短編
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溜息を吐いて、空を見上げた。空は晴れ渡っている。だというのに夢主の心境は暴風警報が出て居るぐらい悪い。理由は先日仲間になった彼ら。と言ってもユーリやエステルが無理やり入れたと言うべきだろう。夢主は目指す場所があった。しかしユーリはその後フラフラ彷徨うぐらいなら俺たちと一緒に居ろと言った。
エステルはフレンから夢主が騎士や側近を辞めて行方不明だった夢主を見つけてとても嬉しそうだった。
夢主は嬉しいような、しかし何か複雑だ。何人かは夢主を認めて居ないようだ。良い例としてカロルは夢主に近付かない。どうやら、無表情な夢主が怖いようだ。しかしそんなモノを簡単に変えられるようなモノでもない。もうずっとこの無表情という盾を使って来たのだ。
街に到着して皆は物資やら武器やらを買いに出かけ、夢主は1人で留守番をしていた。仲間というモノは随分久し振りに持った気がする。いや実際かなり久し振りなんだ。目の裏に焼き付いたままの悪夢が蘇りそうになり、夢主は頭を振って消し去った。部屋に入りベッドに腰掛けた。港町なここは、潮風が心地よい。窓を開けたままだったからか風が夢主の頬を掠める。
「シュヴァーン…」
お前は今生きているのか、その言葉は声にならなかった。アレクセイや他の騎士たちは、シュヴァーンは生きて帰って来ていると言うが、私はお前に1度も会って居ない。アレクセイに会わせてくれと言っても、シュヴァーンの部屋に会いに行っても、会えない。私はいつまで、お前の帰りを待っていればいいんだ。10年間、ずっと待っていたというのに…、お前はまだ私に待てと言うのか。それとも私はお前に会う価値が無くなってしまったというのか?
「はぁ……」
夢主にとってこの10年間は苦しいモノだった。会いたいのに会いたくて、もどかしくて。まるで目の前にあるのに手が届かないような気分だ。なぜシュヴァーンは自分に会ってはくれないのか。なぜ、彼は自分に信じていてくれと言ったのか。なぜ、なぜ…。溢れ出した疑問は止まる事を知らずただただ溢れる。怒りより、悲しみより、ただ悔しい。彼を待っていた自分に対しても、実は死んでいたんじゃないかと思って人魔戦争が行われた場所に向かってる今の自分に対しても。
壁に立て掛けている自分の愛刀をチラッと見る。思えば、あの刀を抜いた事はあまりない。
流浪の民は仲間を大切にしていた。だが幼い頃から強くするために厳しく育てられた。酷い時はエアルが充満する土地に投げ込まれ一晩耐えろと言われたり。ある時は魔物が多く住む土地へ投げ込まれ一晩生きていろと言われたりもした。全ては強き子孫の繁栄のため。
そのため、大人になるに連れ子供達は生き残った仲間と絆を強めて行った。
そして
『仲間のために決して武器を抜くな』
と強く教え込まれた。
夢主が愛刀である長刀を抜かない理由は、仲間が居ないから。しかし今は仲間が居る。
守らなくては。もう、失いたくない。
声にならない誓いを心で呟いた。
するとフッと何かが動く気配を感じた。部屋の中ではない、廊下だ。しかも、1人ではない。夢主は目を細め、扉を見る。そういえば彼らは買い物に何時間前に出た?本来なら皆帰って来て居てもおかしくない時間だ。
「……」
そして夢主は刀を掴んだ。
******
バンッと扉が開けられる。入って来たのは見た目ガラの悪い連中が4、5人。
捕まえた奴等の話だともう1人、仲間がこの部屋に居るらしい。
だが部屋の中はもぬけの殻だ。捕まえた奴等が言って居た仲間がこの部屋にいると言っていたというのに。
嘘を掴まされたか…。
もしかしたら隠れているかもしれないと思い部屋に入る。
窓が開いていた。もしかしたら気付いてそこから逃げたのかもしれない。皆してそう思ったのか窓に近付いた。窓から外を見てみるが、こちらを気にしながら駆け出しているように人間は見当たらない。
お互い顔を見合わせる。
「ガセを掴まされたか?」
「あの男め…」
浮かんだのは黒髪の長髪男。
「チッ…」
「戻るぞ」
落胆の怒りを浮かべながら、捕まえた奴等をどういたぶろうかと考え。振り返る。
「それは困る」
次の瞬間、彼らは自分達の骨が不気味に軋むのを感じた。
******
買い物をして居たら皆して人売りに捕まってしまった。今は皆してどこかの大きな倉庫に縛られて閉じ込められている。
全く、油断し過ぎた。夢主なら確実に無言で溜息を吐くだろう。
ユーリはそんな夢主を思い浮かべうっすら笑うと、先程殴られて血が溢れて仕方がない口から血を吐き出した。夢主の事だ。いきなり攻めて来た奴等を遠慮なく叩きのめすだろう。過去に自分にしたように。
