バクテン!!
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最初はたった四人。四人でこの蒼校男子新体操部を立ち上げた。その時から私は七ヶ浜と築館と女川と一緒だった。私は男子新体操に対して殆ど知識を持っていなかったけど独学と、志田監督に教えてもらいながら学んだ。
そして初めて三人で演技をしたのが、東北六県の合同練習の時。あの時は自分の作品を見てもらっているような、ドキドキと不安が胸に溢れていた。音楽が止まり三人の演技が終わったときには誰よりも先に拍手して、心の中でホッと安堵していた。
三人が講評してもらって戻ってくると笑っていた。
「マネージャー、率先して拍手しすぎだって!」
「だって…」
「ありがとな」
七ヶ浜はそう言って私の頭をわしゃわしゃと撫でてくれた。その時感じたのは、自分の無力感。自分に出来るのは彼らのサポートばかりで衣装を作成する知識も技術も、競技に対してのアドバイスなんて出来ない。ただ誰よりも三人は凄いんだと、蒼校男子新体操部部員は人数こそ少ないけど精鋭なんだぞと言うことしか出来ない。
それしか、出来ないのだ。
「マネージャー?」
築館に声をかけられてハッと我に返る。私があまりにも反応しなかったからか三人は心配そうに私を見ていた。
「大丈夫か?」
「うん…!何でもないよ!」
三人には、言えない。三人は優しいから、それしか出来ない私に対してもきっとまた優しい言葉をかけてくれるだろう。私はそれを聞いて勘違いしてしまう。今の自分のままでいいんだと。良くない筈なのに。もっと私は勉強しなきゃいけない。三人を支えるための知識を身に付けて、もっと頑張らなきゃいけない。
そして翌年。
亘理君と栗駒ちゃんが入部してくれた。これでようやく公式戦に参加できるんだ、と三人は意気込んでいた。亘理君は少し、怖かったけど私を姐さんと呼んで慕ってくれた。その頃から志田先生…、志田監督に、ニコニコ笑顔を浮かべられながら無茶は禁物だよ、とよく言われるようになった。
言い返せなかった。
正直、無茶をしているという自覚はあった。だって、栗駒ちゃんの存在は私にとって脅威だった。私が頑張って学んできたことや、ようやく出来るようになったことを栗駒ちゃんはいとも簡単にやっていく。私はその内要らない存在になるんじゃないかと胸の中ではずっと怯えていた。それに、栗駒ちゃんは志田監督の親戚だとも聞いて、良いなぁと思った。気兼ねなく、お互いを信頼していて、気負うことなく聞くことが出来ることなんて、私には出来ない。
「マネージャー」
「おーい」
ポンッと肩を叩かれて思わず体が跳ね上がった。驚いて振り返ると七ヶ浜と女川、築館も驚いている様子だった。
そうだ、今は午前の授業が終わってお昼休みだった。
「大丈夫か?」
「何だか最近ボーッとしてるみたいだけど…」
「だ、大丈夫…!」
………、お昼休み?
「ごめん、ちょっと志田先生に呼ばれてるから行ってくるね」
「おう……」
今朝の朝練で志田先生にちょっと昼休みに来てほしいんだって言われてたんだった。作ったお弁当を食べるのもそこそこ私は教務室に向かった。志田先生もちょうどお昼ご飯を食べて終えいるときだった。手招きされて入っていく。
「何を焦っているんだい?」
「え…」
「僕には君がとても急いているように見える」
急いていない、何て言えなかった。正直、志田先生に責められているように感じた。その後の志田先生の言葉は全然入ってこなくて、すべて悪い方へ聞こえてしまう。
だって私には専門的な知識も視野もない。簡単に聞ける人もいない。いつまでも出来ないままじゃいつか私は要らないと言われてしまう。急いて何が悪い?
もしかして志田先生は…。
「向いてないから、男子新体操部を、辞めろと…おっしゃるんですか……?」
「え……?」
そうだよね。志田先生からしたら親戚関係で知識も視野もある栗駒ちゃんさえいれば知識も視野さえもない使えないマネージャーなんて要らないよね。
ボロッと涙が溢れた。
「そうですよね、いくら努力しても結果が実らなければ、要らないですよね…」
ギュっと拳を作って痛みでこれ以上涙が溢れないように我慢する。志田先生は「いや、そうじゃなくて…!」と言ったが、私は一礼して「失礼します」と鼻声で逃げるようにして、教務室をあとにした。初めて授業をサボった。しかも午後の授業全部。そして、部活も初めてサボった。
放課後、部員に見つからないように友達と一緒に帰った。いつもなら部活なのにどうしたの?と聞いてきたけど私の表情を見てそれ以上追及してこなかった。友達と少しお茶をして分かれ道で別れ、空を見上げた。オレンジ色の夕焼け空に青い鳥が飛んでいる。
時計を見るともう部活終了時間を随分過ぎている。四人も寮に戻った頃だろう。
「メイデン!」
七ヶ浜の声。
振り返ると学校のジャージを着た七ヶ浜が肩で息をして私を見ていた。
「七ヶ浜…」
「なんで、部活…ッ、サボった…」
ぜえぜえと息をしながら七ヶ浜はそう言う。なんでっ、て…。
「栗駒ちゃんがいれば、私は要らないでしょ…?」
七ヶ浜は息を整えて、真っ直ぐ私を見る。どうしてみんな私が悪いみたいに言うの?だって、志田先生も、私を責めた。辞めろと言っているものだと思ったから、だから辞めようとしているのにどうしてそれさえ責められるの?
「誰がそんなこと言った」
「もう、放っといてよ…」
初めて三人が演技をしたときが脳裏をよぎる。綺麗だった。美しかった。三人が認められることで私も認められているようで嬉しかった。でも、それは大きな間違いで。もう、それも終わり。三人はこれからスポットライトのような光を浴びながら蒼校男子新体操部を盛り上げていく。そこに私はいないだけ。
「放っとけるか!それに少なくとも俺達は、俺達の演技をキラキラした目で、淀み無い感想をいってくれるお前が必要だ!」
「それこそ栗駒ちゃんがいればいいでしょ?少なくともこんな素人丸出しの感想よりも、栗駒ちゃんみたいに専門的な視野で見てくれる方がよっぽどて、」
「うるせぇ!ンなこと知るか!」
大股で七ヶ浜が近づいてくる。叩かれる?殴られる?その勢いと迫力にワタシは暴力を振るわれるんだと思い咄嗟に目を閉じるとグイッと腕を引かれた。制汗剤の匂いと人肌のぬくもり。涙腺が緩むのを感じた。
「俺も築館も女川も亘理も、お前がマネージャーで良かったと思ってる」
「だって、わたっ、私…!栗駒ちゃんみたいにッ、知識もッ、視野もないから…!みんなにアドバイスも出来ないし…! 」
「監督が言ってたぜ。お前はマネージャーっていう選手を支える選手として一流だって」
ボロボロ涙が溢れてくる。だけど七ヶ浜は私を抱き締めたまま放そうとしなかった。
夕日に照らされた私たちを、私がさっき見た青い鳥が木々の隙間から見ていた。
