短編
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久し振りの宿。明日はどうするとか皆して話し合っていた。私は彼らに行き先を任せるため特に話し合いには口を出さない。それにしても、流浪の民とは随分と嫌われていたというのに、何というか…随分皆には懐かれた…と思う。最初は不安だったが、今では十分充実している。
そんな事を思っていたら裾を引っ張られた。何事かと思いゆっくりと振り向いたら、パティ・フルールが眠たそうに私の服を掴んで凭れていた。
そういえば今日は戦闘で随分と頑張っていたな。疲れていたんだろう。そう思いながら「寝るか?」と尋ねると眠たそうに頷かれた。返事をする余裕も無いか。パティ・フルールを抱き上げると気持ち良さそうに擦り寄られた。
「夢主、どうした?」
ユーリ・ローウェルが神妙な顔をしながら言った。
「パティ・フルールが眠いそうだ。部屋で寝かせて来る、話し合いは続けていてくれ」
そう小さく言って抱き上げたまま立ち上がり、部屋から出た。あの部屋は男達が寝る部屋。女の子の部屋は少し離れた場所にある。そこまで行き、真っ暗な部屋に入るとパティ・フルールをベッドに寝かせた。ここまで運んで来るまでに眠ってしまったのか、正常な寝息を立てている。布団の中に身体を入れてやり、頭を軽く撫でてやる。こんな穏やかな気持ちはいつ振りだろうか。それにしても、パティ・フルールは私に随分と懐いてくれているな。
そういえばこの間誕生日が近いと言っていたな。旅の途中だ、豪勢なモノはあげられないが何かあげたいな。
そう思いながら部屋を後にして、皆が話し合ってる部屋に戻る。そしてドアノブに手を掛けたら何やら声が聞こえた。
「そういえばさ、夢主って怖いよね…」
………カロル・カペル。そんな事を思っていたのか。いや仕方ないか。
「いつも無表情だし、サバサバ敵を倒してるし」
「あー…、それはちびっこに賛成。夢主ってちょっと…怖いわよね」
リタ・モルディオか…。仕方ない、十人十色とも言うしな。誰かが好きなら誰かが嫌いと言っても仕方ない。
「そんな事無いです!夢主は優しいですよ!」
エステリーゼ様…。そういえば今日は随分と頑張って居たな…。早く眠られると良いが…。
「…エステル知らないの?流浪の民の事」
カロル・カペルの言葉に全ての思考が止まった。アレクセイと対峙した時に奴が漏らしたのだろう。だがそんな事よりもカロル・カペルが流浪の民と言った時の声の方が、私には怖かった。そして痛かった。全身の血がまるで逆流しているかのようだった。
「流浪の民…?文献では少し書いてある程度です…」
「流浪の民っていうのはずっとずっと昔から結界の外で旅をしている民達の事だよ。目的も無くただ彷徨い歩くんだ。始祖の隷長とも、これは分からないけど魔物とも交流があったとも言われてる。
だから皆、流浪の民を"恐"を持ったんだ」
そう。
我々は昔から結界の外で生活をしていた。目的があるわけじゃない。私たちはただあるがままの自然に全てを委ねるために旅をしていたのだから。
魔物と交流は無かったけど、始祖の隷長との交流はあったようだ。
そしてそんな結界の外で生活している我々は普通の人よりかなり強くなった。いや。育てられたと言うべきだろうか。
だから私は結界の中の生活をしてとても驚いた。同じ世界なのに、生活はこんなにも違うのかと。私たちの民は何故過酷な結界を外を選んだのかと。
「何故です?恐れる必要なんてないです、確かに魔物と交流があるのはびっくりしますけど…」
「流浪の民は回復魔法の武醒魔導器は持ってたけど、武器としての武醒魔導器を持って無いのに、魔物と普通に戦えたんだ」
