短編
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「ユーリ・ローウェル、ラピード。勉強の時間だ」
そう言ってユーリは夢主に捕まった。
理由としては2つ。
1つは皆に頼まれたのだ。前線を戦う2人は魔法を使わない。ラピードは分かるがユーリはただ反りが合わないというだけで魔法を諦めてしまっている。しかし前線で戦う者、回復魔法の一つでも覚えて置くべきだ。皆がそう思い夢主に頼んだのだ。しかも、随分と前からユーリの親友であるフレンからも頼まれていたとあっては断り切れない。
そしてもう1つは、夢主の意志だ。今日の戦いを見ていて、夢主にはユーリは何だか危ない戦いをしているように見えたのだ。しかも自己犠牲をしているように見える。同族嫌悪かもしれないが何だか自分と同じような戦いをしているユーリを危惧し、せめて傷を自分で癒せるようにと夢主も思ったのだ。
ユーリは最初、訳が分からないというような顔をして、嫌そうな顔をした。
「意味分かんねぇ。ってか、夢主。アンタ俺が魔法を学べないって知ってんだろ」
しかし夢主は問答無用というようにユーリの首根っこを掴むと、ズリズリと違う部屋に移動した。ラピードはユーリとは違い一つ吠えると2人の後を追い掛けて行った。そんな2人と1匹を皆は手を振って見送る。本来ならエステルが教えれば良いのだろうが、エステルの教え方は本の文を吸収し、それを少し砕いたような教え方。それはユーリには合わないだろうと思い博識な夢主が選ばれたのだ。
*******
まずはエステルの教え方で説明するが、ユーリは首を何度も傾げるだけ。ラピードも殆ど変わらない反応だ。夢主は一つ溜息を吐いた。そして今度は自分なりな解釈を付け加えた説明をする。それを説明して行くとラピードは分かっているのか目の色が変わったように見える。だがユーリは未だにうんうんと呻いて分からねぇ…、と言っている。
「ラピードは分かったか?」
「ガウッ」
「じゃあ簡単なテストだ」
そう言って差し出したのはラピード専用に作られたテスト用紙。作ったのは夢主。まずは初級という事でかなり簡単な問題作りとなっている。
しかしラピードは字が書けない上に読めない。そのため、夢主はラピードに「合っているなら1度吠えろ」と言って問題を読んで行く。そんな様子をユーリは酷く面白くなげに見ている。
そしてラピード専用のテストが終わると合格基準の正答数を出せたのか、夢主はラピード褒め頭を撫でる。
「やれば出来るじゃないかラピード」
「ガウッ」
「この調子だ」
そう言って夢主は片膝をつきラピードと目線を合わせてやると、ラピードはベロンと夢主を舐めた。夢主は相変わらず無表情だが、長く一緒にいるせいかユーリには夢主はくすぐったそうに見えた。実際くすぐったいのかあまり声色を変えず夢主は「くすぐったいぞ」と言った。
自分の想い人が動物で相棒とはいえ、雄と戯れていると思うとイライラする。ユーリは勉強を完全放棄して、机の上に足を乗せながら踏ん反り返った。
ラピードは部屋に戻って行き夢主は、さてとと言って行儀の悪いユーリを見た。そして机を挟んでユーリと向かい合うように座る。だがユーリは勉強を完全放棄しているため、そっぽをむいたままだ。
「ユーリ・ローウェル。勉強を続けるぞ」
チラッと見てからそう声を掛けるが、ユーリは全く言う事を聞かない。呆れたような、そんな無表情をしながら(矛盾してるが、まさにそんな感じ)、ユーリを見ていた。
「ユーリ・ローウェル」
咎めるように優しく呼ぶがユーリは相変わらずそっぽをむいている。夢主は溜息を吐いて、開いていた本のページをトントンとつついた。そして何かを思い出したのか、珍しく小さく笑った。それが気に食わないのはユーリだ。夢主がいきなり笑ったため、ムッとして夢主を見る。その視線に気付いたのか夢主はユーリを見た。
「何笑ってんだ。…あぁ、歳とると思い出し笑いするって言うもんな」
バカにするように言う。微かに構って欲しいと言っているようにも聞こえるが。
「このページ、」
「ページ?」
そして何か昔を思い出すように遠い目をしていた。
「フレン・シーフォもこのページが分からないと言って、私に習いに来てな。こうやって教えたと思ってな」
「ふーん…」
目を細めてユーリは夢主を見る。だが夢主は気付かない。まるでその記憶を慈しむように遠い目をしている。
フツフツとどす黒い何かが沸騰を始める。夢主の表情がまるでフレンに好意を抱いているように見えて。
確かにフレンは夢主を思ってる。親友である俺に牽制する程だ。だが夢主の予想だとフレンはエステルを好いてると激しい勘違いをしている。
だというのに。
自分の元とはいえ主人が好いてる相手を好きになっているのか?不毛な恋だ。
そんなモノ捨てて、
「俺を好きになれよ」
「何か言ったか?」
「なんでも」
ぶっきらぼうにそう返せば、夢主は何だかキョトンッとしたようだった。そして何か考えるように顎に手を当てる。考えがまとまったのか微かに優しく笑った。
「ユーリ・ローウェル」
「なんだよ」
「キチンと勉強して、テストも合格点をとるようなら」
私が何かご褒美をやろう。
夢主がそう言うとユーリは食い付いた。足を退けて、ずいっと乗り出す。夢主は相変わらず無表情なまま。
だが微かにニヤリと笑っているようにも見える。
「何でも、なんだな」
「あぁ、何でもだ」
だからやれ、というようにトントンと指でつついた。ユーリは分かったと言って嫌いな本と向き合う。それを見た夢主は満足そうだ。
ユーリは一回出来ないと思った事は2度としたがらない。だが、騎士団に居た頃何かと賭け事をしていたのを夢主は見た事があった。
「なぁ」
「何だ」
「もし……もしも、俺がアンタと付き合いたいって言ったらどうすんだ」
ユーリは怖々と言った。まるで告白して居るような気分だった。告白などたくさんされ、それなりの回数をして居るというのに。夢主は顎に手を当てて、何か考えるような仕草をしてから、一言。
「……それも良いな」
ズルッとユーリは滑ってしまった。まさかそんな事を言われるとは思っていなかったのだ。拍子抜けな一言を言った夢主はそんなユーリを見て何だか楽しそうだ。肘をついて、トントンと本をつつきながら、他人が見ても分かるぐらい慈愛の笑みを浮かべた。
「ユーリ・ローウェルと一緒なら、この先の面白そうだ」
楽しげに笑いながら言う夢主。ユーリは何だか嬉しくて、ハッと笑う。
「アンタのこの先を面白く出来るのなんて俺だけだっての」
「そうかもな」
さぁ問題を続けよう、と夢主は催促する。何だか嫌いな勉強が楽しくなって来た。ユーリは乾いた唇を舐めて、まるで目の前にご馳走がある獣のような目をしながら夢主を見た。
「了解、夢主先生?」
最後の一言を言わせたいがために頑張りましたが、…。全然ダメでした。
20091026