短編
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数週間前から、私は剣を持つようになった。主人が成長し、評議会も本格的に動き出したからだ。主人をいつでも守れるよう、私も帝国からの剣では無く、私の荷であった我ら一族の剣を持つようになった。帝国の剣とは違いこれは少々細い。どこかの国で譲り受けた"刀"なるものだ。…まぁ、刀を抜く事はあまりないが。
それにしても、アレクセイの奴、変わったな。
主人が本を読んでいる時はあまり邪魔をしたくないから、少しの間私は散歩に出ていた。散歩と言っても主人がいる部屋の近くを行ったり来たり…。もしくは、近くに庭があればゆっくりしたりと。相変わらず騎士団の内情は汚い。自分達に不利益な事を揉み消している。例えば下町の願書などだな。
そういえば私は前々から下町に行きたいと思っていた。1度だけ通り掛かった時に、子供達が遊んでいた事を覚えている。貴族なんかよりも、あぁやって遊ぶ子供達の方が私は好きだな。
「―――!」
「―――」
声が聞こえた。何だろうか、怒鳴るような声に聞こえたが。チラッと主人がいる部屋を見る。少しぐらいなら、大丈夫だな。そう思って足早に声がした方に向かう。そこには黒の長髪の青年と騎士達。
私の目には黒の長髪の青年を騎士達がよってたかって…というところか?全くほとほと呆れてしまう。すると黒の長髪の青年はやる気なさそうに何か言うと、騎士の1人が彼の胸倉を掴んだ。
本当は当人らでどうにかさせてやりたいが、今は役務時間だ。
「そこまでにしろ」
パンッと手を一つ叩くと驚いたように私を見て来た。みな驚いたような顔をしているな。近くまで歩み寄り顔を見る。
「役務時間に何をしている?それに、君らは新人じゃないのか?」
胸倉を掴んでいる手を優しく掴んで胸倉を放させる。騎士達は苦虫を噛んだような顔をしている。見られたくなければきちんと役務時間を果たし、自由時間になってからこういう事をしたら良いモノを。呆れたように見ていたらハッと鼻で笑われた。なんで笑うのか分からなくて首を傾げた。
「なんで笑う?」
「こいつが俺たちに剣を稽古して欲しいって言ったし、俺たちも稽古しようと思って今やってただけだ。アンタには関係ない」
そう言って来た。そうなのか、だが今やるべきではないというのは分かる筈だ。そう言ったらムッとした顔をして剣を抜かれた。何で抜くのか分からないが放っておこう。………いや。
放っておかない方がいいかもな。それにしても監督してる者は居ないのか…。主人の元に早く帰らねばいけないんだが、まぁ…早く終わらせよう。すみません主人。
「それでは私が稽古の相手になろう」
「はぁッ!?」
そうすっ頓狂な声を上げたのは他でもない黒い長髪の青年だった。何をそんなに驚く必要がある?私も稽古をして居たいと思って居たところだ。それに責任は私が持とう。いくら鈍らないように訓練していると言っても、やはり相手が居なければな。騎士達は顔を合わせてにんまり笑った。どうやら肯定してもらえたらしい。良かった良かった。そして、鞘から刀を抜き黒い長髪に刀を持たせ私は鞘を持った。
「それでは行くぞ」
そう言って地面を強く蹴った。
******
それから数ヶ月してから。黒い長髪の青年―ユーリ・ローウェルが騎士を辞めたと耳に入った。フレン・シーフォに聞いても、困ったように笑ってそうですよと返された。…もしかしたらユーリ・ローウェルが騎士を辞めたのは私のせいかもしれない。あの時、私が助けた事で、彼のプライドを傷つけてしまったのかもしれない。そのせいで騎士を辞めたかもしれない。
