94
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
その人は兄貴に連れられてやって来た。
兄貴と同い年だっていう優しい年上の女の人。
兄貴がいないときに面倒を見てくれたその女の人。
好きだという感情を抱いたが、その人は自分や妹に向ける優しい笑顔と兄貴に向ける優しい笑顔とでは全然違うことに気付いた。
分かっていた。
兄貴には敵わないことも。だって兄貴は無敵で凄く強くて俺では到底追い付くこともできない。
そんな兄貴をその人が好きになるのなんて当然なんだ。
ジクジクと燻るこの気持ちに水をかけたのは、まだ中学に上がるか上がらないかぐらいだった。
******
突然、ヒヨシ君に呼び出しを食らった。
ヒヨシ君は学生時代からの友人。ちょうどヒヨシ君がバイトとかを掛け持ちしだして弟妹達を一人にしておくのも可哀想だと悩んでいた頃。
家庭の事情を知っていて、家が近くて、弟くん……もとい、ひー君も懐いてくれそう(その他諸々)を理由にヒヨシ君に頼まれ、私はヒヨシ君の弟妹の面倒をしばらく見ていた。
学生を卒業し、レッドバレッドとして働き始め、私は大学に行きながらヒヨシ君の弟妹の面倒を見続けていた。その頃、火遊びが激しかったヒヨシ君に、(何故か新横浜吸血鬼退治人組合のマスターに頼まれ)お灸を据えるのも私の仕事に加算された。
それが、何よりも大変だった…。
ヒヨシ君…、説教しても、関節技決めても、プロレス技決めても止めないから…。まぁ、結果的に情けない事で吸血鬼退治人辞めることになってるんだから自業自得だ。
まぁ、そんなヒヨシ君は吸血鬼対策課に勤めるようになっていた。妹ちゃん…ヒマリちゃんももう大丈夫だと言われ、高校卒業頃にひー君も出て行ってしまって、私もお役御免になった。
ヒヨシ君とはたまに飲みに行ったり、ご飯を作りに行ったりしていた。……決して通い妻ではない。
そんなヒヨシ君からの呼び出し。
しかも、居酒屋じゃなくヒヨシ君宅。
…………またご飯作れとか?まぁ、良いけど。材料費はいつも払ってくれるから。なんて思いながら何が食べたいの、なんて連絡すると水だけ買ってきてくれと言われた。
珍しい…。ヒヨシ君の部屋の冷蔵庫、酒とか栄養剤とかしか入ってないイメージだからなぁ。
まぁ、水だけでいいならコンビニで買って行くけどね。
なんて思いながらヒヨシ君宅に行くと、チビチビと酒を飲むやや酔ってるのか頬を赤く染めてるヒヨシ君と、テーブルに突っ伏してるひー君(?)がいた。床には酒の空き缶がチラホラ。
「………ヒヨシ君」
「おう、遅かったにゃあ」
「まさかと思うけど片付けるために呼んだって言ったら、逆エビ固めだからね」
「んなムードのないこと言うとらんで、ほれ。そいつに水飲ませてやってくれ」
そいつと指さしたのは…。
「ひー君、だよね?」
「まぁにゃあ」
テーブルに突っ伏した銀髪。やっぱりひー君なんだ。大きくなって…。おばさん嬉しいわ。
…ってそうじゃない。
「ひー君、聞こえてる?大丈夫?」
ひー君の周りにある酒の空き缶はどれも度数が低いし、数も少ない。下戸なんだね。
肩をポンポンと叩きながら声をかけると、目がやや据わった状態のひー君が顔を上げた。頬は赤い…。だいぶ酔ってるな…。
「ひー君、水飲める?買ってき、」
買ってきたから飲んで、そう言おうとしたらぐいっと強い力で抱き寄せられていた。
えーっと、ひー君…?
説明を求めるようにヒヨシ君を見るが、ヒヨシ君もやや目が据わってる。酔ってる。だめだこりゃ。
「……分かってんだよ、○○さんは、兄貴が好きだって…」
……………はい?