「私みたいにナギーグを持っているんじゃないかしら?」
ジュディスの声。何だかいつもより怒っているように聞こえた。
「違うみたいだよ。だから騎士団も人間も皆流浪の民を怖がった。だから、流浪の民を未だに差別してる村や街も少なくないんだ」
私たち流浪の民も、騎士団や人間を怖がった。ただ放浪しているだけなのに、噂が尾ひれを付けて1人歩きを始め、化け物と罵られ…。私たちの民もたくさん殺された。魔物じゃない、人間によって。
知られたくなかったな…。
「そう考えたら、夢主って怖いと思わない?武醒魔導器を使わないで魔物を倒してるんだよ?今日も魔物をたくさん倒してたし…。仲間をこういうのもなんだけど…、」
化け物みたいだよ
傍から見ても分かるぐらい身体が震えた。唇を噛み締めてドアノブを掴んでいた手を血が滲む程に握る。久しぶりの罵り文句が、胸を抉った。慣れていた筈なのに、無視したら良いだけなのに。耐え切れなくなって急いでその場から離れて、宿屋から出た。苦しい、痛い。傷がある訳じゃないのに、怪我がある訳じゃないのに。まるで肺を抉られてしまったみたいだ。仲間だと思っていた奴に化け物と言われた。分かっていたじゃないか、人間と私たちじゃ違うんだって。何を悲しむ必要がある夢主。お前に仲間がいる訳ない。私は化け物なんだ、化け物で良いじゃないか。無表情を得たのは帝都に入ってからだったじゃないか、人間に隙を見せないために。今まで通りでいい。好かれようなんて思っていないのだから。
そう思ったから頭が不思議と冷静になった。顔から力が抜ける。無表情だ。
これで良いんだ。瞼の裏に黒い長髪のアイツが浮かんだが、頭を振って消し去った。
*******
今日は次の村で皆は宿で休んでいる。私は、村に入れない。あの村はかつて私が幼かった頃に激しい迫害をされた場所だ。私と一緒にいては皆が疲れた身体を休めない。そう思い私は野宿をすると言って皆から離れた。2人にとったらそっちの方が良いだろう。化け物が近くに居ないのだからな。パチパチと燃える火に薪をくべる。野宿は慣れている。大丈夫。
「…夢主!」
呼ぶ声がした。声がした方を見るとパティ・フルールが笑顔を浮かべながら駆けて私に飛び付いた。今日は珍しく魔物の返り血なんて浴びたから「汚れてしまうよ」と言った。と言ってもすぐに洗い流したから乾いてるし、血も取れているが。
「そうなのじゃ!夢主!誕生日のプレゼントの事なんじゃが、」
「あぁ、何が欲しいんだ?高いモノは買ってやれないが、言ってみなさい」
そう言って頭を撫でてやれば満面な笑みが私を見上げて来る。そしてその満面の笑みが言った言葉に私は、何も言い返せなかった。
「うちは次の街でユーリと夢主に挟まれて歩きたいんじゃ」
「………は?」
「この間の街で親が子供と一緒に手を繋いで歩いているのを見たんじゃ!だから」
ユーリ・ローウェルとパティ・フルールを挟んで手を繋ぎながら歩く?想像しようとした手前昨日の言葉が蘇り、想像なんて出来なかった。想像するのも悪いと思ったからだ。もちろんユーリ・ローウェルがだ。
親子…。パティ・フルールが子供でユーリ・ローウェルが父か…。
二つ返事などしてやれなかった。
「……ジュディスやエステリーゼ様はダメなのか?」
そう聞いたらクシャッと悲しそうに顔を歪ませるパティ・フルール。そんな顔をしないでくれ。これはパティ・フルールやユーリ・ローウェルのためなんだ。私は"化け物"なんだ。2人の隣を歩く権利など私には無い。
「ジュディ姐でもエステルでもダメじゃ!夢主が良いんじゃ!夢主がお母さん役なんじゃ!」
