短編
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
星喰みを倒して、世界に平和が訪れた。私は、騎士も主人の側近も辞めた身だ。帝都には戻れない。私に流れる血に従い、今度こそ旅に出ようと思ったら、ユーリ・ローウェルに止められた。…いや、皆と言うべきだろうか。俺たちの目が届くところに居ろ、と言われてしまった。で、悩んでいたらユーリ・ローウェルが下宿している【箒星】の女将さんが、良い物件があると教えてくれた。
そこが今、私の住む部屋だ。作りはユーリ・ローウェルの部屋にとても似ている。
日の入りはとても良く、女将さんにはとても感謝している。という事で、夜は【箒星】の手伝いを、昼間は困っている人の手伝いをしたりしている。最近は【凛々の明星】…いわゆるユーリ・ローウェル達が近くに来たら【箒星】で食事をして行ってくれていて、楽しい。女将さんもよく感謝してくれている。
だが、今日は休みをもらって部屋で寝ている。女将さんに休む原因と現状を言ったら、休みなさいと言われてしまったからだ。今日は昼間には特に予定もなかったから良かったが…。【箒星】の手伝いを休むのは、やはり嫌なものだ。休んだ原因は女性が月に1度来るやつのせいだ。下腹部に直接手を突っ込まれ掻き混ぜられるような感覚。生まれてこの方、ここまでひどいのは初めてだ。ベッドの中で腹を抱えるようにして丸くなって、必死に痛みに耐える。冷や汗が流れる。女将さんと会った時など、顔色が悪すぎと言われてしまった。
痛み止めを飲んで、随分経つがなかなか引かない。しかももう夕方。これでは明日に響いてしまいそうだ。
「………ぁ…」
いや、いけない。明日は約束があるんだ。差し込む夕日を見ると、窓に鳥が止まっているのに気付いた。いつもの鳥だ。ここに下宿し始めてから、この時間になるとこの鳥が止まっている。いつもなら、【箒星】の手伝いに行く前に彼に餌を与えているのだが、今は痛みで起き上がる事もままならない。身体を動かそうと、シーツを掴んで痛みを紛らわしながら起き上がろうとする。しかし、力が入らない。
あぁ、これじゃあまるで陸に上げられた魚のようではないか。
「っ、」
酷く緩慢な動きで起き上がると、窓枠で待っている彼に餌を与えようと思ってベッドから降りようとする。だが、脚から力が抜けて、間一髪手をついたが、危なく顔から落ちるところだった
何とか立ち上がって、彼の餌があるところに行き皿に入れて、フラフラになりながら窓へ行き、皿を置くと待ってましたと言わんばかりに食べ始めた。
腹が減っていたのか、すまない事をしたな。
腹を撫でながらまたベッドに戻り、倒れるようにしてベッドに寝転がる。そういえば、私が【箒星】で働き始めて、まだ彼に会ってないな。ダングレストに行くと言って、そのままだった。……構わん、身を固めるような女の子を見つけたのだろう。私は、女として見られてはいなかったようだしな。
『おっさんね、10年前からずっと夢主が好きだったのよ』
ダングレストに向かう間際に言い残したあの男の言葉が頭を掠める。あぁ、なんて女々しい。こんなんではいけない。きっとこんな気持ちになるのは痛みのせいだ。早く治してしまわねば。再び布団の中に潜り込んで腹を抱えるとギュッと目を瞑った。女々しい、なんて女々しい事だ。痛みで、感情が流されて、寂しいと思ってしまうなど。大体あの男だ、今頃女性に刺されない程度でデレッとしているだろう。
そう思うと寂しいと思うより、怒りが沸いて来てさっさと眠る事にした。
*******
意識だけが浮かび上がる。
誰かが私を撫でている?
………しまった、窓を閉め忘れた。そこから侵入させてしまったか…。泥棒か?早いとこ潰しておく必要があるな。だが、腹が痛い……。……いや、先程よりは痛くはないからいける。
そう思い私を撫でる手を掴むと「ぅおっ!」と声がしたが敢えて無視。捻りそのままベッドに倒し、私が上に乗る。どこのどいつだ、それにしても下町の誰かの家でなくて良かった。私なら取り押さえられるか、…………。
呆れてしまった。私の部屋に侵入した奴は焦ったように笑い、空いている方の手を軽く上げて「ギブ」と言っている。軽くイラッと来て、更に力を込めてやった。いっその事このまま関節を全く違う方へ曲げてやろうか。
「……何故ここに居る」
「いやぁ、青年達から聞いてね、店に遊びに来たんだけどいなかったから来ちゃった」
音信不通だった、レイヴンだ。
ユーリ・ローウェルから聞いたのか。余り教えるなと言っておいたのだが…。何か引っ掛かる気がするが…。まぁ良い。
だが不法侵入には変わりない。
更に力を込めてやるとレイヴンは慌てる。そして私を見上げる。
「ちょっと待った!おっさんの腕が変な方へ、いだだだだっ!」
