94
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「よっ」
仕事も終わり、着替えて会社から出ると私服の前髪を下ろしたヒヨシ君が軽く手を上げて私に挨拶した。そして、気付く。今日は今月最後の金曜日だったということに。
「今回は覚えてたね」
そう言いながら近付く。
ヒヨシ君は昔から変わらないなぁ…。若いというか、童顔というか…。それを本人に言うと怒るから言わないけど。
ヒヨシ君は当たり前じゃ、と言いながら胸を張った。
毎月、最後の金曜日はヒヨシ君と飲みに行く約束になっていた。
約束をしたのは、彼がまだ吸血鬼退治人として働いていた頃。
ヒヨシ君は忙しくて、時間通り来れなかったり、早くにお開きになったこともあった。引退して吸血鬼対策課に就職してからも忙しいみたいで、たまにすっぽかされそうになったこともあった。
故に私の台詞だ。
「いつもの居酒屋でいい?」
「あぁ、構わん」
女好きで、女の子にはカッコつけなヒヨシ君だけど、私には一切そんな姿を見せない。一度、(好みだったのか分からないけど)居合わせた女性客を口説いていた時があった。あぁ、ヒヨシ君の好みってこんな女の子なんだなぁと思った。
美人で、胸が大きくて…。
まぁ、良いけどね。
私も好みは背が高くて、顔がいい男だし。
少し歩いて、目的の居酒屋に到着する。暖簾をくぐると中から男性の活気ある声でいらっしゃいませ!と言われた。
個室に案内され、席に着く。
うむ、案内してくれた男の子なかなかタイプだったな、なんて思いながら鞄を置くとふと前からジトリとした視線を感じた。
見ればヒヨシ君が何やら静かに怒っているようで、ジトーッと私を見ていた。
「なに?」
「おみゃーなぁ…」
呆れたように額に手を当てながらヒヨシ君は溜息を吐いた。私なんか粗相した?いや、まだ店に入って席に案内されたばっかりだし。強いて言うなら案内してくれた男の子がなかなかタイプだったなぁって思っただけ。………、この一ヶ月でヒヨシ君が読心術でも会得して私の心を読んでいたなら、話は別だけど…。
それはまぁ、あり得ないし。
「なに?私なんかした?」
そう言いながら店員が置いていった温かいおしぼりで手を拭く。あー、温かい。外はもう秋から冬に向かって全速前進って感じだから温かいものが食べたい…。
「………、いや。なんでも」
「そう?」
はい、うそー。
なにか言いたいのに飲み込んだな。
まぁ、良いけど。ヒヨシ君、ずっと我慢できないタイプだから言いたくなったら言うと思うし。
『飲みに行かんか』
『分かってるんじゃ。俺があいつらを支えなきゃならんとは分かってはいるが、疲れた』
『お前は学生の頃から口が堅い。そこを信用してるんじゃよ』
私はヒヨシ君の愚痴や弱音の吐き出し口。
理由は私が口が堅い、ただそれだけ。
ヒヨシ君はずっと我慢できないタイプだから、こうやって吐き出せる場所がなくてはならないのだ。
だから私と毎月飲みに行くのに好意があるわけでも、愛情があって私を選んでいるのではない。
私はメニューを目で撫でながら食べたいものをまとめていく。ヒヨシ君は飲むものが決まったのか、呼び鈴を押そうとしていた。
******
引き攣った顔をして店員は離れて行った。
はて、なんであんな顔をされなきゃならないのか分からない。食べたいものや飲み物を頼んだだけなのに意味が分からない。
「お前、相変わらずよく食うな…」
「あぁ…」
ヒヨシ君が呆れたようにそう言うと。なるほど、納得。あの店員は注文の数にドン引きしてたわけか。
納得はするが、不服だ。
なんであんな顔をされなきゃいけないわけ。売上に貢献してるんだからもう少し笑顔振り撒けや。
「お腹減ってて…」
「確かに、さっきから腹の虫が鳴きまくってる」
「分かってるなら言わないでよ」
恥ずかしいなぁ、なんて思いながらお冷を少し飲む。
なんか、ヒヨシ君が変だ。
いつもならフルスロットルで愚痴や弱音を吐きまくるのに今日はなんか変に落ち着いてるというか…。恋愛漫画とか恋愛ドラマとかでよく見る、彼氏役のようだ。
「まぁ、食べられることは良いことだ」
そう言いながら優しい笑みを浮かべてヒヨシ君は持っていたメニューを片付けた。
違う。
今日は引いてるだけか。ということは…。
「何かあったの?」
踏み込んできてくれってことね。
長年こうやって飲んでると、ヒヨシ君がどうしたら愚痴や弱音を吐き出すのか分かってきた。ふふん、ヒヨシ君。いつまでも受け身だけの女だと思ったら大間違いだよ、ちゃんと吐き出させる方法だって分かってんだからね。
ヒヨシ君は少し俯いて、何やら困ったような表情をすると口を開いた。
「全くタイプじゃない女と見合いしろと言われた」
……………………は?
「熱烈キッスよりはまだいいが、全く好みじゃない上に、タイプでもない……!!」
…………はぁ?
「一応上司の娘だからタイプじゃないとは言わなかったが…!!危うく口が滑りそうになった…!!!」
滅びろおっぱい星人。
どんどん言葉に熱が帯びていくヒヨシ君。
私は冷たい眼差しでヒヨシ君を見ていた。
なるほど、つまりお見合いを断れる方法を一緒に考えてほしいというわけね。
「何、そろそろ身を固めろとか言われたわけ?」
「まぁ、そんな感じ…」
「大体ヒヨシ君なら、付き合ってる女の子の一人や二人いるでしょ?その女の子と付き合ってるので無理ですって言えばいいんじゃないの?」
そう言うと、ヒヨシ君は目を大きく見開いて私を見ていた。
これで気付かなかったとか言ったら、怒るからね。
とか思っていたら、少し悲しそうな顔をして俯かれた。
え、もしかして地雷踏んだ?
「その女、俺のこと…何とも思っとらん…」
………マジかー。
「おまたせしましたー」
店員が注文した飲み物や食べ物数品を持ってきた。
あー、お腹減った。
店員が離れると私達はとりあえず乾杯をして、食事に手を付けた。
「つまり、フラレたってこと?」
もぐもぐもぐもぐ。
「そうじゃない…」
もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
「告白したの?」
もぐもぐもぐもぐ。
もぐもぐもぐもぐ。
「してないが…、」
もぐもぐもぐも。
「じゃあ分からないでしょ。それにもしかしたら、逆に告白されてから向こうが意識し出すかも知れないし」
散々女をナンパして来て女遊びしてきたのに、変なところで純情だなぁ…。
食べる手を止めていた私は再び食べる手を動かし始める。
筈だった。
ガシッとヒヨシ君に手を掴まれたのだ。
え、なに今度は。
もしかして告白するからついて来いとか?
絶対嫌だからね。
食べる手を止められてムッとした私はヒヨシ君を怒るために視線を向けて、目を見開いた。
頬を赤くして視線を逸しているヒヨシ君。
え、何その反応。
「その、俺と付き合ってくれんか…?」
…………………、嘘でしょ。
心の声は咀嚼していた唐揚げと共に飲み込んだ。
