短編
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戦闘を終えて、一息ついたユーリ達。野宿をして素晴らしい朝を迎えようとしたが、目覚まし変わりに彼らを起こしたのは奇襲して来た魔物。見張り番をしていた夢主とユーリが慌てて応戦して皆を起こさなければ、今頃想像したくないような未来になっていただろう。ユーリは少々傷の負った頬をグイッと裾で擦る。先程アップルグミやレモングミ、ミックスグミなどを体力に消費してしまったからアイテムを使うのは惜しい。
「みんな無事かー?」
ユーリは剣を納め、皆に声を掛けながら辺りを見回した。
「えぇ、平気よ」
「おっさんも大丈夫よー」
「はい、平気です」
リタも続けて「平気」と素っ気なく返し、ラピードも一つ吠える。なかなか彼らも頑丈なようで傷は少ない。だがチビッ子2人と夢主からは返事が無い。それどころか3人の姿自体が見当たらない。残った皆は顔色を蒼白にした。但し、1番心配するべき相手は1人だ。しかも皆それぞれが微かながらに下心を抱いている。皆して四方八方に分かれ大声を張り上げる。
「夢主ーッ!どこだぁあああっ!」
「夢主、返事をして下さーいッ!」
「夢主ちゃーんッ!おっさんの心臓止まっちゃうから出て来てお願ーいッ!」
「バウル、夢主を探して!」
「ちょっとガキンチョ!ふざけて無いで夢主を返しなさいよ!」
最後の辺りは完璧に濡れ衣だが誰もが聞いちゃいない。とにかく皆は夢主の身の安全が最優先事項のようだ。夢主はよく魔物に襲われる。流浪の民の血のせいか、はたまた魔物を引き寄せるようなフェロモンがあるのか。そのため単体でよく戦闘に巻き込まれている。
しかも、全て自分で背負ってしまうから尚悪い。
いつだったか前には、最後尾を歩いていた夢主の姿がいきなり見えなくなった。慌てて引き返し少し戻ったところで、魔物と戦闘しているところを発見した。(しかし、敵が弱ったのか夢主が強かったのかかなり押していた)
だが、こんな事は日常茶飯事。酷い時は重傷だというのに、回復を頼んだりアイテムを頼もうともしないのだ。確かに夢主は回復魔法を少々使える。しかし、自分で回復もせずしているから悪い。あれにはパーティーメンバー全員驚いたモノだ。
それにしても、タフなのかバカなのか分かったもんじゃない。
するとガサガサと草が不自然に揺れた。パーティーメンバーはハッとして音がした方を見る。緊張が走る。敵かもしれない。警戒心を抱きながらも、夢主かも知れないという期待が断然強かった。そして草を揺らして出て来たのは、
「すまない、遅れた」
パティを横に抱き抱えた夢主だった。パティは何とも不服そうな顔をしているかと思いきや、少し恥ずかしそうだった。だが夢主は気付いていないのか、パティを優しく下ろすとエステルに目を向けた。
「足を捻ったようなので回復を」
「あ、はい!」
「ユーリ・ローウェル。すまないがパナシーアボトルはあるか?一つ貸してくれ」
「お、おう…」
そう言ってユーリは夢主に向かってパナシーアボトルを一つ投げると、草むらの向こうへ消えて行った。あまりに手際の良さと、今まで行方不明だった者とは思えないぐらいの態度に半分ぐらい呆然としてしまった。するとパティは眉を顰めてソワソワし出した。それは決して、トイレに行きたいとかそういうモノではない。何かを黙っていろと言われたのだろう。言いたいが言えない、そんな感じだ。それに気付いたのはユーリだった。
「どうした?」
「ユーリ、ちょっと耳を貸すのじゃ」
回復途中だというのにパティはグイッとユーリの服の裾を引っ張る。ユーリは「なんだよ」と言いながら屈むと、パティは耳にコショコショと話した。それを聞いたユーリは目を見開いて、そしてムッとした。すると草むらの向こうから夢主とカロルが出て来た。パナシーアボトルを使ったという事はカロルが何か異常状態だったのだろう。
「ふぅ、結構数が多かったね…」
「とか良いながら3人の中で1番傷を負って無いわね」
「そ、それは…!」
ずいっと不機嫌顔を近付けるリタにカロルは冷や汗を流しながら視線を背けると、夢主は笑ってリタとカロルの頭を撫でた。それに驚いて2人は顔を上げる。
「カロル・カペルはエースだからな」
そう言うとリタは顔を真っ赤にして「わ、分かったわよ!」と言った。夢主は中性的な顔をしているから、リタは最初彼女を男と間違えてしまった。未だにそれが抜けていないようだ。だがそんな夢主を怒りで目を細めたユーリが見ていた。
******
「行って来ます!」
「気をつけて」
そう言って夢主は、皆を見送った。街に到着して宿を取ったが、夢主は買い物には出ようとしなかった。カロルとパティは心配そうだが、2人に内緒というように鼻の前で指を立てて「しー」と言った。皆を見送り、その背中が見えなくなると、ドッと冷や汗が出て来た。苦しそうに息をしながら夢主は割り当てられた部屋に向かい、部屋に入るとベッドに俯せになった。