そう思ったら居ても立っても居られなくなった。謝りに行こう。フレン・シーフォに聞いたところ、ユーリ・ローウェルは甘い物が好きと聞いた。主人に許可をもらい(かなり嫌そうだったが…)、ワッフル生地に生クリームとイチゴを挟んだサンドウィッチと、結構良い具合に焼けたクッキーを持って、フレン・シーフォに教えてもらった下町に来た。
あの時、全員を伸してしまって彼の分を残すのを忘れてしまったからな。きっと傷ついてしまったに違いない。結構急な坂をゆっくりと降りて行く。途中に洗濯物を干して居る家や、花を置いて居る家などがあった。何だか心地の良い場所だな。ゆっくりと歩いて居たつもりだが、無意識の内に足早になって居たようだ。広場に着くと、子供達が走り回ったりしていた。中央にはなかなか趣があり、その場所にあってる噴水があった。私は足を止めて広場全体を見回した。美しいな、この帝都へ来てそう思ったのは一体何度目だろう。
片手で足りてしまう量だが、あまりに前すぎて思い出せない。
「すいませんねぇ、騎士様」
そうしたら裾をクイクイッと引っ張られて振り返った。そこには年老いた女性が居た。
「どうしました?」
「あの木箱を、運んではくださらんかねぇ…?」
そう言って指さしたのは果実が沢山入った木箱。確かにこの女性が持つにしては辛いだろう。オマケに一つでは無く数も多い。
「構いませんよ。どこまで運べばよろしいですか?」
「あの家の中にお願いしますわ」
そう言って指さしたのは、木箱から100mほど離れた家。しかも坂道。なかなか大変そうだな。「分かりました」と返事をして手に持っていたユーリ・ローウェルへの贈り物を日の当たらない場所へ置いた。さて、一仕事頑張りますか。
「よっ…」
私にも与えられた時間はあまり無い。木箱はズッシリと重たかったが、早足で運んだ。おかげで棘が刺さったが、敢えて無視。運び終える頃には指がズキズキと痛んだ。結構大きい棘が刺さったようだ。早足で先程の場所に戻る。すると何人かの少年達が私の荷物を持って居るではないか!
「、それは…!」
「げっ!騎士だ!」
「早く!」
「返してくれ!それは…」
届け物なんだ、その言葉は声にならなかった。理由は前に立ちはだかった先程の年老いた女性のせいだ。走り抜けようとしたが、退く方退く方へと動かれ邪魔をされる。力を振るう訳にはいかない。相手は守るべき市民だ。
「ありがとうございますぅ、騎士様」
「あっ、いや…。役に立てたのなら良かった…」
そう言って少年達が走りさって行った方を見たが、随分と小さくなって見える。追い付くのは、無理そうだな。そう思うと私の中で何かが勢い良く萎んでしまった。災難だ…、災難続きだ。棘は刺さる上に贈り物は盗まれる。今日はなんてツイてない日なんだ。傍から見たら私はよほど暗く落ち込んで居るように見えただろう。
トボトボと歩いてフレン・シーフォに教えられた宿屋兼酒屋の【箒星】に着いた。ズキズキと痛む指をチラッと見たら、腫れている。あぁ、城に帰ったら手当てしなくては。人間災難に遭うと、随分警戒してしまう癖があるようだ。木で出来た階段が腐って落ちないか、警戒しながら上がる。そして二つある扉の内手前の扉をノックしてみた。……返事が無い。もう一度ノックしてみた。
「……留守…」
その声ほど今まで落ち込んだ声色は無かっただろう。あぁ、くそ。災難だ…、災難が続きすぎる。私が一体何をしたと言うんだ。……仕方ない、彼のプライドを傷つけたかも知れないのだから。そう思いまた出直そうとしたら、いきなり開いた扉の襲撃にあった。
「ぅ、ぎゃっ」
額と鼻が直撃した。ついしゃがみ込んだ。痛い、今のは本気で痛い。涙が少し滲んだ。痛いだけじゃなくて、空しさも混ざっているが。
「ッ、夢主!」
私の名を呼ぶ声が聞こえて、顔を上げたら驚いたように私を見るユーリ・ローウェルがいた。なんだ居たのかと思いながら痛む鼻と額を撫でていた。それにしてもなんでユーリ・ローウェルは私の名を知っているんだ?
