長編
女騎士の名前
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#dn=1#が意識を取り戻したのは、嫌な予感がビリリと皮膚を刺激したからだった。人間の本能としての勘なのか、はたまた民としての培ってきた勘なのかそれは知る由も無い。だが霞む視界の中で、誰かが駆けて来ようとしているのが見えた。よくよく見れば何だか景色が変わっている。目だけを動かしてキョロと見回すと、巨大な魔核が見えた。そして何とか立ち上がると、状況を確認した。
ユーリが、アレクセイを斬った。
そして血が舞いアレクセイが呻く。だがアレクセイは上の巨大魔核を見て、何かを呟いたが#dn=1#には聞こえない。貧血なのだろう、頭がフワフワとしている。クラクラと歪む意識を保っていると、アレクセイが涙を流すのが見えた。そして#dn=1#に小さく言った。
すまない、と。
#dn=1#は駆け出した。何故仲間を殺したのか聞いていない。それに、アレクセイはただこの世界を正したかった筈だ。そう思うと駆け出さずにはいられなかった。しかし、ユーリはギョッとして#dn=1#の手を掴んで逃げる。今は巨大魔核が落ちて来ている。
いくら絶対防御があっても、無謀すぎる。#dn=1#は引っ張られながらも振り返りながら、巨大魔核の下敷きになり消えていったアレクセイを見届けていた。
また、自分は見殺しにした…。
ユーリが足を止めて#dn=1#の手を放す。#dn=1#はその場に崩れると放心状態でアレクセイがいた場所を見ていた。だがユーリはアレクセイが呼び出してしまった世界の災厄を見上げて、#dn=1#をチラッと見た。出血がひどい。医学の知識が無いユーリでも、これはヤバいんじゃないかと思うほど血が流血している。
するとその時、甲冑の音が聞こえた。#dn=1#はその音を聞いて頭から何かを振り払うように頭を振る。
しっかりしろ。これが世界の流れなら、仕方が無い事なのだろう。あの時私がユーリ・ローウェルに手を引かれて、アレクセイを助けられなかったのも世界の流れ。ならば従うしか、ない…。
そして近付いて来る甲冑の音。
ズズッと、肉に何かが刺さるような音。
#dn=1#はハッとして振り返るとそこにはユーリと、フレンの部下であるソディアが居た。
一見抱き合おうとしているようにも見えたが、ユーリの様子を見て#dn=1#は今まで痛みで自分の身体がいう事を聞かなかった事が嘘のように動いた。カランッと乾いた音を立ててナイフが転がり、ユーリの身体がユラリと傾いてザウデから足が離れた。そして下の海へ落ちて行く。
「ユーリッ!!」
#dn=1#も飛び降りてユーリを抱き抱えた。ユーリは既に気を失い、目を閉じている。
もう絶対に、見殺しになんてしない。私は、差別されても迫害されても、この者達が大切だ。
2人分の重さになり落下速度は増している。#dn=1#はクッと苦虫を噛みつぶしたような顔をして、鞘を掴んだ。
そして高く聳(そび)え立つ壁に鞘を突き立てた。ガガガガガッと壁が削れて落下速度を落として行く。だがズンッと#dn=1#の腕に2人分の体重が重なり、軋んだ。その腕は先程血が噴き出した方の腕だからだ。
「ぁ、ぅぐ…ッ!」
痛い痛い痛い痛い痛い!
