短編
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「オー!ベリーキュートな夢主じゃないですか!」
聞きたくない声を聞いてしまった、と言うかのように夢主は身を固めた。そして夢主に声を掛けた男はスタスタと夢主に近付き肩を抱く。だがその手をはたき落とした。無表情ながらも夢主はその男を睨むが男はそんなモノはどこ吹く風のようだ。いや、もしかしたら男にとったら春風にすぎないのかもしれない。……常人にはブリザードのような視線だが。
「…何の用だ、イエガー」
たまたま夢主はある街で買い物をして居ただけだ。皆は何かありあちらこちらと行ってしまい、夢主もと言ったが皆に首を横に振られ仕方なく物資や武器の買い物をしていただけだ。
「相変わらず、クールですね。私のディア夢主」
「イエガーも、相変わらずだ」
その馬鹿げたような喋り方も、変としか思えないその髪型も。夢主はそんな意味を込めて言ってやる。
そしてハッと気付いた。
しまった、ここは店だった。お客や店員が引いてる…。
「私は行く」
「ノンノン、ストップ」
買い物を終えたから早く店から出ようとしたが、それよりも早くイエガーが夢主の肩を掴んだ。だが夢主はやはりすぐに叩き落とす。
夢主とイエガーが、深い仲ではない。お互いは剣の技術などは認めて居るが、夢主はイエガーが嫌い。しかしイエガーは夢主を好んでいる。それこそ人魔戦争の後、数回しか会った事がない。だがその間にイエガーは夢主がすっかり気に入ったようだ。
夢主はスタスタと店から出るとゆっくりと道を歩き出した。イエガーも夢主の隣に立つ。チラッと夢主はイエガーを見上げると、イエガーはずっと夢主を見ていたようで目が合った。
「一体何の用だ」
目線を離さずそう言うとイエガーがニッコリと笑った。だが夢主は相変わらずの無表情。しかも今は片手には夢主の愛刀が握られている。下手をしたら真っ二つにされてしまう。
「実は、ミーとデートして欲しいのデス!」
「随分と死に急いでいるな。仕方ない、イエガーがそう言うなら協力しよう」
そう言って夢主は刀を抜こうとした。しかし、イエガーがニッコリ笑ったまま夢主の刀を抜こうとしている方の手を掴んだ。夢主は離せと視線を送るがイエガーは相変わらずだ。
「断ると言ったら?」
「ユーは押しにウィークと知ってます」
つまり断ってもこのまま押し続けるという事か。ある意味ストーカーより質が悪い。夢主は溜息を吐くしかなかった。いや、溜息を吐いて嫌がってると分かって欲しかった。だがそんな気配りが出来るほど良い性格をしていない。
ユーリ・ローウェル達はどれぐらいで来るんだ…?というか、何故私を置いて行ったんだ。……いかんいかん、ユーリ・ローウェル達に当たってどうする。
だがやはり断るべきだろう。ここで受けてユーリ・ローウェル達と合流出来なかったら、
「ターイムアップ」
「な、」
なんだと、そう言う前にスプレーを向けられる。これはなんだろうと夢主が思っていたら。
「グッドナイト」
パシューッ。
間抜けな音と共にスプレーから霧が噴射されて、煙たいのと眠たいのが混ざって、身体が重くなった。そして夢主はグラリと身体が傾き、倒れる。
寸前にイエガーが夢主を抱き留めた。
そして抱き上げると前髪にキスをした。夢主はスウスウと寝息を吐いている。
傍から見たらイエガーは確実に誘拐犯だ。
酷く言えば変態だ。
だがそんな事知ったこっちゃないと言うようにイエガーは夢主を抱き抱えたままスキップをして己のギルドへ戻って行った。
*******
夢主はこの意識がフワリと浮かび上がるような感じが嫌いだった。
意識だけが浅い睡眠という海を泳いでいる。
だがそんな意識を完全に引き上げたのは鼻腔をくすぐる甘い匂い。果実か花か。その正体は分からないが、とにかく甘い香りだ。
「エステリーゼ様…?」と呼んで眠くて思い瞼をゆっくりと開ける。ぼやける焦点は、2人の人間の輪郭と髪の色から捉えた。
徐々に明らかになって行く2人の人間はどうやら女の子のようだ。可愛らしい。
「イエガー様ぁ!目覚めたみたいだわん!」
…イエガー……?
その名前の人物を思い浮かべ何が起こったのか零点何秒で思い出すとガバッと起き上がった。完璧誘拐だ、まさか自分のような図体のデカい奴を誘拐するとは思っていなかったが…。
そんな事をグルグル考えていると自分の着ている服が違う事に気がついた。
なんだ、このヒラヒラは……。それに、あまり自分では身に着けない色だから目がチカチカする。いやそれより胸元と足許がスースーするんだが。
そう思いながら足をばたつかせ、裾を持ち上げたりする。
更に言えば女の子達は夢主の髪を解き、何やらいじり始めた。それも手早く梳かされ、何やら結ばれている。
何なんだこの嫌な予感は…!