私はリタ・モルディオのように優しくはないからな。本気でこの腕の関節を外してやろうか…。ミシミシ音を立てる腕を見てレイヴンも本気で慌てたのか、私を突き飛ばして逃げた。レイヴンは「助かった…」と言っていたが私は、助かってない。突き飛ばされ、ベッドから落ちて倒れた衝撃で忘れていた下腹部の痛みを思い出した挙句、激しい鈍痛がぶり返して来た。あぁ、やっと痛みが引いたというのに、無理をし過ぎたか。それとも、レイヴンに暴挙を振るいすぎたか。どの道、今後悔しても腹の痛みは引かない。唇を噛み締め、痛みを紛らわしながら何とか起き上がり、ベッドに戻る。
………何でレイヴンが私のベッドの隅にいるのか知りたいが。
「……食事は摂らないの?」
「……摂れないだけだ」
「何で?風邪?」
それならどれだけ良かった事か。声には出さず心の中で呟いた。
「食べても、吐いてしまう」
痛みのせいで食欲がない上に無理やり食べても吐いてしまう。水分だけは何とか摂っている、女将さんが水ではいけないと言ってオレンジジュースを置いて行ってしまったが。布団に潜りながらそう説明する。だがレイヴンからは返事がない。
何なんだと思い、チラッと見たら、何やらこの世の終わりみたいな顔をしていた。またわけの分からない勘違いをしているに違いない。そう思うと何だか頭も痛くなって来た。いい歳の男が一体どんな勘違いをしてるのやら。ふぅ、と一息ついて眠ろうと思い目を瞑った。するといきなり激しい衝撃がきた。上に乗っかられるような衝撃だ。痛みに追加してその衝撃で、ひゅっと息を吸ってしまった。いきなり何だ?と言おうとしたら、必死な形相をしたレイヴンが顔を近付けていた。
「どこの誰だ!?」
しかもシュヴァーンに戻ってる。近い所で叫ばれて耳が痛い。それにしてもレイヴン。今変な事を言わなかったか?どこの誰ってどういう意味だ。
「何がだ」
「相手だ!」
「何の」
「腹の子!」
………何をどうしてどう勘違いしたのかさっぱり分からない。なぜ私が妊娠している事になっているんだ。呆れたようにレイヴンを見れば、今度は肩を掴まれ、揺さぶられる。腹が…、腹が痛い。ついでに言えば胸が張っているから痛い。揺さぶられ、腹が痛くて返事が出来ない。
「青年?!それともフレンくん?!まさか嬢ちゃん!?…大穴でデュークとか!?下町の奴!?少年は……、無理か…」
「おい」
「きっと青年だ…、ずっと夢主の事狙ってたし。でも…妊娠だなんて…」
「おい」
「いや。例え種は青年でも、俺は夢主の子なら愛してみせる!」
変な決心をしているレイヴン。しかも私の声が聞こえてないようだ。一つ溜息を吐いて、レイヴンの股間を思い切り蹴り上げる。レイヴンは余りの痛みで股間を押さえながら私の胸に顔を埋めて私の上に倒れ込んだ。圧迫されて腹が痛いのだが。腕を付いて何とか起き上がると、未だに痛みで震えてるレイヴンを見て、また溜息が出た。
「生理痛だ、妊娠ではない。大体勝手に私を妊娠させるな」
「だっ、て…!」
ガバッと顔を上げる。しかも泣いてたみたいで胸元が冷たい上に湿ってる。なかなか酷い顔だ。ユーリ・ローウェルが見たら大笑いモノだな。
「気持ち悪くて食べられない上に、酸っぱい物を食べるなんて…、まるで悪阻じゃない!勘違いもするわ!」
「人が説明しようとしてるのに、レイヴンが聞こうとしないからだ」
そう言ってやったらグッと黙って私の上から退いた。だが痛みは引かない。痛くて再びベッドに寝転がる。呼吸をするのも辛くて苦しそうに呼吸をしたら、頬を撫でられた。
「何か、俺に出来る事ある?」
手が、暖かい。そう思ったらその手を掴んで腹に押し当ててた。あぁ、気持ちいい。痛みが和らぐ…。何だかよく眠れそうで目を瞑ったら、何やらレイヴンが安堵の息を吐いた。
「良かった、夢主が妊娠してなくて…」
「当たり前だ。大体、私はヘタレ男の滑り止めなのだからな」
「………誰それ!?」
今度は危なく腹を掴まれそうになって慌てて手を離させる。全く、無自覚らしい。それとも自分はカッコいいなどと思っているのか。眠たい意識を喧しい声によって止どめられ、イライラする。
だが、それ以上に笑いが止まらない。眠たくて手を離させていた手の力が緩んで、力無く布団の上に落ちる。レイヴンは寝るなだの答えてだの言ってる。これでは答えるまで寝かせてはくれなそうだ。
「私の、言葉に一喜一憂している、目の前にいる男だ」
そう言ったら声が止んで、その一瞬を付いて私の意識は睡魔に飲み込まれた。
後からユーリ・ローウェルに聞いた話だと確かに【箒星】で働いている事は教えたが、住んでいる場所は教えてないと言っていた。どうやって知ったのか私には分からず終いだ。
そしてレイヴンは今度は【凛々の明星】の手伝いをするからユーリ・ローウェル達と一緒にいると言ってまた居なくなった。
「妊娠、か」
【箒星】の手伝いに向かう前、私はいつもの鳥に餌をやりながら呟いた。
「……有り得んな、そう思うだろ?」
そう言って鳥を撫でてやったら、ピィッ!と返事するかのように一鳴きした。
ヘタレなレイヴンが書きたかったんです!カッコいいレイヴンが好きな方、すいません…!