腕が、肩が。片腕でユーリを抱き抱えながら、#dn=1#は痛みを殺すように唇を噛み締めた。刺さりが甘かったようでグラグラとしている。だがその前に#dn=1#の力の方が問題だった。落下は完全に止まった。
しかし、足が届くところまでまだ距離がある。飛び下りようにも下手をしたら岩に直撃という考えもある。#dn=1#が必死に頭を悩ませていると気を失ったと思っていたユーリがピクリと動いて#dn=1#を見た。
「#dn=1#…」
「ユーリ・ローウェル…。ッ……大丈夫だ、今は寝ていろ。絶対に私が死ぬことになっても助けるから、」
だから生きろ、と言う前にユーリは#dn=1#に抱き付いた。#dn=1#は驚いて目を見開いたがすぐにハッとしてユーリを抱える手に力を込めた。脇腹や腕から血が伝って落ちていく。初めて会った時、どこか惹かれるようなところがあったのだろう。教え子と呼ぶには少し親密すぎて、友人と呼ぶには遠すぎて。それはまるでシュヴァーンの時のようなモノだ。知り合いというには近すぎて、仲間と呼ぶには遠すぎる。大切な教え子、そして自分を受け入れてくれた"人間の"仲間。分かっていた、これがいつまでも続く筈がないと。だから、アレクセイを倒したら、死のうと思っていたのに…。生きている意味が、分からなくなってしまった。
「アンタが、何者でも…、どんな奴でも、」
俺たちの仲間だ。
その言葉を聞いて#dn=1#はヒュッと息が止まった。
仲間?
「悪い…、あの時…。アンタは、助けて欲しかった筈なのに…、ちゃんと助けてなかった……」
孤独が怖くて。
仲間を失うのが恐ろしくて。
やっと手を伸ばして、届いて、また突き落とされて。
「もう、絶対…」
「喋るな、傷に響くぞ」
「アンタを、」
1人にしないから、その言葉は小波の音で掻き消されたが#dn=1#にはハッキリと聞こえた。そしてユーリはまた意識を飛ばした。そんなユーリを見て、#dn=1#は一筋だけ、涙を流した。
ありがとう。
それを言った途端血で滑り、#dn=1#とユーリは海へと落ちて行った。
******
息が苦しい。半身が全く言う事を聞かない。#dn=1#はユーリを抱えながら何とか近くの海岸まで泳ごうと頑張っていたが、体力は既に限界を越えていた。溺れていないのが何とも不思議でならなかった。だがここで魔物が襲いかかって来たら一貫の終わりだ。刀はあの壁に刺さったまま。ユーリは刀を持っているが、気絶している。
「無茶をするな」
そんな声が聞こえて、重さが無くなった。
ユーリが居なくなっていた。声がした方を見るとそこにはシルバーホワイト。それを見て#dn=1#は名前を呼ぼうとしたが、急速に意識が引っ張られて行き、そこでブラックアウトしてしまった。
*******
真っ暗な空間。皆、#dn=1#に背を向けて暗闇に溶けて行く。必死に手を伸ばしてもその手は届かない。声を出したくても、声は空気を震わす事無く終わる。涙が溢れそうになった。一族達、友達と呼べる者達、フェローやベリウスなどの始祖の隷長達、アレクセイ。唇を噛み締めて涙を堪えたが、血が滲んだ。胸が張り裂けてしまいそうだった。このまま命を絶つ事が出来れば良いのにと。だが身体が動かない。絶望を見続けろと言うかのように。
そして次には石や矢が飛来する。いきなり身体が動き慌ててそれを避けるが、次々と飛来して来て身体中に当たり、ズキズキと痛み出す。人間が、#dn=1#を指さして罵っている。動けなくなった#dn=1#はその場に膝をついて、倒れてしまった。倒れてしまったら、殺されてしまう。慌てて立ち上がろうとした時、スッと誰かに手を差し伸ばされた。#dn=1#は何とか顔を上げてその手を視界に映すと、その手は暗闇から伸びていた。その手だけは色を帯びて、体温を持っていた。その手を、取って本当に良いのだろうか?迷いが不思議と心に生まれた。疑っているのではなく、純粋な不安だ。
