バクテン!!
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私は走っていた。
確認して、伝えなきゃいけなくて。
2年前の春。
好きな人が、いた。
大切な人だった。部活は違うけど同じクラスで、優しくて、爽やかな人だった。こんな私にも優しくしてくれる人だった。
いつか伝えよう、そう思い続けていた。
でも、ある日。
好きな人は違う子と付き合うことになった。それは私にとって失恋だった。
その日の放課後、誰もいなくなった教室で一人めそめそと泣いた。そこに偶然来てしまったのが部活も一緒で同じクラスの女川君。
「あれ、マネージャー、まだ残っ、て…」
私の頬を伝う涙が見えるといつも軽い感じで話しかけて来た女川君は言葉を引っ込めた。私は泣いているところを見られてしまったことと、気まずくしてしまった事に対して鼻声で謝る。すると女川君は大股で私の前の席にやってきた。
「どしたマネージャー、何か言われたんかー?」
わしゃわしゃと私の頭を撫でながらそう言う女川君。その軽さが今は少し心を楽にしてくれた。私も軽い感じで実は…と失恋してしまった事を伝えると、女川君の私を撫でていた手が止まった。それには私が驚いて女川君を見上げると、女川君はどこか強張った表情をしていた。どうしたの?と聞くと、ハッと我に帰った女川君はいつもみたいに笑い何でもない、と言った。口で失恋してしまったということを再確認してしまうみたいで、涙がまた溢れてきた。それを見た女川君はまたあわあわとしながら、慌てていた。
そして、
「なら、俺と付き合うってどう!?」
そう慌てながら言った。
…ならって使い方、違うと思う。とぼんやりと思った。
「実は、俺も失恋してて…」
「えぇ…!?」
女川君が!?確かにアイドル好きだって有名だし、でも優しくて誰にでもフレンドリーで、だからモテモテだろうって思ってた女川君が…、失恋…。何だがそれが、傷ついたのは一人じゃないんだよと言われている様で、胸の痛みが少し和らいだ気がした。今、思えば私はただ傷を舐めて癒してくれる人が欲しかったのかもしれない。あーでもない、こーでもないと色々な理由を言い続けている女川君に、私は頷いていた。
女川君は本当に優しかった。紳士的、とは違うけど人の感情に敏感で、すぐに感じたことを察知してくれる感じだった。
部活で一緒だったけど、一緒に帰ることはほとんどなかった。何せ彼は寮生活、私は実家暮らし。でも、部活が休みでアイドルのコンサートとかのアイドル関係の予定がないときは時間を出来る限り割いてくれた。部活の後、疲れているのに連絡をしてくれた。優しく私を見るその目も、優しく好きだと言ってくれるその声も、まるで本当の恋人同士のようだと思った。けど、女川君は私の失恋の傷を癒すために付き合ってくれているだけで私のことは好きじゃないんだ。勘違いしそうになる自分に違うと、そう言い続けた。
そして一年が過ぎて、失恋の傷もようやく癒えた頃、去年入部してくれた栗駒ちゃんと部活が終わって着替えていると「そういえば、」と栗駒ちゃんが言った。
「女川先輩と付き合ってるんですね」
ぎくっと肩が震えた。失恋の傷は癒えたけど、ちょろい私はいつの間にかずっと寄り添ってくれた女川君に恋をしてしまっていた。でも、女川君も失恋していて、私の失恋を癒すために付き合っていて…という状態。つまり私が失恋の傷が癒えましたと伝えたら、女川君はきっとお役御免だなと言って離れていってしまうだろう。このままそばにいて欲しいけど、傷が癒えた今の状態では動機が不純している。そのことが私を悩ませていた。
「女川先輩は願いが叶ったんですね」
「…?……どういう意味…?」
その意味が分からなくて首を傾げると栗駒ちゃんはこう言った。
「女川先輩は、先輩のことがずっと好きだったんだって言ってました」
最初はそういう設定で付き合ってることにしていたんだなと思った。
でも栗駒ちゃんの話を聞いていると…。
「だから俺は、絶対に先輩を泣かせないって言ってましたよ」
違うと感じた。
もしかして、あの時私が失恋するより前から女川君は私のことが好きだったって…こと…?ということは……。
私は女川君に連絡し、素早く着替える。そして女川君が「今○○にいる」と連絡をくれたから、栗駒ちゃんに挨拶してそこに向かって走り出した。
ねぇ、女川君。
優しいあなたは、あの時失恋した私に失恋したの?
女川君は自己欲であの時付き合うって言ったんじゃなくて、本当に、ただ慰めたくて私と付き合ってくれたの?
こんな私だけど、今でも好きですか?
今度は私が、伝える番だ。
そう思い、私は夕闇の中駆け出した。
