて、満足しろってこと?」
我慢は平気。いつものことだから。
飲み込むのも平気。いつものことだから。
期待を持たせないでほしい。慣れていないから。
期待した分、裏切られて悲しむのは間違いなく私だから。
「……。欲張りだな」
「欲張り?」
「伝えたら何でも願いが叶わないと気が済まないのだろう」
確かに、そのとおりだ。
自分は、貪欲で強欲だ。
自分の、努力や頑張った分見返りがほしいと思ってしまう。そんなの、叶うはずがないと分かってるから伝えない。伝える努力も頑張りもしない。
「……うん、そうだね。だから、伝えない」
叶わないのを知っているから。
伝えて、きっと叶わないだろうし、その気持ちを高瀬君の重荷になるのも嫌だったから。
そう言うと、大湊君は私にゆっくり近付いてきた。そして、手を握ってくれた。
「今、ここには俺とお前しかいない」
「………?」
「吐き出せ」
今までキャプテンのことで飲み込んできたそれ、全部吐き出せ。
大湊君はそう言った。
真剣な目。あぁ、高瀬君と重なる。
眼の前が歪んだ。
泣くのを見られたくなくて、俯いた。
「…、高瀬君のバカ」
「…………」
「先輩が好きなのに気持ちを伝えなくて」
「…………」
「なのにいつまでも引きずってて」
「…………」
「先輩が好きなら、私に優しくなんて、しないでよッ」
私のことなんて好きじゃないくせに。
ただの同級生マネージャーとしか思ってないくせに。
優しくしないでよ。
少しは私のこと、見てよ。
ボロボロと涙が溢れて飲み込んで消化したはずの黒い感情が口から溢れてくる。
止まらない、止まらない。
嫌なのに、こんな感情を抱いていたと他の人に知られるのもいやいやでたまらないのに、どうしてこんなにも胸がスッキリするんだろう。
大湊君の大きな手が私の手をギュッと握ってくれる。
大丈夫だ、と言ってくれているようで嬉しかった。
「もう、これ以上好きになんて、なりたくないよ」
ポタッと溢れた涙が、大湊君の手に落ちた。
その涙が宝石のように美しいのを俺は、俺だけが知っている。自分とは違う大きな目から溢れる涙は、美しく、でも、その涙が出る感情は自分に全く向けられていないと思うと歯痒いような、悔しいような、そんな感情を抱いていた。
「ごめんね…、大湊君…」
ズビズビと鼻を啜る幼馴染は昔から自分の感情を伝えるのがとにかく下手だった。そのせいなのか、元々の平和主義精神のせいなのか、自分の気持を伝えずに周りに合わせるようになった。
勿論、好きな人間にも。
「………、これを頭から羽織っていたほうがいい」
「え、目そんなに赤い……?!」
悪いな。
そして、キャプテン。すいません。
心の中で謝った。羽織っていたジャージを幼馴染に被せ、取り敢えず部活に向かった。
どうせ今日部活は休みだが、レギュラーメンバー達は向上心が強いから恐らくいるだろう。
「おや、大湊。マネージャー捕まえてきたの」
部室に入ると副キャプテンが俺とコイツを見て何かを悟ったように、そう声をかけてきた。副キャプテンの声にコイツは少しビクッとしたが、それを抑えつけるように肩に手を回した。
「はい、風間浦あき程ではないですが、マネージャーは魅力的ですから」
「あれ、僕マネージャー捕まえてきたの?って聞いたんだけど」
俺の目は副キャプテンを見ていなかった。
副キャプテンの奥にいる少し驚いたようにこちらを見ているキャプテンを見ていた。
見せつけるように肩を抱き寄せる。
コイツが驚いているのが分かったが、俺は止まらない。
いや、止まる気もなかった。
「はい、だから俺がマネージャーを恋人として捕まえました」
皆が皆、驚いていた。
勿論、キャプテンも。
俺は、幼馴染を悲しませるしかできない貴方を許すことはできない。キャプテンの目が鋭くなったのを確認しても俺は怯むことはなかった。