ためらって手を引いた瞬間その手はパッと#dn=1#の手を掴んだ。見えないが、その手の主はまるで笑って、何か心温まるような事を言ってくれているかのようだ。その手の強引なところや体温、それに安心して#dn=1#はまるで迷子の子供が嬉しそうに親を見つけたような顔をした。
あぁ、この手はまるで…。
*****
意識が起き上がると、まずは痛覚が走った。ゆっくりと目を開けると、そこは全く見知らぬ天井だった。宿屋でもなく、城でもない、少し古くなった木の天井。身体を起こそうとすると、半身に激しい痛みが走り顔を歪めたが、起き上がる。痛みを吐き出すように息を吐いて辺りを見渡す。まるで山小屋か、漁師小屋のような内装だ。そこに簡易なベッドを置いたような場所。#dn=1#はどこだろうと思いながら唯一の出入り口を見ると、同時に誰かが入って来た。
「…起きたか」
「デューク・バレンタイン…」
そういえば銀髪を見たな…、と思い出し納得すると脇腹が痛んだ。
「~~ッ……!」
唇を噛み締めて、脇腹を恐る恐る見ると、案の定と言うように溜息を吐いて脇腹を撫でた。そこには大きなガーゼが張られている。だがそれよりも問題なのは、#dn=1#は何一つ身にまとっていない、簡単に言えば素っ裸な事だ。羞恥心で顔を赤くして、自分を抱き締める。そしてハッと気付いて自分に掛けられていたブランケットに潜り込む。
「ッ、私の下着と服はどこへやった!」
「乾かし終えた」
そう言って服を投げられた。それを受け取ると#dn=1#は慌てて着始める。まさか知り合って間もない男に裸を見られるなど、ミジンコ一匹足りとも思っていなかった。デュークは溜息を吐いて出入り口の扉に背を預けた。そして腕を組むと天井を仰ぎ見た。#dn=1#は着替えながらそれを見て眉を顰めた。まるでそれは誰かに懺悔しているようにも見えた。#dn=1#はそんなデュークをジッと見ていると、デュークはゆっくりと口を開いた。
「行くぞ」
「何処へだ」
「エルシフルの眠る、場所だ」
*******
急いで服を着て小屋を出て向かった場所はエフミドの丘の海が眺められる場所だった。
墓にしては眺めは良いが、何だか投げやりに感じた。だが#dn=1#はそんな事言えない。何せ自分も同じようなモノだからだ。#dn=1#はしゃがんで先程摘んで来た花を置いて、手を合わせ目を閉じた。#dn=1#の刀は先程デュークに預けてある。#dn=1#は心の中で謝罪した。
ここに来るまでにデュークはポツリポツリと教えてくれた。エルシフルは帝国によって殺されたのだと。もし自分がそれを知っていたら、止める事もエルシフルを救う事も出来たかもしれない。自分は無力だ、改めて思い知った。
耳には小波の音、そして鼻腔をくすぐるのは潮の香。目を開けて目の前に広がる青く広い海を眺める。何だか久しぶりに見た気がした。最後に見たのは、仲間達の元を離れる前。結局自分は死ねなかった。何故同胞を殺したのか知る事も出来なかった。まるで自分が空っぽになった気がした。
今まで、エステルを守るために生きて来て。旅に出て始祖の隷長に会う事と、エステルの力をどうにか出来ないかと悩んで来た。だが結局全て、自分では何も出来なかった。そして一族の虐殺の理由を知ろうとしたのに。目的は達成されずに真実は消えてしまった。
#dn=1#はソッと空に不気味にそびえる星喰みを見た。
間に合わなかった。あれを食い止めるためにやって来たのに。全てが水の泡だ。このまま首の脈を引き裂き、命を絶てれば、
「自殺など、愚かな者がするような事をするな」
まるで#dn=1#の心を見透かしたように言うと#dn=1#は苦笑した。ガサガサと草が揺れた。動物が通ったのだろう、#dn=1#は思いながらゆっくりと立ち上がった。
