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「別れよう、ロナルド君」
口から出た言葉は、私の意思を全く無視したものだった。
私の恋人は格好良くて、紳士的で…。良いところを口に出し始めたら際限なく挙げられるほど、とにかく良い人な吸血鬼退治人で昔からの知り合いでヒヨシ君の弟さんであるロナルド君。
久しぶりに会ったロナルド君は私のことなんて忘れてるかと思ったら意外にも覚えててくれて、嬉しかったのを覚えている。それでたまたま会えたんだろうと思っていたら、偶然にも何度か会うことがあって、お茶をしたりしているうちに好きになっていたけど…。
でも、私は知ってる。
ロナルド君、甘やかしてくれる巨乳のお姉さんが本当はタイプなんだって。
仕事がようやく終わり、スマホに来ていたロナルド君からのデートのお誘いの連絡を見て嬉しい反面、少し心は沈んでいた。
別に胸がないわけじゃないけど、でも巨乳と言われる部類がどれぐらいの大きさなのかは分からないが、巨乳ではないと思う。それに、私も大人で仕事をしている身であるからロナルド君を甘やかしてあげられるほど精神的余裕はあまりない。
ロナルド君、どうして私の告白を受けてくれたんだろう。タイプではないだろうし。仕事も全く違うから、話は聞いてあげられるけど、相談には乗ってあげられないし。美味しい料理を作ってあげれるわけでもない。
もしかして、無理してるのかな…。
本当は別れたいって思ってるのかな…。
優しいから、自分から別れを言えないとか…。
嫌な考えがぐるぐると頭の中を駆け巡る。
返信して、鞄の中にスマホを入れてロナルド君の事務所に向けて歩き出した。
罰ゲームとか?年上のおばさんを騙し抜けたら勝ちみたいな?いや、ロナルド君はそんなことをする子じゃない。でもじゃあ本当にどうして私と付き合ってくれたの?
色んな女の子にモテてるロナルド君がタイプじゃない私なんかを。
「あー…、ダメダメ…!せっかくロナルド君と会えるのに、良くない」
そう自分に言い聞かせる。
そうだ、せっかくだからロナルド君やドラルクさん、ジョン君がこの間美味しいと喜んでくれたお店のお菓子を持っていってあげよう。あの店はここから近いし。
そう思って、曲がり角を曲がる。あの店は人通りから外れたところにあるから、ちょっと怖いけど。
薄暗い道を私は気を持ち直すように歩く。
後ろから誰かが迫っていたなんて、気付かずに。
*******
頭がぼんやりする。
お店のお菓子を私は買えたんだろうか?手に持ってない?あれ、私、お菓子買ってなかった?
お菓子を買い忘れたみたいで買いに戻ろうとしても、身体が言うことを聞かない。まるで私の意思を完全に無視しているようだ。私はふらふらしながらロナルド君の事務所に到着する。
「おや、メイデン君。いらっしゃい」
扉を開くとちょうどドラルクさんがいた。ドラルクさんは私に挨拶してくれる。
こんばんは、ドラルクさん。
そう話したはずなのに口は開かない。あれ、私なんで挨拶してないんだろう。おかしい…。あれ、なんで…?心は混乱しているのに身体は迷いはない様子だ。視界の端でドラルクさんやジョン君が首を傾げてるのが見えた
「メイデンさん!今、ちょうど迎えに行こうと思ってたんすよ!」
吸血鬼警報も出てるんで心配で…。
ロナルド君は優しく笑いながらそう言った。あぁ、優しいなぁ。こんな優しい男性、世の中の女性方々が放って置く筈がないよね…。。
次の瞬間、嫌な思考が溢れた。
全くタイプじゃないのにどうして?
私はロナルド君に相応しくないのに。
実は無理してる?
本当は別れたいと思ってる?
優しいから私を傷つけないように言わないだけ?
色んな女の子からモテるロナルド君が。
私を好きになるわけない。
きっと遊んでるんだ(違う、そんなわけない…)。
私を嘲笑ってるのかもしれない(違う…)。
「メイデンさん…?どうしたんだ…?」
心配そうにロナルド君は近づいてきた。
ごめんね、心配かけて…。
そう言おうとした筈なのに、私は冒頭の言葉をロナルド君に言っていた。
「別れよう、ロナルド君」
違う。ロナルド君は目を見開いて私を見ていた。私はロナルド君の顔を見れなくて、何とか俯いた。
「ごめんね、ロナルド君のタイプじゃないのに、無理に付き合わせたみたいで」
やめて。
別れたくない。
「ロナルド君色んな女の子にモテモテなのに、ほんとにごめんね」
そりゃあ、不安に思ったよ。
でも、こんなの望んでない。
「ロナルド君が私なんかを好きになってくれるわけ、ないのに。舞い上がってたみたい」
嫌だ。
やだ。
視界が歪む。
瞬きをすると、涙が溢れた。
終わりだ。
きっと、ロナルド君は優しいから私の意見を聞き入れて、この関係も終わりだ。
何でこんなことになったの?
私があんなことで悩んだから?
少しでもロナルド君を疑ったから?
私が、悪いんだ…。
「今日はそれだけ。帰るね」
意思を全く無視する身体はそう言って、踵を返そうとした。
ら、腕を掴まれた。
振り返るとロナルド君が私の腕を掴んでいた。
「ひっ」
ロナルド君の蒼い目が好きだ。
青空みたいで、好きだ。
でも、そこにあったのは顔に影を落として、その影に浮かぶ濁った蒼。
いつの間にか喉が引きつった音を出した。
怖い、と思った。
「帰すわけねぇだろ」
「ロナルド君」
「分かってるくそ砂」
ドンッと首に強い衝撃を感じて私は意識が飛んだ。最後に見たのは少し寂しそうなロナルド君の顔だった。
ごめん、ごめんね…。
そんな顔、させたくないのに…。
******
「吸血鬼の催眠術だな」
「そのようだね、可哀想に…」
気を失ってロナルド君に抱き留められた彼女の頬には涙。
あぁ、本当に可哀想に。
「ロナルド君と、別れられるわけないのにねぇ」
彼女をソファに丁寧に横にして、ブランケットをかけているロナルド君に聞こえるようにそう言う。そう、彼女はロナルド君という男の危険性を理解していない。今回はこの催眠をかけた吸血鬼を退治だけで終わるかもしれないが、これがもし彼女の本心だったら…。
彼はあらゆる手を使って彼女を手元に置こうとするだろう。
下手したら監禁とか?
それはそれで楽しそうだけどね。
可哀相な彼女を、ロナルド君は愛おしそうに見ていた。
勿論この催眠をかけた吸血鬼はロナルド君の手によって丁重に。あぁ、丁重に退治されたとも。
生きているのが苦痛になるほど丁重に、ね。