「何笑ってやがんだ」
「別に、アンタには関係ねぇよ」
鼻で笑うようにそう言うと、一緒に縛られた仲間が咎めるようにユーリの名前を呼んだ。だがレイヴンはユーリの考えてる事が分かったのか、同じように笑った。
夢主はかなり自分に自信を無くしているようだが、ただ単に仲間は警戒してるだけであって、そんなモノすぐに解いてくれる。夢主は思っているより仲間に思われている。それをどうか分かって欲しい。
「遅ぇな」
男は鉄で出来た大きな出入り口を見る。男の仲間達が出て行ったのはもう1時間前。いくらなんでも遅い。夢主がいくらなんでも普通の女性より少し大きいとしても、運ぶにしては遅すぎる。何をやってるのかと思いチラチラと男は扉を忙しなく見る。
「青年」
レイヴンが囁くように言った。ユーリは呼ばれて隣で縛られているレイヴンを見る。自分と同じようにまだ希望を捨てていない。むしろ目の前にいる男をまるで小バカにするような目をしていた。
レイヴンは夢主をとても気に入っている。知り合いなのかと聞いた事は記憶に新しいが、お互い首を横に振っていた。だがレイヴンのあの目は昔から知っているような目だ。それに嫉妬したのもまだまだ記憶に新しい。
「おっさんの見立てなんだけどさぁ、…夢主っていつも無表情だけど、ある事に関したら結構キレやすいと思うのよねぇ」
「……ある事?」
「なぁに、おじさま狡いわ。私も混ぜて」
そう言ってジュディスも話に混ざって来る。怪訝そうにユーリは尋ねるとレイヴンはウインクをしながら答える。答えの内容にはどこか納得出来たが、レイヴンの仕草に軽く怒りを覚えた。
「仲間が、やられてる時とかね」
すると出入り口を見ていた男が外の声を聞いてピクリと動いた。外にも仲間がいるのか何やら騒がしい。だが何かその雰囲気に似合わない、鼻歌が聞こえる。怒鳴り声ばかりで鼻歌が聞こえたり聞こえなかったりする。しかし、それと一緒に生々しい音が混ざる。
怒鳴り声は徐々に悲鳴に変わり、最後には鼻歌だけが残る。出入り口を見ていた男は顔色を真っ青にしている。だが男だけではない。カロルも顔色を真っ青にしていた。
エステルは歌っているのが誰か分かったのか安堵したような笑みを浮かべて縛られているというのに出入り口に向かって身体を乗り出す。
「………ん?」
ガチャガチャと扉が揺さぶられる。どうやら鍵が掛かっているようだ。外からでは夢主が何をしているか分からない。しかし夢主の見た目からしたら、男の仲間が鍵を持っていて探っているだろう。誰もがそう思っていた。
「……失礼する」
ドカンッ
爆発音に似たような音。正確には夢主が出入り口を蹴破った音だ。
大きく重そうな出入り口の扉は数メートル離れた男の元まで吹っ飛んで来た。どうやらここは外に比べて薄暗かったようで突然入って来た光に、眩しくて皆は目を細めた。
その一瞬だった。
光を背負うようにして立っていた夢主は、男に一気に接近して顔を鷲掴んだのだ。いつも冷静な夢主の荒々しい行動に全員眩しいのも忘れて目を見張った。
ただ、1人レイヴンを除いて。
ギリギリと嫌な音が耳に入る。夢主は相変わらず無表情だったが、纏う雰囲気がいつもと全然違う。
「仲間が、世話になった」
かなりキレてる。しかも、目がギラギラ光ってる。
ミシミシと嫌な音が聞こえる。そして男の悲痛の声。
「引き取って、よろしいかな?」
男が痛みで涙を流しながら頷く。それを聞いた夢主はパッと男を放すと男はその場に尻餅を付いた。だが夢主は男を見ようとせず真っ直ぐ仲間に近寄って来る。そしてしゃがむと、縄を解き始めた。
「平気か?」
「はい!夢主、ありがとうございます!」
そう言ってエステルは夢主に抱き付く。夢主は皆が無事なのを確認すると、うっすらと優しく笑った。
「おじさまの言う通りね」
「だな」
「何がだ」
夢主が知りたそうに見て来るがユーリもジュディスも「内緒」と言って立ち上がり、震えている男に一発拳を入れる。
夢主はレイヴンに目を向ける。レイヴンはいつものように食えない顔をして、ウインクをした。
「夢主ちゃんは、仲間思いの可愛い子ちゃ、」
「さぁ、帰ろう。今日の食事は私が作る」
「わぁ!私、夢主の料理楽しみです!」
「久し振りの夢主の手料理か。楽しみだな」
「私は初めてだから楽しみだわ」
「お、美味しいなら何でもいいわ…」
「あ!待ってよ!ボクを置いてかないで!」
「夢主の手料理!うちはおかわりしまくるのじゃ!」
「ちょっと、おっさんの話は最後まで聞く!」
レイヴンは切ない声を上げたが、夢主を何だか愛しそうに見ていた。