そして小波に呑まれないように、音を紡ぎ始めた。始祖の隷長が亡くなる時に歌った悲しい歌。もう10年前に亡くなったのだから時効かもしれないが、それでも迷わないように、どうか…と祈りを込めて歌った。デュークはその歌を聞いて、#dn=1#の背中を見て悲しんでいる事などすぐに分かった。手を掴んでいなくては、今にも霧のように消えてしまいそうだ。#dn=1#は自分の手を握り締めると、歌を歌い終えた。大きく息を吸って、吐く。またこの悲しい世界に1人残されて生きなくてはならないのかと思うと、気が重くて仕方なかった。#dn=1#は振り返り、デュークから刀を受け取る。デュークは真っ直ぐと#dn=1#を見ていた。
「私と共に来ないか?」
いきなりそんな事を言われ、#dn=1#は目を見開いてその言葉を飲み込むとま抜けた声を出してしまった。だがデュークは真剣な目をしている。
「星喰みは、復活してしまった。私はあれを倒すため、全ての人間を犠牲にする」
「……タルカロンか」
#dn=1#はそう言うとデュークは無言だったがそれは肯定を示していた。#dn=1#は眉を顰めてデュークを見た。
「…生き物を、犠牲にせずとも、他に方法がある筈だと思うが…」
「人間は愚かだ。今も昔も変わらない。ならば消し去った方が世界のためだ。そしてお前が生き延びるためでもある」
それを言うと#dn=1#はグッと黙った。デュークの言い分は最もだ。人間はあの頃から何一つ変わらない。自分達で首を締めているというのにそれに気付かない。危なくならないと、始祖の隷長達の言葉に耳を貸そうともしない。そして#dn=1#達一族にも。#dn=1#は唇を噛み締めて、デュークを見た。いくら言ったところでデュークは止まらない。#dn=1#はそう感じていた。目にはもう覚悟が見える。#dn=1#は俯いて、小さく息を吐いた。
「すまない」
そう答えるとデュークは間髪を入れず「何故だ」と聞いて来た。
「…デューク・バレンタインの言い分は最もだ。私にも、とても魅力的な世界になるだろう」
「………自分達一族が救ったこの世界が手放し難いか」
#dn=1#は顔を上げた。その顔は悲しげだ。
「違う。私たちは救っていない。救ったのは満月の子らだ。私たちは彼らを死に追いやった、それだけだ」
「ならば何故だ」
「…死に追いやって、彼らはこの世界を作ってくれた。私たちは確かにこの世界である限り、人殺しと罵られるだろう」
でも、だからこそ。
死に追いやってしまった我々だから、この世界を捨てられないんだ。
多くの犠牲で成り立って来たこの世界をまた犠牲で成り立たせて、それは本当に終わるのだろうか?…絶対に終わらないと思う。
満月の子らは命を賭けて世界を守った。ならば憎まれようと、この世界を、守ってくれた生き物を愛してやるのが満月の子らへの一つの弔いになるんじゃないか。
#dn=1#はそう言うと再び顔を俯かせて謝った。デュークは溜息を吐いてエルシフルの墓を見た。すると一陣の風が吹いた。まるで仕方がないなと笑ってくれたかのようだった。デュークは#dn=1#の頭をぽんぽんと撫でる。それに驚いて#dn=1#は顔を上げた。自分と同じように無表情な顔がそこにある。
「……偽善だな」
「…そうだな」
「ならばお前は何をする」
そう問われて#dn=1#はそうだな…と言って笑い、脳裏に、自分を仲間にしてくれた彼らの後ろ姿が映った。
何をするなど、目的の無い私があと待つのは死だけだ。だが死など来て欲しい時に来やしない。ならば少しの間だけでも。
元主人を、主人の友人を、長年待った友を、始祖の隷長と交流してくれていた者を、自分を受け入れた小さな首領を、懐いてくれた小さな仲間を、教え子に懐いた獣を、大切な教え子を、自分を1人にしないと言ってくれた教え子を。
「"凛々の明星"を、遠くから見守るとしよう」
私は、星屑だからな。と言って#dn=1#は乾いた笑みを浮かべた。
デュークは溜息を吐いて#dn=1#の頭から手を下ろした。
「…もし荷担したくなったらいつでも私を探せ」
そう言ってデュークは#dn=1#の隣を通り過ぎようとする。#dn=1#は咄嗟にデュークの手を掴みデュークと目を合わせた。
「ありがとう。ユーリ・ローウェルと私を助けてくれて」
「……礼なら、貰った」