「オー!夢主、とてもビューティウーマンになっ、ブグ」
「私に何をした」
夢主はイエガーに枕を投げ付けてやった。それは見事に顔面に当たり床に落ちる。だがイエガーは夢主の姿を見たまま固まっている。だが夢主は無表情ながらも怒っているようだ。
すると女の子達は「終わりました」と言ってイエガーの隣へ行ってしまった。
夢主はキョロキョロと辺りを警戒しながら見る。よく見たらここは天蓋付きのベッドのようでなかなか豪華だ。建物も見慣れない場所だ。だが何よりも驚いたのは窓から入って来る月光にだ。
ユーリ達は夜には帰って来ると言っていたのに。一体私はどのくらい眠っていたんだ。夢主は後悔と怒りの板挟みにあっていた。
「最初は、男みたいだったわん…」
「……だが…今じゃすっかり…」
女の子達が何かを言った。夢主は視線を向けて「なんだ」と言ったら、顔を赤くして首を横に振られた。
何なんだ、一体…。そう思いながら未だに固まっているイエガーに目を向ける。
「どういうつもりだ」
「ホワット?」
「私を誘拐して、こんな格好までさせた理由だ」
そう言ってもイエガーは変わらず夢主を凝視したまま。
愛刀は見当たらない。どこに行ってしまったのだろう。答え次第では絶対愛刀の錆にしてる、夢主は心の中で物騒な誓いをした。
「ラブなウーマンにこんな格好させるのはクレイジーだと?」
こいつにまともな答えを求めた私が馬鹿だった、夢主は額に手をやって溜息を吐く。そして相手にしてられない、というかのようにベッドから降りようとする。だが音もなく近付いたイエガーがそれを許さなかった。
ベッドに腰掛けて自分の膝に夢主を座らせたのだ。
女の子達はイエガーの視線を見て部屋から出て行ってしまった。
夢主はフッと一点の方向を見る。そこには巨大な鏡が飾られていた。反射して写る自分の姿を見て夢主は完全に硬直させてしまった。
胸元が大きく開き、丈が短めなドレスのようなワンピース。今まで気付かなかったが、後ろは大きく開いていて色っぽい。
いつもの髪型とは違い、女性らしさが溢れている。
今の夢主はまるで、気高い貴族の女性にも見えた。
「やはり、夢主はビューティーです」
「私の服はどこだ」
「私のアイズに間違いはナッシィングでした!」
話のやり取りが出来てない。しかも相手は自分の世界に入っている。夢主は溜息を吐くしか出来ない。イエガーが夢主の肩を抱き寄せ、こめかみや額、胸元や首筋にキスをしていく。垂らした前髪が何ともくすぐったいらしく、身じろいだ。
「もう帰してくれ」
大体お前は目的はデートじゃなかったのか。
その言葉は敢えて飲み込んだ。しかしそれはどちらにしろ説明された。
「ノンノン!これから本来のホープだったデートをするんです!」
こんな格好で外を歩き回るなんて…、死んでやる。末代までの恥だ。誰が絶対外なんかに出るものか。夢主は誓いを立てる。
ブランケットを掴んで行かないと主張すると、イエガーがニッコリ笑い「ノンノン」と言った。
何が一体ノンノンなのか分からないが。余りいい感じはしない。
「ベッドで、デートです」
「私に触るな近付くな、近付いたら去勢してやる」
イエガーから慌てて離れてベッドの隅へ逃げる。
死んでも嫌だ。誰がそんな事をするものか!
すると何やら外が騒がしくなって来た。なんだ、と意識だけ向けて目線はイエガーに注ぐ夢主。
「オー…、ユーのフレンドが来てしまいました」
それを聞いて夢主は安堵の息を吐いた。これでやっと逃げられる、と。
だがそんな隙を突いてイエガーは夢主を柔らかいベッドに押し倒した。
「シュヴァーンは、アンフェアです。ミーも…」
それ以上は何も言わないイエガー。彼らしくない弱々しい声色に夢主は眉を顰めて顔を覗き込む。
だが、それが命取りだった。ニヤリとイエガーは笑っていた。してやられたと思うよりも早くイエガーはずいっと顔を近付けて来た。
「それでは夢主、ラビングし合いましょうね」
夢主は顔を真っ青にして、ジタバタと遅めの抵抗を始めた。夢主の運命や以下に。
中途半端な投げやり話…