短編
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朝方、皆がまだ深い眠り就いてる時、夢主は宿屋のぶら下がった鏡の前に立ち、鏡に映る自分の顔を見ていた。何とも不気味な雰囲気を醸し出しているが夢主にとったら重大な事だ。ジッと鏡に映る自分の顔を見つめて、プニッと。
「………」
無理やり口許を指で吊り上げた。そこに映ったのは不格好な笑みを浮かべた夢主。それを見て夢主はガックリと落ち込んだ。そして今度は口許を下にさげて不格好な怒り顔を浮かべる。だがこれも夢主には納得出来ないようで更に落ち込んだ。傍から見ればそれはとても奇怪な動きに見える。恐らく仲間以外の人間が今の夢主を見れば眉を顰めて「何やってんだ」と言うだろう。何故夢主がこのような行動を取るか。それは昼間にあった出来事が原因である。街に着くや否や、エステルやジュディスやリタに引っ張られて、ファンシーな見せに入った時。いつも通り店員や仲間以外の客からは奇妙な目で見られ、毎度の如く仲間に遊ばれ。店から出るとそこには自分と同じぐらいの年齢の女性と、彼氏らしき男が幸せそうに笑っていた。
その表情を見て、生き残った自分がいつまでも無表情でいたら何だか民の皆が不安で出てきそうだからこれを始めたのだ。
だがこれは建て前で実はまた身長が伸びたようだ。だというのに無愛想だから相手に威圧を与えてしまったようで今日ぶつかってしまった男に謝る前に逆に謝られて逃げられてしまった。
身長はどうしようもないから仕方なく、表情をどうにかしようとしているが…。
まさか、ここまで意識的に笑えなくなっているとは…。
そう。あの時、好きで無表情で立っていたわけではない。あの時懸命に笑ったり怒ったりしようとしていたがまるで筋肉が固まってしまったかのように動かなかったのだ。
それでも良いと仲間達は言ってくれているがそれでギルドの仕事に問題が起こってはいけない。夢主はムッとして鏡に映る自分と睨めっこをしていた。
*******
その夜。
野宿となった一行は食事を終えて一段落をしていた。食事当番である夢主は河原で食器の洗っていた。この森には比較的凶悪な魔物も居ないためこのように単独で行動が出来る。
夢主は食器を洗い終えると鏡のように自分を映し出す水面を見ていた。ジッと見つめ、笑みを浮かべて見せる、がそこに映るのは相変わらず無表情な自分。
頬の筋肉が硬直しているのだろうか…。あまり表情を変えないからか?いやだが…、自分では変えてるつもりなのだが、変わっていないのか。………やはり、民の掟が抜け切れていないのか。
夢主は溜息を吐いて、パシャンッと水面を叩くと水面に映っていた自分の顔がグニャと歪んで、ユラユラ揺れた。そして顔の筋肉をマッサージするように押し上げたりする。仲間は今の夢主を見たら一体何を落ち込んでいるんだと聞きたくなるほど、夢主は落ち込んでいる。むしろ仲間じゃないと恐らく夢主が落ち込んでいるという事さえ分からないだろう。
すると感じ覚えのある気配を感じて夢主はパッと自分の顔から手を離して自分の愛刀を掴み、振り返ると強烈な衝撃が鞘にぶつかった。手がビリビリと痺れたが、衝撃の理由である鎌を見てムッとする。
「オー、ナイスな反応デース」
「……イエガー」
夢主のストーカー、もとい、本来なら敵であるイエガーがそこにいた。
チラッと夢主は食器が無事か見ると傷一つ付いていない事にほぅ…と安堵の息を吐いてギリギリと鎌に力を込めて来ているイエガーを睨んだ。
「随分とウォーリーしているようですが?」
「イエガーには関係のない事だ。失せろ」
ついでに私は今機嫌が悪いと夢主は言う。その言葉にイエガーは納得した。そして夢主は鎌を振り払うと、2撃目を放つが、間一髪で避けられてしまう。否、避けられるように加減したのだ。夢主は食器を袋の中にしまい込み、その場を後にしようとするが、そう簡単に行かせようとしないイエガー。夢主は刀を抜こう柄を掴んだ。しかしイエガーは立ちはだかりはするが「ノンノン」と言って指を揺らす。武器は背中に背負い、戦う気はないと主張している。夢主は警戒しながらも柄から手を放す。
