短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ユーリが騎士団を辞めて1年が経とうとしていた。騎士団を辞めたにもかかわらず、夢主はユーリとよく会っていた。一ヵ月に一回かそれ以下か、下町に遊びに行くから。そしてもう一つは、ユーリが何かと問題を起こして投獄されているから。まさか牢の中で会うとは思っておらず夢主はとても驚いたものだ。そこまでやんちゃをしているなら、大丈夫だなと夢主は思っていた。
しかし、その数日夢主は無表情ながらも内心はとても心配していた。下町に遊びに行っても「悪ぃ…」と言って会ってはくれず、投獄も最近はしていない。悪さを起こさないのだから良い事なのだろうが、その悪さの知らせが彼が今元気である知らせだと夢主は思っていた。
理由は何となくだが夢主も分かっていた。1年前、この日にナイレンが死んだ。ラピードの父親も死んだ。大切な人と獣を立て続けに亡くしたのだ。それを受け入れ切れていないのだろうか。
夢主はいつもと同じ。エステルと共に行動し、話をし、フレンと話をし、そしてエステルを寝かし付け、軽く見回りをして自分も最低限の家具しかない部屋に戻った。もう時刻は日付が変わろうとしている。カーテンで隠れた窓。その奥の外を夢主はカーテンを開いて見た。あの時見上げた満月が、今日も現れている。満月はまるですべてを見定めて居るように見える。夢主は特に眩しいわけでもないのに目を細めた。
裏切り
仲間の死
それでも、まるでそれらが無かったように回る世界。
夢主も同じ思いをした事があるからこそ、ユーリの苦しさも分かった。まるで世界は彼らに起こった悲劇を排除したように時は進み、時間が経つ。
「…………」
満月は、明るいな…。まるで隠そうとしているモノを隠させまいとしているようだ。
「……そうか」
夢主は何か聞いて了解をしたように言って、窓の鍵を開けるとその場所から離れて部屋に付いているシャワーを浴びに行った。重い甲冑を脱ぎ、リボンを解いて長い髪を流す。タオルで身体を隠しながら浴室に入る。薄くはなったものの自分の身体にある戦い傷は、嫌なものだ。自分の無力を改めて思い知らされる。夢主腕にあった傷をチラリと見てすぐに視線を逸らした。
浴室の窓からも月明りが入り込んで来ていた。コックを捻って雨のように降り出す湯が、フワリと湯気を上げながら夢主に降り懸かる。
自分の身体を流れる湯が何だか重く感じた。身体を洗う、その行為がなんだか今日は億劫な気がする。チラリと夢主が月明りの根源を見ると、一つ溜息を吐いた。煌々としている月はまるで夢主に何かを言っているようだ。
早く上がれと言いたいのか?それともそんなところにいずにさっさと部屋に戻れと言いたいのか。
サアサアと流れる湯。それがあっという間に泡を流し、排水溝に呑まれて行く。軽く肩を回して、コックを閉める。ポタポタとシャワーヘッドから数滴の湯が落ちた。
そして浴室から出て、再び甲冑を身に纏う。まるでそれはあの時駆け付けられなかった自分を戒め、そして責めているようだった。
髪を拭き、まるで戦闘に行くような気分で髪をリボンで結う。そして部屋に戻ると、予想通りの訪問者に窓を開けておいてよかったと思う。その人物は夢主の部屋の数少ない家具の一つである椅子に座っていた。
「邪魔してるぜ」
いつもどおりの軽口。何だか全てを覆い隠しているようで何だか重たかった。
パタンッと扉を閉めて夢主はベッドに腰掛けた。
「何だ、見当たらないかと思ったら風呂に行ってたのか」
彼らしくない、珍しく饒舌だ。夢主はユーリの顔色を伺う。ヘラヘラしていて、まるで道化のようだ。
「……ユーリ・ローウェル」
呼んでやるとユーリはビクッと身体を震えさせた。
あの時私がして欲しい事を、ユーリ・ローウェルにしてやらなくては。それが私に出来る事だ。
「強がるな。こっちへ来い」
誰もお前を責めたりなどしない、そう言って軽く腕を広げてやるとユーリは飛び込むように夢主に抱き付いた。辛い夜は誰かにそばにいて欲しい、夢主は仲間を失った時何度も思ったが、それは叶わなかった。だから、それを誰かにしてやりたい。自分のように苦しむ誰かを見たくはない。
強く抱き付いて来るユーリに夢主は背中に手を回して軽く擦ってやる。ユーリの柔らかい長い髪がくすぐったかった。
「大丈夫…。怯えるな…」
服をギュッと掴まれる。まるで迷子になっていた子供が親を見つけた時のような、あの感じ。
「私は、ここにいる」
そう言って昔の自分が欲しかった言葉を並べてユーリに与えた。
中途半端。