ツルネ
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夜多神社の石階段に座っていると、隣に座っていた湊くんが口を開いた。滝川先輩は弓道場の鍵を閉めに行っていて2人で階段で待っていたのだ。
「マサさんって、どんな感じだったんですか?」
滝川先輩の学生時代ってことかな…?
「そうだねぇ…」
一言で表現するのは難しい。なにせ高校生で多感な年頃だったし。
でもおしゃべりか、寡黙かと聞かれれば、弓道以外のことになると比較的寡黙。人を寄せ付け難い雰囲気を出していることもあれば、小さく笑みを浮かべて人懐っこく手招きなんてしてくれたこともあった。
滝川先輩と付き合いたいという人も結構いたなぁ…。
「中身、エロオヤジだよ…?」
「ふふっ、湊くんも面白いことを言うねぇ」
あの頃の滝川先輩は、恋より弓道だった。だから学校で1、2を争う程のマドンナ的女子生徒に告白されても見向きもしなかった。それに対してホッとしたのはあの頃からの秘密だ。
私には彼女達のように誇れる美貌も万人に好かれるような性格でもなかった。
凡庸。
平凡。
それが、私。
でも、凡庸でも、平凡でも恋をした。
的をまっすぐ見据え、矢を射る、その横顔に。
でも、もう。
「潮時かな…」
「え、」
滝川先輩は変わっていなかった。
あの頃と同じ。
弓道が好きで、弓を射るのが好きで…。
弓と真摯に向き合っている。
そんな人。
ふと視線を感じると、破顔した顔で、少し潤んだ緑色の瞳が私を見つめていた。
「ごめんね、今日はもう帰るね」
滝川先輩に帰ったと伝えて欲しい、そう伝えて私は立ち上がる。
「あのッ、」
そんな私の手は俯いている湊くんに掴まれた。年下と分かっていたけど、その手は私よりも大きかった。
湊くんはゆっくり顔を上げる。少し頬を赤らめていた。
その顔は、まるで、
いや、そんな筈はない。だいたい彼と私は10歳近く歳が離れているのだから。こんなおばさんに、
「ま、また会えますか…?!」
「…………?」
質問の意図が分からない。
また会えるか…?
そりゃあ私も風舞高校の女子弓道部コーチを任された人間だし、仕事の都合もあるからたまには会えるかもしれないけど…。でも、きっと湊くんはそんな事を聞いているんじゃないと、なんとなく分かった。
「俺、まだ未成年だし、マサさんよりもずっと年下だけど…!でも、俺は、」
頭の片隅であり得ないだろうと予想していた言葉を紡がれてしまうのかと思ったが、その後ろに見えた人影に目を見開いてしまった。
湊くんの言葉は、最後まで続かなかった。
滝川先輩が、湊くんの背後から湊くんの口を手で塞いだからだ。
「たきがわ、先輩…」
「マサさん…」
湊くんも少し驚いたように振り返って滝川先輩を見上げる。滝川先輩はなんだなんだ?とおちゃらけたように言った。
「二人ともお化けでも見たような、…ではないな。湊、顔赤いぞ」
「ッ…!!!」
ドクッドクッと心臓が強く鐘を鳴らす。
それは湊くんから紡がれそうになった言葉が私の予想と同じかもしれないと思ったからか、はたまたそんなところを滝川先輩に見られてしまったからか。どちらかは分からない。
自分を落ち着けるために二人に気づかれないように、そっと深呼吸をした。
「マサさん!俺は、」
「まぁ、待て湊」
滝川先輩の手を振り払い、湊くんはキッと滝川先輩を力強く睨んだ。それを滝川先輩は制すると、フッと笑みを浮かべて私を見た。学生の頃、時々向けられた優しい笑み。それはきっと年下に向ける庇護欲的な意味合いのものだろう。
「え、」
そう、思っていた。
滝川先輩は手を伸ばして湊くんに掴まれている反対の手を優しく慈しむようにすくい上げた。
「察しのいい君なら、もう気づいているだろう?」
湊の気持ち。
その言葉に湊くんは更に顔を赤らめると、バッと私を見た。私はその顔に確信をしてしまい申し訳ない気持ちでいっぱいになりながら小さく頷いた。
「じゃあ、俺の気持ちは?」
「え、」
「滝川先輩…?」
滝川先輩の気持ちはずっと分からない。
のらりくらりと、まるで霧でも掴んでいるような気分になる。私の表情で伝わってしまったのか滝川先輩はフッと笑った。
「俺は、師弟で争うつもりはないよ」
滝川先輩は私に向けて笑みを浮かべながらも、その言葉は私に向けられていなかった。
「どういう…?」
湊くんは訝しげに眉を顰めた。
私は滝川先輩が確信を得るような答えを与えてくれなくて、混乱していた。なのに二人の間ではどんどん会話が展開されていく。
「俺も湊も引く気はない。なら、引かなければいい」
「言ってる意味が分からないよマサさん…!」
「俺と湊、二人で彼女を愛そう、って事だ」
「滝川先輩…!?」
最後の滝川先輩の言葉だけは耳に入って、疑った。
「良いだろう?」
滝川先輩はニッコリと笑って私にそう言った。
湊くんからは熱のこもった視線を、滝川先輩からは欲のこもった視線を受けながら私はキュッと強く二人の手を握るしか出来なかった。
