バクテン!!
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高瀬君は普段は紳士的で優しくて、でも新体操のことになると熱くて、後輩指導にも熱心で。アオ校の方との練習の際は向こうのキャプテンと張り合っていてちょっと子供っぽいところもあるけど。
でも、私は今でも覚えてることがある。
初めての公式戦の時。私は実際に演技する選手じゃないけど、緊張で震えていた。支えてきた選手たちがちゃんと演技できるだろうか。この気持ちを悟られては選手たちを不安にさせてしまうだけだと思って必死にポーカーフェイスをした。でも、演技をする高瀬君にはバレてしまって。
先輩達が目を離したときに、不安が顔に出ていたのだろう。白地の紫の柄が入ったシロ校ジャージを頭から被せられた。そのジャージからは高瀬君の匂いがした。
「大丈夫だ」
芯のある、力強い言葉だった。
そんな事があってから私の中での高瀬君への気持ちが変わった。そして、先輩達が卒業して。
高瀬君は、先輩マネージャーにフラレた。
知っていた。高瀬君はあのしっかりしていて、笑顔が優しいあの先輩が好きだなんて。分かっていた。だから諦めていた。先輩も高瀬君が好きなんだって思ってた。でも、高瀬君はフラレた。私の中で何かが囁いた。
今、高瀬君は傷心している。
付け入るなら今だ、と。
だめだと思った。
そんなの、高瀬君は傷付いているときにそんな事をしても、意味はない。そこに高瀬君の本当の気持ちはない。
そう思った。
それに、高瀬君は一途な人だ。私が今、告白したところで高瀬君は私を好きにはなってくれない。高瀬君が好きなのは先輩なんだ。私はあの、高瀬君から優しい目を向けてもらえていた、先輩じゃ、ない。ただの弱い、同級生のマネージャーなんだ。
その日、私は布団を被って泣いた。
そして、私達は最高学年になった。
私は高瀬君に思いを伝えていない。伝えてもきっと、今は大会で優勝することを目標にしてる高瀬君に雑念を与えてしまうと思ったから。
……いや、これはただの言い訳だ。本当は高瀬君に想いを伝えるつもりはない。だって、伝えてもフラれるのが目に見えていた。それに、きっと高瀬君を困らせてしまう。
でも、彼への気持ちは、欲は日に日に高まっていく。どうしたら、彼への気持ちを伝えないようにしながらこの気持ちも、欲も開放されるんだろう。一人悶々としていた。
そんな、日々を過ごしていたある日。
あることがあって、私は危うく練習に遅れそうになった日のこと。
私は、自分に何が起こったのか分からなかった。
近隣の学校と合同練習があった。
練習が終わって珍しく陸奥君が早く帰って、後輩達も練習を終えて帰り、高瀬君がまだ残っていた。監督から選手がオーバーワークしないように見ておくよう言われていたから、私は残っている高瀬君を置いて行けず、残って練習を見ていた。
が。
何だか、いつもの、合同練習の時の高瀬君の演技ではなかった。
何かをぶつけるような、吐き出すのに、吐き出せないような荒々しい力強い、悪い言い方をすれば雑な演技。
「高瀬君、オーバーワークだよ」
そう声をかけるが、肩で息をする高瀬君は練習を止めようとしない。また練習に戻ろうとする。
「高瀬君!」
「…………」
止めるため高瀬君の腕を掴んだ。
私の制止なんて簡単に振り解かれてしまうだろう、そう思っていたのに、高瀬君は止まってくれた。
荒々しく力強い、言葉では止まらないのに、行動で制止すれば素直に止まる。高瀬君が、よく分からない。
「どうしたの…?演技も、いつもの高瀬君の演技じゃないよ…?」
高瀬君からギリッと歯を噛み締めるような音がした。高瀬君もそれは分かっているらしい。
どうしたんだろう、本当に…。
「私に出来ることがあれば言って。話ぐらい聞くから」
そう声をかけるが、高瀬君は私に背を向けたまま沈黙した。まぁ、陸奥君みたいに付き合いが長ければ高瀬君が今何に悩んでいるのかも分かるかもしれないけど。私には高瀬君が、何に悩んでいるのか全く分からなかった。
「お前は、あぁやって誰にでも…」
「ぇ………」
突然、高瀬君から冷たい声と冷淡な言葉を向けられた。そして、少し振り返った高瀬君の目には怒りやら侮蔑やら、少なくとも良い感情は一切無かった。
最初は高瀬君が言っている言葉が理解出来なかったけど、一つ思い当たる件があった。
それを予想して、私はざぁ…と血の気が引いた。
それは、私が今日の合同練習に遅れそうになった理由。
隣のクラスの男子から、告白された。
もしかしたら、高瀬君を忘れられるかもしれない、と一瞬迷ったが無理だろうとすぐに答えが出て、お断りした。だが、その男子はその一瞬の迷いを自分に気があるから迷っていると勘違いした。元々あまりいい噂を聞かない男子だった。ニヤニヤ笑いながら男子は私は抱き寄せ、キスをした。もちろんその後、何とか逃げたが。もしかしたら、そのキスしたのを高瀬君に見られたのかもしれない。そして勘違いしているとしたら。
「ッ違うよ!あれは、」
「なら、俺もやらせろ」
そう言って高瀬君は私の掴んでいた手を掴み返し引き寄せた。その力に抗えず、私は高瀬君に抱き締められたかと思った。
けれど、そんな優しい暖かさは無かった。
自分の唇に押し付けられる肉厚で少しガサついたそれは、高瀬君の唇だった。逃れようと身をよじろうとしたが、高瀬君の屈強な片腕が私を抱き締め動けなくされてしまう。
「ぅ、ンッ……!!」
好きな人との初めてのキスは、夢に描いたような優しく甘いものではなく、悲しく、奪われるようなものだった。
息が苦しい。
胸が痛い。
なんで私、高瀬君とキスしてるの?
苦しいやら胸が痛いやら、現状が理解出来ず混乱している私。そんな私を無視して、高瀬君は私の唇をぬるりと舐めると驚いて少し開けてしまった口の隙間から、高瀬君の舌が私の口腔内に入り込んだ。
「ン、はッん、んッ……!」
舌を絡め取られ、歯列を舐められ、力が抜けていく。止めてほしくて、離してほしくて必死に高瀬君の胸板を押していたが、力が抜けてしまいます手を添えているだけになってしまった。絡め取る高瀬君に唾液を流し込まれ、窒息しないよう必死に飲み込んだが、とろりと口端から唾液が溢れた。
貪られる。
奪われる。
愛などない。
愛おしさなど一切ない。
本当にただ、欲を吐き出されるだけ。
目の前が歪んで、目を閉じると瞼の裏に先輩マネージャーとあの優しい目を向けていた高瀬君がいた。
ポロリと涙が溢れ、頬を伝い落ちた。