「ッ…!」
背中が、痛む。傷の事を彼らに言わないのは信頼していないからでは無い。むしろ十二分な程の信頼を寄せている。だからこそ、足手まといにはなりたくない。1人で旅をしたり、全く知らない赤の他人となら放って置ける。しかし、今はエステルやユーリ、レイヴンや皆と旅をしているのだ。
結局のところ、こうでもしないと自分の居場所が無いみたいで苦しいのだ。
「臆病者め…」
重たい体を起き上がらせ、手当てをしようと服を脱いだ。しかし、痛みで五感が緩んでいたのか気配を感じ、近くに立て掛けていた刀を握って振り返る、が夢主は侵入者が誰だが分かると力を抜いてしまった。
侵入者は夢主の肩を掴んでいる。
「……ユーリ・ローウェル…。皆と買い物には行かなかったのか」
「パティから聞いたぞ」
戦闘中。パティは宝箱を見つけて一目散にそちらに駆けて行った。それを見つけたのはカロル。カロルはパティを止めようと追いかけ、宝箱の前を陣取っているパティを連れ戻そうとした。しかし、どうやら魔物の縄張りに入ってしまい、しかもそれは集団のようで、近くにいた。襲われそうになった2人の元へ、追いかけて来た夢主が慌てて参戦し。夢主は2人を庇いながら戦った。
パティは足を捻った時、夢主はパティを庇った。背中の傷はその時のものだ。
そして同時にカロルも異常状態になった。何とか勝ったものの、夢主は激しく体力を消耗していた。
そして、傷を隠し2人を引き連れその場から急いで離れた。
これがユーリがパティから聞いた真実だ。
「……はぁ…」
バレてしまった、と言うかのように夢主は重たそうに溜息を吐いた。だがそれがユーリの怒りを逆撫でした。肩の骨がギシリっと軋んでしまうぐらい強く握った。
フツフツと沸き上がるはそう簡単に納められそうにない。身体中が熱くなる。力の加減が分からない。服を脱いだ夢主の身体は服を着ている時よりずっと細く、華奢そうだ。もし、ここで更に力を入れてしまったら折れてしまうんじゃないか。そんな考えは頭の片隅から、思考外にされた。
「もし、あそこで殺されてたらどうすんだ!」
「死なないようにしている。私だって、バカじゃない」
「仲間が近くにいるのに頼りもしない。傷を受けたのに黙ったまま。…俺たちは頼りないか…?」
切なそうにユーリが言うと、夢主も悲しそうに眉を顰めた。違う、私はそんな顔をさせたいんじゃない。私が犠牲になる事で、お前達が笑っていれば。笑ってくれてさえすれば傷の一つや二つ、痛くはない。たとえそれが見えない傷だろうとも。
「パティやカロルを助けてくれたのは、礼を言うけど。そこでアンタが死んだら、…俺はッ…!!」
この想いはどうなるんだ、その言葉は夢主の痛みを絶え切れなかった声によって阻まれた。放置していた背中の傷が本格的に痛み出して来たらしい。唇を噛み締めて痛みに耐えている。
「ッ……ぃ…」
慌ててユーリは手を放して夢主を起き上がらせ、下着を捲り上げると背中を見る。引っ掻き傷のようだ。随分深くやられている。だが他にも幾つか見当たると、悲しそうに眉を顰める。
まざまざと守れていないという事を自覚させられるからだ。既に用意してあった救急箱から、消毒セットを取り出し手当てをしていく。帰って来たエステルに治してもらえば良いのだろうが、夢主はエステルに傷をあまり見られたくないようで、この傷を受けてからずっとエステルに背を向けようとしない。
「ユーリ・ローウェル、頼りに、している…。だが、頼り方が、分からない」
今まで1人だった。何でも1人で出来るようにならねばいけなかった。だからこそ今、心では頼っていても行動として頼れないのだ。
それを聞いたユーリは驚いたように目を見開いて、だがしかし不敵に笑った。器用にガーゼを張り、包帯を巻いていく。
「だったら、絶対俺の側から離れんな。そして傷を受けても俺だけには話せ」
「ッ、今日みたいな事が、あったら、?」
「その時は俺に言え。声張り上げて止めてやる。まぁ今回の事で、2人は随分懲りたみたいだけど?」
よし出来た、そう言ってポンッと背中を叩いてやると、夢主は何だか恥ずかしそうなむくれた顔をしていた。それが夢主があまり見せない表情の一つで、可愛くてユーリはプッと噴き出した。いきなり笑われて夢主は頭に岩が降って来たようにガンッとショックを受ける。そして下着を整えて、服を着る。そうしてしまえばいつもと同じ無表情な夢主に元通りだ。だがいつもの無表情でも結構ショックが滲み出ている、何とも悩ましい表情。こんな夢主はなかなか見れない。かなりレアだ。写真の1枚でも撮って仲間に自慢してやりたい。だが、この表情は俺だけのもんだ。他の奴なんかに見せてやんね。そんな事を思いながらユーリは笑っていた。
いつも無表情な人が照れたり、悲しがったり表情を変えたりすると可愛い。