そう言ってデュークは#dn=1#の腕を振り払うと歩いて行ってしまった。#dn=1#はそれを見送り、さて自分もあれだけ大口を叩いたのだからどうにかしなくてはと思いながら歩き出そうとした。#dn=1#はそれを見送り、さて自分もあれだけ大口を叩いたのだからどうにかしなくてはと思いながら歩き出そうとした。その時だった。何かが駆けて草を蹴る音が聞こえて来た。殺気は感じない。#dn=1#は音がした方をフッと見ると駆けて来ていたその塊は既に#dn=1#に飛び掛かっていた。避けようかと思ったがその必死さに避ける事が出来なかった。
#dn=1#はそれを受け止めるとバタンッと仰向けに倒れてしまった。
「ラピード…」
「うぉん!」
返事をするようにラピードは吠える。
#dn=1#はラピードを撫でてやるとゆっくりと起き上がった。ラピードは行儀良く座って#dn=1#に撫でられるのを心地よさそうに受けている。すると更に何人かが草むらから出て来る。それは#dn=1#が予想していた人物達だからかあまり驚きはしなかった。ラピードがいるのだから彼らが居ない方が逆におかしいだろう。#dn=1#は逃げようかと思い立ち上がって歩こうとしたら、ラピードに服を噛まれていて動けなかった。いや、服で良かった。髪を噛まれていたら大変だ。何だか気まずい雰囲気が流れ、#dn=1#は咄嗟に顔を逸らした。ラピードはユーリに呼ばれたのか#dn=1#の元から離れてしまった。だがそれと入れ違いになるように再び何かが#dn=1#に向かって突っ込んで来た。#dn=1#は間一髪抱き留める。
「エステリーゼ、様…」
「行かないで下さい!」
#dn=1#の言葉を掻き消すようにエステルは言った。#dn=1#は困ったように笑って、エステルの頭を撫でる。
「申し訳ありません…、それは無理です」
「何故です?私達が悪いんです!?」
そう言うと、#dn=1#はピクッと反応して首を振った。違うらしい。
#dn=1#はエステルの頭から手を放すと肩を掴んで自分から引き離した。馴れ合ってはいけないと、言っているかのようだった。エステルは#dn=1#が醸し出す雰囲気に悲しげに顔を歪めた。こんな顔をさせたくて言いたいわけじゃない。
「私が、」
化け物だからです、#dn=1#はハッキリと言った。ユーリ達にも分かった。何故#dn=1#がそこまで自分達を拒否するのか。化け物だから、自分達が罵るかもしれない、という心配もあるが、自分と一緒にいるだけで罵られるかもしれないと心配しているのだ。#dn=1#は俯いて深呼吸した。とにかく落ち着かなければいけないと思ったからだ。
ねぇ、長。どうしたんだ#dn=1#。何で私達は差別されてるんだろう。それは私たちが満月の子らを死に追いやったからだ。私たち悪い事したのか。そうだ、だから差別されても仕方がないんだ。でも、謝ったら満月の子達は許してくれるんじゃないかな。どうだろうな、例え謝っても許されるか分からない。うん。それに他の人間は許さないかもしれない。…うん。それにな#dn=1#、
昔、長と話した記憶が蘇った。まだ満月の子達の事も曖昧だった頃だ。#dn=1#はギュッと唇を噛み締めた。悔しさと悲しさ。胸の中から嫌な感情が込み上げて来た。
1人は嫌だが、彼らは民では無い。自分がいるというだけで罵られ、もしかしたら足手纏いになるかもしれない。そう思うと身体が震えた。ユーリ達はそんな#dn=1#を見て人間の過ちが、#dn=1#をこんなにしてしまったんだと改めて思い知った。手を取りたくても取れなくて、信じたくても信じて良いのかと警戒という名の壁を取り払えなくて。するとユーリはエステルの横を通り#dn=1#の前に出た。ユーリは真っ直ぐと#dn=1#を見ている。しかしその目が、何だか怖くて#dn=1#は顔を上げられなかった。
「#dn=1#、俺言った筈だぜ?」
アンタを絶対1人にしないって。ユーリは言うと、まだ分からないのかと言うように#dn=1#はガバッと顔を上げた。だがユーリは待ってましたと言わんばかりにニヤリと笑うと逃がさないように手を掴んで来た。
