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仕事が終わり、月に一度だけと決めていた今日。
いつものバーで静かに過ごしたいなぁと思う反面、また彼もいるんじゃないかと思いながら足早に仕事場を後にした。
日も落ちてから大分経った。夜も少しずつ深くなりつつある時分。
少し見つけにくい場所にあるそのバーの扉を開けると店主とボーイ君がいるのが見えた。ボーイ君は落ち着いた声で「いらっしゃいませ」と出迎えてくれた。マスターは私を確認するとニコリと笑ってくれた。
そして、カウンターの奥の席に見えた、彼の姿。
向こうも少しお酒を飲んでいた。
「ヒヨシ君」
声が弾んだ。
私の足は自然とヒヨシ君に向かって行く。当のヒヨシ君も私を見て確認すると優しく笑って手を振った。
ヒヨシ君とは子供の頃からの付き合いだ。
彼が女の子目当てで吸血鬼退治人になったのも知ってるし、吸血鬼退治人になってから女の子口説きまくってたのも知ってる。
勿論、吸血鬼美人局に噛まれたことも知ってる。
更に言えば彼の好みが巨乳とか、実はお尻派だとかそういうのも知ってる。
「また会ったねぇ」
「そうじゃな」
マスターにお酒を注文して、ヒヨシ君の許可を貰って隣に座る。また、ということはご想像通りだがこうやって会うのは初めてじゃない。毎月この店に飲みに来るからだ。だが、約束をしたわけでもないし毎月同じ日に来てるわけでもない。なんだかちょっと運命みたいなものを感じてしまいそうになる。
「そういえば弟君、ロナルド君!この間喫茶店で会ったよ」
大きくなったねぇ、と言葉を続けるとヒヨシ君はちょっと驚いたような顔をした。
「アイツとは、よく会うのか…?」
「うーん、よく会う…、かな…?お茶もよくするし」
ふふっ、あんな小さかった子がねぇ。姉ちゃん、姉ちゃんと追いかけてくれていたあの頃が少し懐かしい。その話をするとロナルド君は恥ずかしそうな顔をして昔の話は止めてくださいと言ってたなぁ。
妹ちゃんーヒマリちゃんも私の職場で出待ちしてくれてることあるし。
「おみゃーは俺の親族に好かれとるな」
「そうかなぁ」
そんな話をしてると、マスターが頼んでいたお酒とツマミになりそうなものを出してくれた。
お礼を言って、舐めるようにしながら少しお酒を飲む。そんな私の様子をヒヨシ君は眺めていた。
「なぁ」
「ん?」
ヒヨシ君の纏う雰囲気が変わった気がした。
その感じは初めてではないからあまり驚きはしなかった。
でも、この雰囲気を纏うときの話は決まってあの話だから正直嫌というか…苦手だ。
「おみゃー、付き合ってるやつでもおるのか?」
今日はそういう方向から攻めてくるか…と思う反面、あぁ、やっぱりと思った。
「今は、居ないよ」
そりゃあ、誰とも付き合ったことないかと言われれば嘘になるけど。今は居ない。いや、この間まで居たんだけどなんか、急に別れを切り出されて別れさせられた。あまりに必死に別れようとするから、つい頷いちゃったけど。
そんな私の答えを聞いて、ヒヨシ君はそうか、と言う。
「なら」
「ヒヨシ君とは、付き合えないよ」
先手を打った。
その言葉にヒヨシ君は眉をピクッとさせる。
「何でじゃ」
「だって、私ってヒヨシ君のタイプじゃないでしょ?巨乳でもないし。それに、ヒヨシ君に私は不釣り合いだよ」
ヘラリと笑ってそう言ったけど、ヒヨシ君は何だか難しい顔をしていて納得していない様子だった。
空になったグラスの縁を指でなぞりながら、マスターにおかわりをお願いする。
「不釣り合いってなんだ」
「ヒヨシ君…?」
「俺は周りにお前と付き合っているのを認められたいわけじゃない」
「もしかして酔ってる…?」
マスターにお冷をお願いしようと顔を向けると、手に何か暖かいものが被さった。
見てみると、ヒヨシ君の手だった。
「大体、俺とは付き合えないとはどういうことだ」
キュッと、手を握られた。
そして、ゆっくりと指を絡めてくる。
口調こそ荒いのに、触れてくる手はとても優しい。
マスターがおかわりのお酒を出してくれた。(流石マスター、男女のもつれの最中でも普通にお酒提供してくれた)
「だって、ヒヨシ君のその感情は多分、恋愛じゃないよ」
昔からそうだった。
ヒヨシ君は私が他の男性と付き合っていると、割り込んでこようとする。最初は恋愛なのかな、とときめいたこともあったけど、違った。
「ヒヨシ君は私を独占できなくなるから、それが嫌なだけなんだよ」
ヒヨシ君は何も言わなかった。
そして、手が離れる。その隙に私はお酒を一気に流し込んで立ち上がった。
「マスター、お会計お願いします」
「もう、逃さんよ」
その声色は今まで聞いたことがなかった。
恐怖に、ゾッとした。
恐る恐るそちらを見ると、カウンターに片肘をついたヒヨシ君が不気味な笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「独占欲だろうが、恋愛だろうが知るか。俺はお前をもう逃さん」
「ヒ、ヨシくん…」
「ロナルドもヒマリもお前を好いてる。勿論、俺もな」
ヒヨシ君の顔に陰がかかった。
綺麗な蒼い目が、濁って見えた。
ゾワリと寒気がした。
「どんな手を使ってでも、お前を手元に置く」
さぁ、鬼ごっこをしようじゃないか。
この俺から逃げ切れるものならな。
ヒヨシ君はそう言って私を恐怖のどん底に落とした。