「何の用だ」
「キュートなハニーのウォーリーを、テイクアウェイするために」
もう夢主にはイエガーが何を言っているのか分からず、眉を顰めて「結構だ」と言う。
分からない言葉だからこそ下手に返事をして面倒な事を起こしたくはないからだ。そして夢主は食器の入った袋を持ち、イエガーの横を通って仲間の元へ帰ろうとする。本来ならイエガーは敵なのだ。それをわざわざ仲間も呼ばず、去るのを待っていたのだから自分も随分根性無しになったモノだ。……民の頃だったら確実に仕留めている筈だから。そしてイエガーの横を通った。
次の瞬間。
「敵にバックを見せるのは、ノーグッドデース」
ゾワッと鳥肌が立つ程の殺気。夢主は慌てて振り返り刀を抜こうとした。がそれよりも早くそんな場に合わぬ間抜けだプシュッという音と共に、イエガーが夢主の顔に向けて何かを吹き掛けたのだ。夢主は咄嗟に顔を防御するが、間に合わない。無香のようで何の匂いもしないが何だか目が痺れて、痒くなって来た。夢主はイエガーから距離を取って目を擦る。何を吹き掛けられたのかは分からない。だが何だか痒い。目を開けられなくて夢主は目を擦る。
「ン~、夢主の涙腺はストロングデ~ス」
「~ッ、何を…!」
「ワンモア」
やっとの事で目を開けた夢主の顔にイエガーは慈悲も無くそれを吹き掛ける。今度はまともに食らってしまった夢主は声にならない悲鳴を上げて強烈な痒みの襲撃に遭った。すると何だか自分の頬が徐々に濡れていくのに気付いた。まさか自分は泣いているのか?そう考えてギッとイエガーを睨むが、イエガーにとってそんな夢主の睨みなど春風より弱いらしい。夢主は目が開けられない上に涙が止まらない状況に、くっ…と言葉も無く膝を突いた。
目を開けても涙が止まらず、目の前がユラユラと揺れる。そんな夢主の手から愛刀を奪い取り、イエガーはどこかに投げてしまった。(微かに夢主には「痛ッ」という声が聞こえた気がした)
夢主は何とかイエガーを見上げるとイエガーは何とも艶やかな笑みを浮かべて夢主の顎を掴んだ。
「鬼の目にもティアー。ですが、夢主は女神の目にもティアー」
「何を、掛けた…ッ!」
「玉葱の催涙アクションミストデース」
催涙、なるほどそのせいで涙が…!涙が止まらない…、拭いても拭いても溢れて来る…!止まってくれ…。頼むから!
そんな夢主の願いも虚しく涙は止まらない。イエガーはそんな夢主を押し倒そうとするが、さすが伊達に10年エステルのお守りをしているわけではない。本人もびっくりするぐらいの腹筋で何とか耐える、がもちろんイエガーの方が優勢だ。
傍から見ればまるで涙を流しながらストーカーに抵抗しているか弱い女性のようだ。もちろん涙が止まりきちんと目が開けられればか弱いという言葉には程遠い女性となるが。
「ぅッ……く…!」
「こんなところでストロングをショウしなくても、オーケーデース」
「夢主ー、何やっ…て……、」
ガサガサと草の揺れる音。その音がしたであろう方を夢主は向く。もちろん何とか目を開けて。そこには投げられた自分の愛刀を持ったユーリと仲間達。
仲間達からして見れば一体何が起こっているのか場の雰囲気を察しようとするが。夢主の目から流れ、頬を濡らしているそれを見てその場は凍り付く。
夢主は涙を流しながら抵抗している。
そんな夢主を今にも押し倒さんとしている不届きの輩。
勘違いと言われようが、何と言われようが知った事では無い。仲間達の目が冷酷に光り、ユーリも愛刀を抜いた。夢主はまた涙で前が見えなくなり、こんな情けない姿見られたくないという事で違う方を向いた。
オーバーリミッツレベル4
殺気は満タン
さっきまで武器を整えていたから切れ味抜群
自分の相棒を向けるべきはただ1人。
「覚悟しやがれトロロヘアーがぁあああっ!!」
ユーリがそう言って鬼神の如く突っ込んで、仲間達も便乗して来た。