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同じクラスだったヒヨシ君が、私のバイト先の喫茶店でテーブルに突っ伏していた。
ヒヨシ君は今は吸血鬼退治人をしている。けど、よく女の子と一緒にいるのを見かけた。
まぁ、ヒヨシ君…女の子大好きだからなぁ…。
でもその反面、凄いとも思う。ご両親は居ないけど、年の離れた弟さんと妹さんがいるらしくいつも学校は早く帰って行ってたし、たまにその年の離れた弟さんや妹さんと一緒に買い物しているのを見かけたこともある。学生の頃は勉強に、弟妹さんの世話をして、今は退治人をしながら…。
凄いと思う。
お母さんにその事を言ったら大変褒めていた。
コーヒーや軽食を他の客に運びながら、ヒヨシ君の様子を伺っていると、何だか目がヤバい。追い詰められている目だ。それにしても、コーヒー一杯で何時間も粘るねぇ、ヒヨシ君。他の喫茶店なら追い出されてるよ。
時計を見るとバイト時間終了まであと数分。今日も無事に終了したなぁ、なんて思いながらバックヤードに戻り、終了時間を確認して、マスターに一声掛けるとバイトの制服から私服に着替えた。
帰ろうかと思ってチラッとホールを見ると、ヒヨシ君は外を眺めていた。
………。
「ヒヨシ君」
「ぅオッ!!?」
「向かいの席、いい?」
「あ、あぁ…」
マスターに私でも飲めるような物を頼んで、カップを持ちながら私はヒヨシ君の向かいの席に座った。ヒヨシ君のコーヒーが入っていたカップは空っぽだ。
「何かあったの?」
カップに口を付けながら私はそう話しかけると、ヒヨシ君はあー…と言いながら困ったように笑った。正直言うと、こうやってヒヨシ君の話を聞くのは初めてじゃない。学生の頃からだ。
だから、
「実は、」
こうやって教えてくれる。
「どうやったら弟か妹を増やせるか、考えとった」
…………。
………………。
……………………。
「無理でしょ」
「だよなぁ…」
カップをソーサラーに置いて、ヒヨシ君を見るとヒヨシ君は分かっとるんじゃが…と言ってまたテーブルに突っ伏してしまった。
ってか、
「何でそんな考えになったの」
「………、俺に弟と妹がいるのは知ってるよな?」
その問いに頷くと、ヒヨシ君は顔を起こして、髪を搔き上げた。
「誕生日プレゼントに何が欲しいか聞いたら、弟か妹が欲しいって…」
あー……、幼い子が通る道だね。弟が妹が欲しいっていうのは…。で、親を悩ませるんだけど。でも、ヒヨシ君家はご両親が居ないから…。
「出来ないって言ってやりたいが、両親が居なくて肩身の狭い思いをさせていることを考えると、出来ることなら叶えてやりたいんじゃよ」
…………。
…………いやいや。
肩身の狭い思いをさせていることを考えると、叶えられることは叶えてやりたいって…。それは無理な領域だから。
「養子でも迎えるの?」
養子だって簡単に迎い入れができるわけじゃないと聞く。たくさん書類審査とか家庭調査とかあると聞く。
ヒヨシ君はうーん…と言って腕を組んで椅子にもたれた。この反応はあまり良くないということだな。
「それかこの際、赤ちゃん人形とか?」
「お前なぁ…」
やっぱりだめか。
………、というか。
「なんで弟さんや妹さんは、弟妹が欲しいなんて言ったの?」
「多分、どっかで赤ちゃん見たんじゃろ。それでじゃにゃあか」
……ってか、ヒヨシ君なら。
「女の子大好きなんだから、致して俺の子産んでくれって頼んで赤ちゃん産んでもらえば?」
冗談でそう言うと、ヒヨシ君は呆れたような顔をした。
「お前の中で俺はど…」
ヒヨシ君が止まった。
私はカップにまた口をつける。
少し冷めちゃったなぁ…。なんて思っていると視線。向かいを見ると、ヒヨシ君が目を見開いていた。かと思ったら、ジロジロ私を見てくる。
何なんだ?
カップを置いて、どうしたの?と声をかけようとしたら手を重ねられた。渾身のイケメン顔をしているヒヨシ君。
「俺の子を産んでくれ」
私はヒヨシ君の頭に手刀を振り下ろしていた。ゴスッと良い音がした。ヒヨシ君は痛みのあまり頭を抱えている。
「なんでじゃ!?」
なるほど、ヒヨシ君には私が簡単に堕ちるような女に見えたのか。そのことに対して頭にきて私は一気にカップの中身を飲み干すと、ガタンッと音を立てて立ち上がった。
「簡単に脚を開くような女の子に見えた?お生憎様、ヒヨシ君が好きな簡単に脚を開くような女じゃないの。他の人をあたって」
「お、おい……!」
カップを持ってバックヤードに戻った。
結局、それからヒヨシ君に会うことは無かった。
風の噂で、ヒヨシ君は吸血鬼退治人を引退したと聞いた。
それから更に何年か経って。
久しぶりにバイト先だった喫茶店に客として来た。
マスターは老けていたけど、コーヒーの味には磨きがかかっていた。
あの時、ヒヨシ君と言い合った席に座りながら私は外を眺める。ここは好きだ。時間の流れがゆっくり感じる。仕事をしていると、物凄い勢いで時間が流れていくのを感じるから。
カランカランッと入り口のベルが乾いた音を立てた。
扉が閉まる。そして、足音がゆっくりと近付いてきた。
「変わらんなぁ、俺もおみゃーも」
ゆっくりと外を眺めていた目を、声がした方に向けるとそこにはヒヨシ君がいた。
「変わらないのはヒヨシ君だけだと思うよ」
そう言うとヒヨシ君はそうか?と顎に手を当てながら、私の向かいの席に座った。
「そうじゃな、俺は変わらん」
「そうだね」
だからオールバックにしても付け髭してもあんまり似合ってないよ、と言おうとしたら手を重ねられた。
突然のことに驚いて、重ねられた手を見る。
「だから俺は、好きな奴に対して何年経とうが一途じゃし、諦めるつもりもない」
「…………は」
「まぁ、あの時は確かにあいつらから弟妹をせがまれていたのはホントじゃが、きっかけが欲しかったのも事実じゃ」
「ちょっ待」
「もう待たん。待ちくたびれたわ」
真っ赤になる私を見て、ヒヨシ君はイタズラが成功した子供のように笑っていた。
