黒バス
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高尾和成、緑間真太郎は従兄弟同士で互いの両親もとても仲が良かった。だからあの日も両家族で旅行に出かけている最中だった。
強い衝撃を感じて2人は気を失い、目が覚めたら真っ白な空間と薬品の匂いがする場所にいた。医者や看護師がやってきて何か話していった気がしたが、何を答えたか覚えていない。
ただ、両親は死んでしまった。それだけは鮮明に理解できた。
その後は2人にとって地獄だった。
葬儀を終えて親戚は2人を引き取らず施設に追いやったが、緑間は他人とコミュニケーションをとるのが苦手ですぐに問題を起こし、同時に高尾も引き取られた。そして見知らぬ親戚達に引き取られた。特にその家で問題を起こした訳じゃない。
ただ、親戚達は2人に冷たかった。それは高尾家と緑間家が他の親戚達と疎遠だったためである。いきなり久しぶりに名前を聞いた疎遠が亡くなり、そして子供を引き取れということになったのだから仕方がないといえば仕方がない。だがまだ幼い2人にとってその扱いは性格を危うく歪めてしまいそうになるほどだった。
まともに食事さえくれない者。寒空でも防寒具一つ寄越さない者。暴力をふるうもの。
特に彼女の元を訪れる前の男は最悪だった。食事はくれない、寒さに凍え、酒を飲めば暴力をふるわれ、休まる時間はなかった。
高尾はゆっくりと目を開けた。綺麗な部屋の天井が見えた。隣の布団で寝てた緑間も高尾が動いた気配で目が覚めたのか身じろいでいた。ふわふわの暖かい布団で眠るなんて久し振りすぎてなんだか変な感じがした。2人は布団の上で正座する。
まるで全てが夢のようだ。数日前、彼女に引き取られ、暖かい美味しい食事をふるわれ、そして危うく一緒に風呂に入らされるところだった。小学校低学年だとしても、母親以外の女性の体を見るのに恥ずかしさを覚える。断固拒否して、取り敢えずと言われ案内された部屋にはふわふわの暖かい布団。
「明日から学校だから、ゆっくり休むこと。それと土日で買い物行くから予定空けておくように」
何かあったらリビングいるから、おやすみ。あぁそれと寂しい時はいつでも隣の私の部屋に飛び込んで来て良、そう言い掛ける彼女の言葉を完全に遮るように扉を閉めた。
そして、数日間学校に通い今日は予定していた買い物の日だ。だが2人は未だに布団の上から動けずにいた。それは警戒と罪悪感。ここは自分達の見知った家ではない。あくまで彼女のテリトリーなのだ。そんな中をズカズカと歩き回れるほど年相応の気持ちはとうに無くしてしまった。それに2人から見て彼女は若く見えた。そんな彼女に自分達は酷く重荷に感じた。子供は金がかかる、今まで2人をたらい回しにした大人達はみんな口を揃えて言っていた。そのせいか2人はいつもセーブするようにした。
例えば食事。お腹一杯なんて食べられない。空腹を感じない程度にいつもとどめた。
例えばお風呂。出来る限り洗剤を使わないようにして最低限でいつも最低限の清潔を保った。他にもたくさんある。
それはこんなに暖かくてフワフワの布団で眠れる環境でも、暖かくて美味しいご飯が食べられる環境でもあまり変わらなかった。
だから、朝は特に腹が減って腹の虫が鳴く。
時計を見ればいつもなら彼女が扉を開けてご飯だぞ、と呼びに来てくれる時間なのに今日は、来ない。ぐぅぐぅとお腹が鳴る。2人は意を決して、まるで未開の地にでも行くような気持ちで、扉を開いた。
薫る、美味しそうな食事の匂い。リビングを見れば3人分の食事がテーブルに並んでいた。だが、彼女の姿は見あたらない。
「やっと出て来たな」
その声がしたのは、扉の陰から。まるで幽霊のように顔だけを覗かせた彼女が居て2人は跳ね上がった。まるで目の前に本物の幽霊でも現れてしまったような気分だ。
「いつ出て来るかと待っていたが、おはよう」
「び、びっくりさせんな…!」
「朝から楽しかっただろう?」
「それはお前だけなのだよ!」
「よし、私はお腹が減ったから、朝ごはん食べるか」
「話を聞くのだよ!!」
「姉ちゃんって、超マイペース…」
「お前らも食べるんだ、育ち盛り」
彼女は両脇に2人を抱えるとそのままリビングに向かった。ジタバタと2人は暴れるがあの宮地と女だというのに対等に渡り合える彼女から逃れることは出来なかった。
朝食を食べ終えると、2人は着替えさせられ予告通り近くのデパートに出かけた。そこで2人は服やお菓子以上に心惹かれる物を、服や下着を買っている途中で見つけた。彼女が真新しい服や下着やら必要な物の会計をしている中、2人は隣に並ぶスポーツショップの中にバスケットボールがあるのに気づいた。彼女には黙っていたが2人はバスケが好きだ。それはこっそりNBAの番組を見るほどに。
登下校の際見つけたストリートバスケのコートを見つけて、いつか2人で、このコートでバスケがやりたいと願った。
チラッとボールの値段を見れば諦めざるを得ない値段。自分達はまだまだ子供で、ただでさえ金がかかっているのにこんな高いもの買って貰えるはずがない。ボールに後光さえ見えてしまいそうになる。そしていつかお金を貯めて絶対買おうと決心して後ろ髪を引かれながらその場を離れた。
が。
「………真ちゃん」
「言うな」
「いうよ…、そりゃあ、」
姉ちゃん、いなくね?
