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何を言われているのか、最初は呆然として理解出来なかった。
でも、少しずつ、物を咀嚼して飲み込むように言葉を咀嚼して理解していくと、怒りや悲しみ、悔しさなどを煮詰めたような不愉快な感情が胸を占めた。
私と吸対のヒヨシ君は学生時代の知り合いだ。
それこそ彼が吸血鬼退治人をしていた時、彼の小さい弟や妹達の面倒を見ていたのは私だ。だから、知り合いと言うには遠すぎるし、恋人と言うには近すぎる気がする。
そんな彼の小さかった弟妹もすっかり大きくなって、私は勿論だが面倒など見ていない。ヒヨシ君は女好きが祟って吸血鬼退治人は引退したけど、吸対で働くようになった。
ヒヨシ君とは連絡は取り合ってるけど、たまに送られてくるヒヨシ君からの連絡はまるで交換日記でもしているような文で、よくわからない。
そんな彼との連絡をしていると、同僚が訝しげな顔をしてきた。
「アンタ、私が男紹介してあげるから」
同僚はそう言うと私が断ってるのを一切聞かずに、その男性に連絡をし始めた。そして私の制止を一切聞かず、同僚は今日私と会う約束を取り決める。
「や、やだよ私…!」
「アンタねぇ…。もういい年齢なんだから、そんな気があるのかないのか分からないような男にしがみついてたって意味無いでしょ」
時間が勿体ない、と同僚は付け加えた。それに私は喉がひくっとなった。
女の賞味期限は短い。それは知っていたつもりだったが、それを突き付けられた気がした。確かに、ヒヨシ君は吸対に入っても女の子にモテモテだし、私に気があるのか無いのかよく分からない。確かに連絡を取り合うことはあるけど…。
時間が勿体ない、同僚が言った言葉が頭の中で反芻する。
こうやって、ヒヨシ君と連絡を取り合うことも時間が勿体ないってことなのかな…。
「まぁ、会うと言ってもお茶飲んで話すぐらいだから。気楽に行ってきなよ」
私が緊張して言葉が少なくなっていると勘違いした同僚はそう言って背中をポンっと叩いて、仕事に戻っていってしまった。そんな同僚の背中を見送って、私はスマホに目を落とした。ポコンッとスマホが音を立てて連絡が来たことを通知する。
ヒヨシ君からだった。
気があるのか分からないような男にしがみついたって意味がない。
時間が勿体ない。
まるで、ヒヨシ君やヒヨシ君の弟妹達と過ごした時間さえ否定されてしまっている気がした。
******
そして、仕事が終わり同僚に背中を押されながら約束した喫茶店に行くとそこにはスーツを着た誠実そうな男性がこちらに気付くと立ち上がった。
誠実そうで悪い人ではなさそう、というのが第一印象だった。でも、やはり私の気分は乗り気ではなかった。
挨拶をして、無難な話をする。
あぁ、もう暗くなってきた…。早く帰りたいなぁ、なんて思いながら話をしていると男性が笑みを浮かべながら言った。
「そういえば、そいつから聞いたんですが気があるのかないのか分からないような男に想いを寄せてるって…」
そんなことまで話していたなんて…。
ムッとして同僚を見ると、同僚はプイッとそっぽを向いた。まるで本当のことでしょ、と言っているようでイラッとしてしまう。
「貴女のような人を放っておくなんて、その男…見る目がないですね」
あなたにヒヨシ君の何が分かるの?両親が居らず、幼い弟妹たちのために若い頃から吸血鬼退治人という職を選んだ彼の何を知ってそんなことを言うの?
そんな喉まで来ていた言葉を飲み込みながら、私は口の端を引くつかせながら男性の言葉を聞いていた。
「その男、多分貴女のこと何とも思ってないですよ」
分かってる。
そんな事、分かってるよ。
膝の上に置いた手をぎゅっと痛いほど握る。
視界の端、窓の外に銀色が見えた気がした。
「貴女、都合の良いように利用されてるんですよ」
何を言われているのか、最初は呆然として理解出来なかった。
でも、少しずつ、物を咀嚼して飲み込むように言葉を咀嚼して理解していくと、怒りや悲しみ、悔しさなどを煮詰めたような不愉快な感情が胸を占める。
「俺はそんなことしません」
「そうそう、コイツは誠実だしね」
男性と同僚が何を言っているのか、理解出来ない。
言葉が遠い。
音が遠い。
私は顔を俯かせ、自分の先ほど強く握った手を見ると少し血が滲んでいた。
ポンッと突然、肩を叩かれた。
それに遠くなっていた音が言葉が一気に近づいて来てリアルになって、聞こえた。
「お前、こんなところでにゃーにやっとんじゃ」
バッと振り返るとそこにはヒヨシ君とヒヨシ君の弟妹がいた。
「ひ、よし…くん………」
カラカラになっていた喉からやっとの思いで言葉を紡ぐと、ポロッと涙が溢れた。私を見たヒヨシ君やヒヨシ君の弟妹達は大きく目を見開いて、それと同時に顔に陰が落ちる。
「は、吸血鬼退治人(ハンター)ロナルドか?!」
男性は少し興奮しながらヒヨシ君の弟くんを見ていた。同僚も少し顔を赤らめている。そういえば弟くんはヒヨシ君に憧れて、そんな通り名で吸血鬼退治人してるって聞いていたなぁ、なんて思いながら涙を流しているところを見られ恥ずかしくて顔を俯かせた。
「あ、兄貴ッ…!!」
ガンッと何かを殴りつけるような音が響いた。
それに慌てて顔を上げると、ヒヨシ君が男性の顔ギリギリを掠めるように壁を殴っていた。
「失せろ」
聞いたこともない、ヒヨシ君の怒った声。
男性は喉を引つらせ逃げるように店から出て行った。同僚が何か喚き散らしていたけど、ヒヨシ君の妹ーヒマリちゃんが同僚に何か囁くと同僚は顔を真っ青にして出て行った。
「全く、折角4人で飯行くぞって連絡しとったのにこんなところにおるとはな」
こちらを向いたヒヨシ君の顔に先程の陰は見えない。声も怒ってはない。
「ごめんね、来たくなかったんだけど無理矢理…」
「昔からおみゃーは押しに弱いからな」
会計を済ませて外に出る。
外はすっかり暗くなっていた。
ヒヨシ君の弟妹が先を行き、今日のご飯を食べる店を決めてくれている。そんな二人を追いかけながら私とヒヨシ君は並んで歩いていた。
「…なるほど、そういう理由だったか」
何故、男性と会うことになったのか説明するとヒヨシ君は顎に手を当てながらそう言った。
「なら、付き合うか!」
「いやいやいやいや…!」
ちょっと待って!
そうじゃないでしょ!
私がそう言うとヒヨシ君はブーブー言いながら、何が不満なんじゃと言った。
「こんな色男つかまえておいて」
「色男かはともかく…。私はいいかも知れないけど、それじゃあヒヨシ君にはなんの利益もないよ?それに、恋人いるって言ったら女の子が寄ってこなくなるかも…」
そう言うと、ヒヨシ君は目を大きく見開いて、そして次には額に手を当てながら大きく溜息を吐いた。
「長年惚れてる女と付き合える以上の利益なんてないじゃろ」
そう言ってヒヨシ君は私の額をつついた。
………え、長年惚れてる…って……、え?
空色の瞳は言葉を理解した私を映し出していた。