「それに、無料だとしても1人満足されちゃあ困るんだよ」
「ならば金を払えば良いのか」
「却下。受け付けない。逃げれるもんなら逃げろよ、地の果てまで追いかけてやる。受け付けんのは、」
アンタが、俺が帰って来いって願いを肯定する答えだけだ。まるで悪人のようにユーリは笑う。
パーティメンバーも嬉しそうに笑う。#dn=1#は呆れたように溜息を吐いて自信ありげに笑うユーリを見た。昔、と言っても知り合ったのは数年前だ。しかし、ユーリがこんな笑みを浮かべるのは絶対的自信があるからだ。もしここで否定しようものならまた違う事を突き付けられ、仲間になれと言うだろう。だが例え逃げたとしても、本気で地の果てまで追い駆けてきそうだ。
いくら歳を取っても人は変わらないという事か。#dn=1#はそう思いながらそっと笑みを浮かべた。
「…いつか、後悔するぞ」
「自分で選んだ事だ。後悔してもそれは#dn=1#のせいじゃねぇ」
「重荷と感じるぞ」
「それは、絶ッッッ対無いな」
ニヤリ。ユーリがまた笑った。それを見て#dn=1#はクスクス笑った。ユーリも覚悟を決めて来たようだ。
ナイレン、お前が育てたあの頃の生意気な騎士はこんなにも強く輝く者になったぞ。あの時未来へ私たちが求めていたのは、どうやらユーリ・ローウェルだったようだ。
見守る事は出来無そうだが、今度は近くで彼らの作る未来を見守るとしようと思うが、別に構わないよな。長、リーク、皆。
彼らが作る未来を見てみたいんだ。だから、そちらに逝くのは遅くなりそうだ。
「…いつまで経っても、強引だな」
「こうでもしなきゃ、アンタ帰って来ないだろ」
「まぁな」
それを聞いてユーリは目を点にした。エステルも皆も目を点にしている。だが#dn=1#だけはフッと笑うと「仲間にするのだろう?」と言った。ユーリ達は一旦顔を合わせるとバッと#dn=1#を見た。その目はまるで宝物を見るような目をしている。その目に#dn=1#はビクッとしてユーリの手を振り払った。そして1番最初に動いたのはエステルだった。ユーリを退して#dn=1#に抱き付いたのだ。まだ傷が完治していない#dn=1#は何度も受け止める事が出来ず倒れてしまった。
「もう!絶対に離れないです?!」
「ッ…はい、地の果てまで追いかけられては堪らないですからね」
そう言って#dn=1#は傷口を押さえながら起き上がるとエステルは嬉しそうに#dn=1#の胸に顔を埋めた。そんな微笑ましい2人を見て仲間達も笑みを浮かべた。レイヴンはゆっくりと近付いて#dn=1#の頭を撫でる。自分に生きてくれと言ってくれた#dn=1#。みすみす行かせるとは思っていなかったが。
行かせるとしたら無理やりにでもここに残らせるつもりだった。
だが#dn=1#は違和感にハッとした。エステルも#dn=1#の違和感に気付いたようで#dn=1#の顔を見る。#dn=1#は口角をヒクつかせている。そんな2人を見た皆は2人を見下ろす。すると#dn=1#は何かを思い出すように自分の頭を抱え、確かめるように自分の服の中を見た。そして、絶句。何が起こっているのか分からない仲間達は顔を見合わせ頭にクエスチョンマークを浮かべる。だがそんな仲間に囲まれながら#dn=1#はエステルを抱えながら立ち上がると、顔を真っ赤にしてデュークが歩いて行った方向を恨めしそうに見た。
「わ、」
私の下着を返せ、デューク!!
#dn=1#の怒りの声が木霊した。どうやら着替えの時にいきなりエルシフルの墓に行くという事になり、慌てていたためにすっかり忘れていたようだ。エステルに至っては耐え切れずに鼻から鼻血を噴き出した。
これが化け物?そんな筈無い。だって恥ずかしがって、怒って笑って、哀しがって、どこが化け物なんだ?
感情の起伏を面に出さない良い女じゃないか。そんな事を思いユーリはフッと笑うが今は惚れた女の一大事。取り敢えず近くの街に行ったら下着を買ってやろうと胸に決めた。
End