そう先ほどまで会計をしていたはずの彼女が消えていた。近くを探しても見当たらない。普通の子ならなんとしてでも探し出そうとするところだが、2人は違った。
あぁ、捨てられたんだ。
ぼんやりとそう思うと近くのベンチに腰掛けた。休日のせいか2人の前を家族連れがたくさん通る。どこかでご飯を食べようか、おもちゃを買ってもらった、今日は何を食べようか、たくさん話して笑い合いながら。つい、亡くなった両親を思い出した。
笑って、手を繋いで一緒に買い物に出かけた、優しい両親。だが、この小さな手はもうあの優しくて大きな手に包まれることはない。ズシッと胸に鉛が埋まったように息がし辛くなった。そして脳裏を少し掠めたのは、あの超マイペースな彼女。少なくとも今までたらい回しにした大人達よりもずっと、優しくてまるで本物の姉のようだった。嬉しくて、そしてそんな優しい人に捨てられたと思うと涙が浮かんだ。
「何泣いてんだ、ガキ共」
声をかけられた。
見ればそこには蜂蜜色の髪と黒髪の大男が立っていた。身長のでかさに2人は完全に硬直してしまう。男達が何か話しかけていたが、2人は答えられなかった。すると黒髪の男が携帯を出してどこかに電話を掛けた。
「で、アイツどこだよ」
「すぐ来ると言ってたぞ」
そして、電話をしてから数分後。まるで闘牛でも駆けてきているようなドドドドドッという音。そちらを見れば彼女が人ごみの中だというのに意に介さず凄まじい勢いで走っていた。
「真太郎!和成!」
駆け抜けたのは酷い安堵感と、嬉しさ。2人の前までやって来ると彼女は2人の顔を覗き込もうとしたが、それよりも早く2人は彼女に抱きついた。そしてボロボロと涙を流した。
「悪かったな、そばを離れたりして」
あぁ、優しくて温かい手だ。頭を撫でられながらふと思った。
「大坪、ありがとう。助かったよ」
「気にするな。たまたま見かけただけだしな」
「みっきーも悪かったな。……デート中か?」
「轢く」
「大坪、あの話の事だが、」
「あぁ、分かってる」
そう言って男達は人ごみに飲まれていった。3人はしばらくそこにいたが、2人が落ち着くと手を繋いで帰っていった。だが、帰り着いた場所は朝とは違うマンション。2人は首を傾げたが、超マイペースな彼女のことだ。大方、引っ越したい気分だからとかなんとか言うに違いない。2人はそう決めつけると、自分達の部屋の戸を開けた。机、クローゼット、ベッドから小物や服まで全てが揃っていた。そして、2人が何よりも目を引いたのが各々の枕の上に置かれた、あのバスケットボール。
ソファに座りながらお得意様からのメールを読んでいた彼女に2人が飛びついたのか言うまでもない。
*******
あれから数日後のすでに朝方に近い真夜中。
彼女はパタンとパソコンを閉じると、自分の部屋から出た。前の部屋と違い収納スペースが増えたため大変ありがたい。ふぅ、と一息吐くとリビングに向かった。テーブルにはハガキが1枚と新聞。
2人は彼女が超マイペースだから引っ越した、と思っているがそうじゃない。あの叔父が2人が学校の間にやってきて、金をたかりに来たのだ。出さなきゃ何度でもやってきて、2人に危害を加えると付け加えて。彼女にも恩を感じる、という感情はある。だからこそ、今までははした金で叔父を追い払っていた。
しかし、自分から押し付けてきた子供に、自ら危害を加えると言ってきた。
あぁ、もうこの男はダメだな。
そう思ったら早かった。
お得意様に頼んで、取り敢えずあの部屋を引き払い買い物の間に家具を移動させてもらった。あとは、尋ねてきた叔父を…。
「ねー、ちゃ…?」
声がした方を見ればうとうととした、高尾と緑間が不思議そうな顔で彼女を見ていた。
この子達は知らなくて良い。
そう思うと彼女は小さく笑い、歩み寄って2人の頭を撫でた。
「どうした、トイレ?」
「んー、ん…」
「おとが、したのらよ…」
「あぁ、起こしたかな。ごめん、さぁ寝ようか」
2人を抱き上げて部屋に向かう。
今やこの子達は私の物。叔父だろうがなんだろうが、人のモノに手を出すというのなら容赦しない。その命で償ってもらおうじゃないか。
3人が居なくなったリビングに置かれたハガキには葬儀が行われる、という事。新聞には数日前見つかった男の遺体の行方と捜査が難航しているという事が端に小さく載っていた。
カタンッ
新聞がポストに入れられた。その新聞には既にそんな記事は一切扱われていなかった。