○○さん?私が?兄貴が好きだって?兄貴って誰?ヒヨシ君のこと?
「ないない!そんなことないから大丈夫だよー!」
だってヒヨシ君だよ?
女好きで有名なんだよ?
なんでヒヨシ君が吸血鬼退治人引退することになったか教えてあげようか?
「言うんじゃにゃあよ」
あ、心の声が少し漏れてた。
「分かってんだけど…、それでも俺は○○さんが好きなんだよ…!」
「ぁ、え………?!」
え、え………?!
どゆこと……?!
どういうことなの…?
ってか、私の声聞こえてない?分かってんだけどって言ってるけど、全然分かってないよね!?
「おーい、聞いとるかー?○○は俺の事好きじゃにゃあよ」
「………………、ホント……?」
私の声は聞こえないのに、ヒヨシ君の声は聞こえるってどゆこと?……ま、まぁ、ツッコミはさておき今のうちに誤解は解いておかないと…。
腕を解いて私の肩に手をおきながらひー君は小首を傾げながら聞いてくる。大型犬なんだけど、小首を傾げてる姿は小型犬…。
「ホントホント」
そう言うと、ひー君は嬉しそうにへニャリと笑うと「良かったぁ…」と言って私の肩口に顔を埋めた。
「おれ、○○さんが……す、…」
そこまで言って、ひー君はすぅ…すぅ…と寝息を立てて眠ってしまった。ってか、ひー君…重いっす……!
後ろに倒れまいと耐えたが、耐えきれず…。私はひー君諸共倒れてしまった。
が。
ぽすん、と温かい何かが私を抱きとめた。
「流石に飲ませすぎたか…」
「ヒヨシ君…」
ヒヨシ君はひー君の身体を動かして横にしてやり、掛け物をかける。もう、ひー君は夢の中に旅立ったのか声をかけても起きやしなかった。
「お前への気持ちを延々と語るんでな、呼んだんじゃ」
なんか、告白されて恋心が芽生えるとかそういう前に、嬉しいなぁとか、ひー君大きくなってたんだなぁとか、そういう感情が大きい。
ふわふわの銀色の髪を撫でてやると、ひー君は嬉しそうに顔を歪めた。それを見て自分の頬が緩むのを感じた。
「すまんかったにゃあ、水買ってきてもらって。金はまた後日払う」
「利子つけるからね」
「勘弁してくれ」
私はとりあえず明日も仕事だからお暇させてもらおうと玄関に向かうとヒヨシ君も見送りにやってきた。別にいいのに…。靴を履いて、ドアノブに手をかけたところで背後から「そういえば、」と声が投げられた。
「俺は○○の事、好きじゃよ」
「は………?」
振り返ると思った以上にヒヨシ君の顔が近くにあって驚いた。キス、されるかと思ったがヒヨシ君はさっきひー君が顔を埋めた反対の方の肩に額をすりすりと擦り付けた。
「ずっと昔から、女としてにゃあ」
逃げようにも後ろは扉。チェーンも、鍵も閉まったままだし、肩を掴まれていて動けない。
どうしよう。
「まぁ、でも俺はアイツにも幸せになって欲しいから、二人でお前を愛そうって話になってな!」
「は………!?」
ニカッとヒヨシ君は笑いながらそう言う。
二人でお前を愛そうって……!?
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
次は三人でデートじゃな。
扉が開いて、外に出ると後ろからそんな言葉が楽しげな声とともに聞こえてきた。
扉が閉まって、冷たい夜風が私の頬を撫でる。
まさか、婚な短時間で知り合いの二人に告白されるとは……。
「モテ期かな……?」
もう考えるのを止めた思考は、ポジティブなことだけを拾い今起こったことを全て無かった事にするかのように私は帰路についた。
後日、そんな私に追い打ちをかけるようにヒヨシ君から三人でデートするぞと連絡が来るのを私は知らない。
