短編
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「夢主、ちょっと髪を整えてくれない?」
某街の某宿屋。
そう言ってジュディスは夢主に近寄った。解いたは良いモノの結うのが大変らしい。ジュディスはよく夢主に髪結いを頼んでいる。夢主は「構わない」と一言言ってジュディスから櫛を借りる。そしてジュディスを座らせて、自分はジュディスの背後に回り髪を梳かしてやる。
ユーリ一行は髪の長い者が多い。だから自分で邪魔にならないように工夫している。
夢主は髪を梳かし終えると夢主の指は素早くと動きながらも、的確かつ綺麗にジュディスの髪を整えて行く。その姿はまるで美男美女のカップルの一つの行動のように見える。
「……、シャンプーを変えたのか」
「えぇ、どうかしら」
「ジュディスらしい香りだな」
「ふふっ、ありがとう」
そんな甘い恋人達のような会話をしながら夢主は器用に髪を整え、そしてあっという間にいつもどおりのジュディスの髪型が完成する。
夢主は櫛を置き「終わったぞ」と声を掛ける。ジュディスは立ち上がり軽く頭を振る。これで落ちるようならもう1度となるが今まで落ちた事はない。
満足そうにジュディスは笑い櫛を手に取り夢主に「ありがとう」とお礼を言って頬にキスをした。
「私も!私もやって欲しいです!」
そう言ってエステルが立ち上がる。夢主は驚いていたが「どうぞ」と言ってエステルを椅子に座らせた。桜色の髪を優しく梳いてやり、エステルが渡して来た髪留めゴムで留めてやる。
「痛くはないですか?」
「はい、大丈夫です!」
「…少し髪が伸びましたね」
「似合わないです?」
「いえ、とても似合っていますよ」
そう言えばエステルは照れたように笑って「ありがとうございます」と言った。だが夢主は相変わらずの無表情。恐らく楽しいのだろうが。
「……はい、出来ましたよ」
「わぁ…!ありがとうございます、夢主!」
そう言ってエステルは夢主に抱き付く。夢主はそんなエステルを抱き留める。笑うエステルに夢主は頭をポンポンと叩いて落ち着かせる。そんな様子を珍しく本から目を離して見ている人物が1名。夢主はその視線に気付いたのか、その人物を見た。そして、エステルを放すと来いというように椅子の背凭れを叩いた。
「リタ・モルディオ。座りなさい」
「えッ…!?い、良いわよ私は!」
「リタ!せっかくなんですからやってもらってください!」
「そうなのじゃ。リタ姐が終わったら次はウチの番じゃ!」
「そうよ、やってもらいなさいな」
そこまで言われてもリタは首を縦には触れなかった。夢主に触れられると不思議と顔が赤くなってしまうのも理由の一つだ。しかし本命は違う。
リタは髪が短い。
ジュディスのように髪が長いわけでもない。長ければどんな髪型もやりたい放題だろう。
エステルのように髪がちょっと長いわけでもない。ちょっと長くても、夢主は可愛らしく仕上げてくれるだろう。
だが自分は髪が結ぶにしては短い。そうなるときっと梳かすだけで終わってしまう。何だかそれが思春期な彼女には嫌だったのだ。
「大丈夫ですよ。夢主、お願いします」
そう言ってエステルは無理やりリタを座らせて、夢主に頼む。夢主はその荒々しい行動にびっくりしていたが「分かりました」と一言返事をしただけだった。
逃げ場がない。そう思うとリタは覚悟を決めたように椅子にキチンと座るが緊張してか肩が上がっている。
「リタ・モルディオ。深呼吸だ」
夢主がそう言ってリタの肩に手を置く。リタはびっくりして肩を跳ねさせた。しかし夢主は表情を一つも微動だにしない。リタはゆっくりと息を吸って、震えるように吐いた。
そうすると夢主は肩から手を退かし、リタの髪を梳かす。髪を櫛で撫でられるたび、リタはまるで何かカウントをされている気分だった。この髪が梳かし終わったら、自分の番は終わってしまうのか。そんな少し寂しいカウントだ。
「リタ・モルディオの髪は柔らかくてサラサラだな」
「えっ…」
「艶もある、髪質がとても良い」
そこまで褒められるとは思わず、顔が熱くなる。夢主の手が止まり、何かを施している。どうやら髪を梳かされるだけではないようだ。
ピンを留められ、夢主はリタの前に来てリタを見る。そして点検するように見て「よし」と言った。
「終わりだ」
「あ、ありがと…」
「わぁ!リタ可愛いです!」
そう言ってエステルはリタに飛び付く。リタは何がなんだか分からず混乱すると、ジュディスが鏡を見せてくれた。前から邪魔だと思っていた前髪を耳に掛け、それをヘアピンで留めたようだ。
自分でそういう事を何度かした事はあったが上手くいかず、放り投げた。しかし夢主はそんな事を意図もあっさりとやっとのけてしまった。何だか悔しいと思うよりも、凄いと思った。
リタはチラッと夢主の手を見る。剣を握っているから手だって綺麗ではない。豆だってたくさん潰れている。それでもリタにはその手が、貴族の女性の傷一つ無い手よりもずっと綺麗に見えた。
「最後はウチじゃ!」
「パティ・フルール。あまり動くな」
その手は、変人と言われた自分を"女の子"と扱い"女の子"にしてくれる。まるで魔法の手だ。
「夢主」
「どうした?」
「………ありがと」
もう1度言うと夢主は「どう致しまして」と無表情で答えた。