「…悪いが、私には無理だ。どちらかに頼んで、」
パンッ。
頬を叩かれた。今まで叩かれた中で1番胸に響いて、1番痛かった。
「夢主は嘘つきじゃ!」
パティ・フルールが走って行った。最低だと思う反面、これで良かったんだと思う。約束をした時なんでもいう事を聞いてやるって約束したというのに。破ってしまった。でももし次の街で流浪の民の差別があって私を覚えてる奴が居たら、何をされるか分からない。
ジンジン痛む頬を軽く撫でる。明日にはきっと腫れてしまうだろう。荷物の中から武醒魔導器を取り出し回復魔法を唱えて、傷を治す。ジンジン痛んだ頬から痛みが消える。私は最低だ、パティ・フルールとの約束をどんな理由があれ破ってしまった。胸の痛みは一向に引きそうにない。服の上から胸元を掴んで、焚き火の前で脚を抱えて座った。顔を膝に押しつける。まるで胸に鉛が詰まってしまったようだ。
「夢主」
いきなり呼ばれて顔を上げたらユーリ・ローウェルが居た。
「……何か用か」
「いーや、パティがさっき泣きながら通って行ったからさ」
そう言ってユーリ・ローウェルは私の隣に座った。
「珍しいな。夢主がパティとケンカなんて」
ケンカ、か…。そんな簡単なモノなのだろうか。
「……私が、パティ・フルールとの約束を破ったからだ…」
「約束?」
不思議そうにユーリ・ローウェルが聞いて来た。だから何があったか全て話した。そうしたらユーリ・ローウェルはふぅんと相槌を打つだけ。あの時あの場所に居たユーリ・ローウェルには納得のいく話だろうな。
「夢主のとこに行く前に俺にも頼んでたぜ?」
「そうか…、悪かったな」
「何が」
「私みたいな化け物と、並んで歩きたいなんて…、パティ・フルールにちゃんと説明しておくべきだった。嫌な思いをさせてしまっただろう」
「全然」
むしろ嬉しいと思うぜ?
ユーリ・ローウェルは訳の分からない事を言ってのけた。嬉しいと思うぜって…、化け物と並んで歩く事が?おかしいんじゃないか?だって化け物だぞ?もしかしたらギガントモンスターだって武醒魔導器を使わずとも倒せてしまうかもしれないような奴とだぞ?…あぁそうか、ユーリ・ローウェルは優しいからな。嫌な事を嫌と言ってやれないのか。無理などしなくても良いというのに。
「何かすげぇ疑われてる気がするんだけど。言っとくが俺は本気で、」
「もう、いい」
これ以上、そんな事を言われても同情にしか感じられない。自分でも驚くくらい冷たい声で「帰れ」と言った。私たちが一体人間に何の害を与えたというんだ。何故私たちが結界の外を旅しただけで差別されなくてはいけないんだ。何故私たちの生き様を、否定するんだ。
こんな事ユーリ・ローウェルに言ってもただの八つ当たりだ。溢れる怒りと悲しみ、そして悔しさを飲み込んで目の前で燃える焚き火を見ていた。
人間の気持ちも分からなくはない。だが、私たちも同じ人間じゃないのか?
「……アンタ、自分が化け物って思ってんのか?」
「聞こえなかったのか、帰れと言ったんだ」
「アンタは、化け物じゃない」
「帰れ、ユーリ・ローウェル」
そう言ったがユーリ・ローウェルは帰ろうとはしなかった。だから私がどこかに行こうと思い、腰を上げた瞬間強い力が私の腕を掴んだ。掴んでいたのは紫暗の瞳を真っ直ぐ私に向けるユーリ・ローウェル。振り払おうにもその力が強すぎて振り払えなかった。
「アンタはッ、人間だろ!」
どれだけ望んだか分からない言葉が出た。ゆっくりとユーリ・ローウェルを見る。
「確かに魔物を魔導器無しで倒せるかも知れないが、アンタ今どんな表情してるか分かるか?!」
悲しそうで苦しそうなんだよ!