「何、扉と"こんにちは"してんだアンタ」
「いや…、色々と…」
入るか?と言われ、部屋の中に入れてもらった。もっと散らかって居る想像をして居たが、物は少なくあまり散らかっていない。男の部屋にしては随分綺麗な印象を受けた。
「で、帝国の隊長クラスの奴が、こんな下町に、しかも騎士から落ちぶれた俺に何の用だよ」
キョロキョロ見て居たらそう言われた。
そして当初の目的を思い出した。ユーリ・ローウェルは窓に腰掛けながら私を薄ら笑みを浮かべながら見ている。何だか騎士で居る時のユーリ・ローウェルという人間より、生き生きして居るように見えた。
「……騎士を辞めた理由、私のせいじゃないかと思って、謝りに来たんだ」
災難が沢山続いた。しかしそれでも当初の目的はきちんと果たされた。それだけは救いだと感じた。
「なんでアンタのせいなんだよ」
「…初めて会った時に、ユーリ・ローウェルのプライドを傷つけてしまったかもしれないと思ってな」
「それで謝りに来ってわけか?」
「あぁ、すまない…」
そう言って頭を下げようとしたらいつの間にか近寄って居たユーリ・ローウェルに顔を掴まれた。
「なんで俺がアンタの名前知ってるか教えてやろうか」
あの後アンタの名前を必死に調べたんだ。で、絶対にアンタを超えてやろうって思った。だけど騎士のままじゃ勝てる自信無かったし、あそこには失望したから騎士を辞めた。
ユーリ・ローウェルは早口に言った。私のせいでは無かったのか。そう理解すると、何だか気が抜けてしまった。それにしても、絶対私を超えてやろうって思ったとは…、何故…?
しかし、結局私もユーリ・ローウェルが騎士を辞めてしまう理由の一角をどんな形であれ持って居たのは事実だ。
「……すまない…」
もう一度謝る。さすがに怒ったのかユーリ・ローウェルは私の鼻を摘んで謝るなと言った。謝って欲しくないなら、謝らないが…。
「ユーリ!ユーリ見て見て!!」
そんな声が聞こえて扉に目を向ける。何だかユーリ・ローウェルが舌打ちした気がしたが、気のせいか…?バンッと扉を開けて飛び込んで来たのは、私の荷物を盗んだ子供達。
「さっき騎士から盗ったんだ!」
「テッド、盗みはすんなって言われてんだろ。それにそれは俺のだ」
そう言ってユーリ・ローウェルは少年達を1発ずつ殴った。そして少年達は私の存在に気付いてその小さな身体をまるで彫刻のように固まらせてしまった。
「おい夢主、これか?」
荷物を見てあぁ、それだと返事をした。
返せよユーリ俺たちが盗ったんだ、残念これは俺のだ大体盗みをするなって言ってんだろ、いいじゃんか相手は騎士なんだし、じゃあテッドは騎士だけど女から物を盗むのか初めて知ったわ、え。あの人女の人なの、良い女だろ、
なんでユーリが自慢そうに言うんだよ。
そんなやり取りが聞こえて来る。あぁ、心地良いな。そんな事を思いながら窓の外を眺めた。
…何となく分かるかもユーリの言葉、だろ?おっ俺の好きなサンドウィッチじゃん、あクッキーもあるユーリ頂戴、やらねぇよ。
「ん…、夢主。このサンドウィッチ、マジ美味いわ」
呼ばれて振り返ったらユーリ・ローウェルはモグモグとサンドウィッチを食べていた。さっきは大人びて見えたというのに今では年相当に見える。何だか可愛らしくて笑った。
「それは良かった」
そう言ったらユーリ・ローウェルも少年達も何だか固まっていた。一体何に驚いていたのか、私が24歳になっても全く分からないし、ユーリ・ローウェルは教えてもくれないが。
ユーリは夢主さんを守れるぐらい強くなりたいから超えたいと思っています。ユーリは夢主さんに一目惚れしてます