ユーリ・ローウェルが悔しそうに言った。グイッと引っ張られ、ユーリ・ローウェルに抱き締められる。びっくりして離れようとするがやはり力じゃ敵わない。胸に耳が押しつけられる。あぁ、心臓の音が聞こえる。
「化け物が、そんな顔する筈無いだろ…。それに夢主、アンタさっきからパティとの約束破ったって言って後悔してるじゃねぇか。化け物なら、感情なんて持たない、ただ破壊衝動しか持たねぇよ」
髪を撫でられる。あぁ、気持ちいい。
「アンタの悲しそうな顔、嫌いなんだよ。俺は、そんな顔させないように守りたいんだよ、アンタを」
何だか必死に張り付けていたモノが全て剥されて行くようだ。身体から力が抜けて、ユーリ・ローウェルの服を掴んでいた。
「…私たち民は、魔物と交流なんて、した事無い…」
呟くように、まるで願うように小さく言ったらユーリ・ローウェルは私を包み込むように抱き締めてくれた。
「分かってる」
ユーリ・ローウェルはただ「分かってる」と言っていてくれた。短くてぶっきらぼうな返事だったが、それがとても嬉しかった。嬉しくて、涙が出そうになった。
「夢主、ちょっと、悪ぃ…」
そう言うとユーリ・ローウェルは私を放して、口許を押さえながら焚き火を見ていた。何やら顔が赤い気がする。何かと思いながら顔を覗き込むとユーリ・ローウェルは眉を顰めながら小さく「カッコ悪ぃ…」と言った。
いきなり格好悪いって、何なんだ。しかも顔が赤いし、赤井のは見間違えかも知れないが。
「あー…、あのさ夢主。俺がさっき言った言葉、本心だから」
さっき、…。
私と並んで歩くのが嬉しいと思うぜ、って奴と俺は本気で、って奴か?
「ありがとう」
そう言ったらユーリ・ローウェルは私の顔を見てとても驚いていた。全く失礼な奴だ。人の顔を見て驚くなんて。そんな事を思っていたら、ユーリ・ローウェルが頭を抱えて「あぁあ~~ッ!」と唸った。近所迷惑になるぞ、そんな声出すな。そうしてユーリ・ローウェルはガバッと立ち上がった。こんなに忙しい奴だったか?違った気がするが気のせいか。そんな事を思っていたら、ユーリ・ローウェルはしゃがみ込んで、再び「あぁあ~…」だの唸る。一体何なんだ。今度は。何か言いたい事でもあるのか。
「弱ってるとこ突くようでなんかフェアじゃない気もするけど、限界だ」
ユーリ・ローウェルが顔を上げて私を真剣に見ながら言った。なんだ一体、というか帰らなくて良いのか。こんなとこじゃ回復するモノもしないぞ。
「俺、夢主が…、」
********
夜が明けると皆が慌てて村から出て来た。そりゃあユーリ・ローウェルが帰らなかったからな。心配もするな。だが何故、皆して私のとこへ来る。ユーリ・ローウェルはあっちだ。
昨夜のあの時、魔物の大群に襲われ、随分大変な目に遭った。いや、何より大変だったのは珍しくキレたユーリ・ローウェルを抑える事だろうか。だが、彼が言いたかった事は何となーく、分かった気がする。
そして次の街に着いたら、ユーリ・ローウェルと一緒にパティ・フルールと手を繋ぎながら歩いた。パティ・フルールはとても喜んでいた。
夜になるとジュディスが教えてくれた。あの晩私が居た事に、私の態度を見て皆が気付いたらしい。…分かりやすいんだな、私は。
ちょうど私が走り去ったあと。
「カロル、リタ。それ、お前らもアイツらと同じ。夢主達を殺した人間と変わらねぇぞ」
「そうね、今日の戦闘だって私たちを援護してくれてたわ」
「それに、今日1番夢主に守られてたの2人だろ」
と何やら挽回のような事をしてくれていたようだ。だから今日は2人に謝られた。取り敢えず、パティ・フルールと歩いてる時にユーリ・ローウェルを見て、あの時の返事をして置いた。目を点にして、恥ずかしそうだったが、幸せそうにも見えた。
長くなりそうなんでここで切ります。私のヒロインは精神面が弱い…。